好きになった相手と交際に入ったばかりのころは、よく思われたいがために本来の自分を出さずにいるのは、誰しもあることだと思います。お見合いシーンでも然りで、仮交際から真剣交際に入ったり、成婚が決まったり、入籍したりとステージが変わった途端に、それまで隠していた秘密を打ち明けたり、性格が豹変したりする人たちがいます。今回は、そんなお話しです。
「そのことは、親しくなったら告げます」
結婚相談所のプロフィールには、特定の宗教を信仰しているかどうかを記載する項目があります。最近は何かと新興宗教が社会問題になっているので、お相手選びをするときに信仰している宗教があるかないかを気にする人も多いのです。
結婚相談所に入会する場合、独身証明書、身分証明書、収入証明書、学歴証明書(短大卒以上)、資格を有する職業の場合は資格証明書を提出していただいています。ただ、宗教に関しては、ご本人の自己申告となっています。
さとえさん(41歳、仮名)は、宗教があるかないかのチェック欄には、 “なし”にマークを入れていました。そして、いくつかのお見合いをした後、とおるさん(45歳、仮名)と交際に入り、順調に関係を築いていました。
ところがあるとき、とおるさんの相談室から、お怒りの電話がかかってきたのです。仲人さんは、言いました。
「そちらの女性様、宗教をなさっていますよね。プロフィールの宗教欄は、“なし”になっていますが、どういうことでしょうか。相談所のお見合いと安価のアプリが一線を画すのは、情報に偽りがないことが生命線ですよ」
仲人さんの怒りは止まりませんでした。
「当該会員は、“真剣交際”に入りたいと考えていて、その打診をしたようです。そのときに、女性様が新興宗教を信仰している話をされたと言っていました。そもそもそこの信者さんだったら、お見合いもしませんでした。お見合いをしてこれまで交際してきた時間が、ウソをつかれていたことで全て無駄になってしまいました」
さとえさんが新興宗教を信仰していると言うのは初耳でしたので、私もびっくりしてしまいました。電話を切って、急いでさとえさんに連絡を入れました。とおるさんの相談室から、宗教を信仰していたことを隠していたことでクレームが入ったことを告げると、「はい、その宗教を信仰しています」というのです。そこで、「プロフィールの宗教欄には、それを記載しましょう」というと、さとえさんは言いました。
「私が信仰している宗教は、間違った報道や風評によって、誤解されています。それを最初に出してしまうと、まずはお見合いが組めなくなる。お見合いからお付き合いに入って、私という人間を知ってもらったときに、私の口から宗教のことは告げるので、プロフィールはこのままでいいです」
ただ、信仰している特定の宗教があるのに、そこを“なし”としておくのは、プロフィールの偽りになります。そのことを告げると、さとえさんは言いました。
「わかりました。では、退会させていただきます」
こうして、辞めていかれました。大手結婚情報センターの中には、宗教の欄をそもそも設けていないところがあります。ただ私が属している協会は、その明記があるので偽りを入れておくわけにはいきません。
信教の自由は、憲法でも謳われています。ですが、最初は隠しておいて親しくなったら告げるという考えはいかがなものでしょうか? 告げられた相手がどんな気持ちになるか、そこは相手の立場に立って考えたらわかることだと思うのです。
「突然母親と同居と言われても!」
とみえさん(38歳、仮名)は、いちろうさん(42歳、仮名)から秋にプロポーズをされ、それを受けて成婚退会していきました。その後、2人でご挨拶にも来てくださり、仲睦まじい様子に私も幸せのお裾分けをしていただいたようで、とても安心していました。
ところが年明けに、「婚約は破棄しました。もう一度そちらに戻って活動をしたいです」という連絡が入ってきたのです。事務所にやってきたとみえさんは、ソファに座ると涙を拭いながら言いました。
「プロフィールに、同居は“なし”になっていたじゃないですか。ただ、お父様がすでに亡くなっていてお母様もご高齢だったので、お付き合いしているときから、結婚後にお母様をどうするかは気にはなっていました」
その話をすると、決まっていちろうさんは言ったそうです。
「母は、年金で悠々自適に暮らしているし、『あなたが結婚しても、一人で暮らすわ。お嫁さんに気を遣って暮らすなんて、まっぴらごめんよ』と言っているから、同居はないよ」
いちろうさんのご実家は、木造の一軒家。そこにお母様は一人でお住まいのようでした。
お元気で矍鑠(かくしゃく)としていたお母様ですが、あるとき玄関先でつまずいて転び、起き上がることもできずに1時間以上も冬の寒空の下にそのままの状態。そこを近所の人に発見されて救急車が呼ばれ、病院に搬送されたというのです。足の付け根を骨折していました。
いちろうさんは、「思っていたよりも母親は老いていた。その母を一人にはしておけないから実家を2世帯にして、そこを新居にしたいんだけれど、どうかな」と持ちかけてきたというのです。
