「僕は不器用なので自分の中に一度全部取り込まないと演じられない」という鈴木が、役作りのため初めて取材したのが高山さんと30年来の友人で本記事を担当したライター。'21年7月に映画にも出演するドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダと一緒に都内カフェで対面して以来の再会になった。
「あのときは僕が取材する側だったから、成田さんに取材されるのは変な感じですね(笑)」
映画『エゴイスト』主人公を演じる演技派・鈴木亮平
幼いころから「おかま」といじめられ、漁港のある田舎町を捨てて上京し、ゲイとして自分らしく生きられるようになった雑誌編集者の浩輔。30歳を越えて緩み始めた身体を鍛えるため出会ったパーソナル・トレーナーの龍太と惹かれ合い……。
2020年に亡くなったエッセイスト、高山真さんの自伝的小説が原作の映画『エゴイスト』が2月10日に公開される。主人公の浩輔を演じるのは、役柄によって体形も雰囲気もガラリと変える演技派俳優の鈴木亮平。
「題名からエゴイストの人の話かと思って小説を読んだら、むしろ逆で自分の愛を“エゴなんじゃないか?”とずっと反芻している人の話。読み終わって“これはいい作品だな”と思ったのですが、主人公の2人がゲイである作品を自分がやることで、ゲイに関する間違った情報や偏見を与えたり、ステレオタイプを助長しないよう慎重にやらないといけない、とても責任が重い仕事だなと感じました」
悩んだものの映画の製作スタッフにLGBTQ監修がつき、友人役にゲイをキャスティングするなどのサポートもあって役を引き受けることを決め、いつも行っている役作りのための取材を開始したという。
「リサーチすればするほど自分の中で役への愛着も責任も湧いて、中途半端ではできないなという気持ちになるので、そこはいちばん僕が大事にしていることです。
高山さんは同じ大学の先輩だったり、愛とエゴについて考えていたり、自分の心情を常に俯瞰で見て言語化しようとする癖などが似ているなと思って、なんだか他人に思えなくて(笑)。でもそのままやるとただのモノマネになってしまって人物としての生々しさが出ないので、思いとか背景とか、小説に書かれていないバックグラウンドみたいなものを自分に取り込んだうえで、寝かせて何が出てくるかなというところを目指しました」
映画の試写を見てくれた人が長文のメッセージを
小説だけでなくエッセイやブログなどにも目を通し、友人や仕事の関係者への取材やゲイの方たちとの座談会などを重ねた。さらにひとりで電車に乗って高山さんの実家まで足を運んで家族に話を聞き、墓参りもするなど20人以上の関係者に会って作り上げたという浩輔役は、生前の高山さんを知る人の間で「会ったことがないはずなのに、どうして?」と驚かれるほど生き写しと話題だという。
「生きていらしたら高山さんひとりに話を聞けば済むことが、お亡くなりになられていたので……。でもいろんな方にお話を聞いたことで、多面的に捉えることができたんじゃないでしょうか」
物語が進むにつれて浩輔は龍太と関係を深めるが、龍太が病気がちな母・妙子との生活費を男たちに身体を売って稼いでいることを知る。中学生で母を亡くしたときに何もできなかったことが心残りになっていた浩輔は、専属の客になって龍太を独占し、龍太親子の毎月の生活をサポートすることで亡き母への思いも取り戻そうとする。苦しくても幸せな生活が続くかと思った矢先、突然の出来事が浩輔を襲い、物語は思わぬほうへと動き出す。
「映画の試写を見てくれた人が、みんな長文のメッセージをくれるんですよ。それぞれハマっているところが違うけど、本当にびっくりするくらい反応がいいです。“説明できないけど、めちゃくちゃよかった”という感想もいただきました。映画では愛情とか、献身とか、家族や親子の関係とか言葉にするのが難しいことを描いているので、取材でいろいろと聞かれるけど説明しづらいんですよね(笑)。
僕には僕なりの解釈があるけど、でもそれが正解では決してなくて、どんな解釈でも正解だと思う。だから映画を見