突然の提案に、とみえさんはすぐに返事ができませんでした。これからどんどん老いていく義母。数年後には、介護が待っているかもしれない。「介護をしながら、仕事が続けられるだろうか」と言う不安も頭をもたげました。
「そんな正直な気持ちを言うのは、冷たい人間のように思われる気がして」
ですが、暮れに入院していた病院を見舞い、そこで看護師さんとやり合っているいちろうさんのお母様を見て、「私は、この人とはうまくやっていけない」と思ったようです。
「どうしてお願いしたことを、すぐにやってくださらないの?」
「私、あなたのこと(看護師さん)は好きじゃないの。別の方を呼んでくれない?」
「病院食って、何を食べてもまずいわね」
口を開けば文句を言ったり、ネガティブな発言をして、聞いているとみえさんのほうが看護師さんや病院のスタッフの方たちに申し訳なくなったというのです。
また、結婚が決まってからというもの、いちろうさんの言動も変わっていきました。
「それまで、デート場所や食事をするレストランなど、“どこがいい?”といつも私を気にかけてくれていたのに、結婚が決まった途端、彼の要望ばかりを押し付けてくるようになりました。実家を建て直してお母さんと暮らすことも、もう決めてしまっていて、事後承諾のような感じでした」
そして、とみえさんが自分の意見を言うと、あからさまに機嫌が悪くなり、だんだんと喧嘩も絶えなくなっていきました。
「結婚前って、ウキウキして楽しいはずなのに、毎日ため息ばかり出てきて。そんな私を見かねたのか、母親が、『結婚は一生のこと。今そんな気持ちなら、考え直したほうがいいんじゃないの』って、言ってくれたんです。それで、私も胸のつかえがスッと取れました。せっかく決まった結婚を辞めるとなったら、親も悲しむと思っていたんですね。でも、親の言葉に婚約を破棄することにしました」
そして、そのことを告げようとしていたら、その前に、いちろうさんから、「婚結婚は、考え直したい」と言ってきたそうです。そのとき、こう付け加えられました。
「こんなに思いやりがなくて、頑固な女性だとは思わなかった」
その言葉はショックでしたが、結婚がなくなったことには、胸をなでおろしたそうです。
「あんなところで働けない。仕事は辞めてきたわ」
ゆうきさん(40歳、仮名)は、1年ほど前に、ちえさん(35歳、仮名)と成婚し、退会していきました。その2か月後には、新居も決め、引っ越しも済ませ、入籍をして夫婦となりました。
ところが、新婚生活は、たったの5か月で終焉を迎えることになりました。
「離婚したので、もう一度、婚活をしたいです」
そう言ってやってきたゆうきさんに、何があったのかをたずねました。ゆうきさんは言いました。
「入籍した途端、人が変わってしまったんです」
まず、入籍した1週間後に、何の相談もなく仕事を辞めてきたそうです。
「彼女は公務員で仕事は安定していたし、休日出勤もほとんどない。産休も取りやすい。家計を2馬力で回していたほうが、金銭的に楽になるだろうと思っていました」
なぜ辞めたかといえば、「職場の人間関係がうまくいっていなかったから」だと言うのです。
「だとしても、やめる前に相談してくれてもいいと思うんですよ。それに『次の仕事はすぐに探す』と言っていたのに、一向にその様子もない。そして、何を言い出すかと思ったら、『心理カウンセラーになる』と。そのカウンセラーになるための養成講座を60万円出して、契約してきたと言うんですよ」
その講座を終えて、カウンセラーとして独立できたとしても、公務員時代の給料と同じ金額が稼げるわけがありません。
「もうひとつびっくりしたのが、公務員だったはずなのに、貯金がほとんどなかったんです。一人暮らしをしていたらから、生活にお金がかかるのはわかるのですが、贅沢をしなければ細々とでも貯金はできたはず。よくよく聞いたら、料理教室に30万払ったとか、着付け教室に20万払ったとか、話し方講座を40万で受けたとか、教室や講座に行くのが大好きだったんです。それじゃあ、お金なんてたまりませんよ」
そして、仕事もせずに1日中家にいるのに、夜ゆうきさんが家に帰っても、夕食の用意もされていない。ちえさんは自分の部屋にこもって、ずっとパソコンでゲームをしたり動画を見ていたりしていたそうです。
「これでは、結婚生活が成り立たない」
喧嘩も絶えなくなり、話し合いの末、離婚をすることになりました。
真剣交際に入る、婚約をする、結婚をする‥‥。それまでとは、違ったステージに入ったときに見えてくるパートナーの一面というのは、多かれ少なかれあると思います。遠慮していて出せなかった一面が見えてきたときに、それを話し合って、うまく軌道修正できるかどうかが、その後の分かれ目。
関係性が近づくほどに遠慮もなくなっていきますが、どんなときも相手への思いやりと尊敬の念が大切ではないでしょうか。
鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。新刊『100日で結婚』(星海社)好評発売中。公式サイト『最短結婚ナビ』 YouTube『仲人はミタチャンネル』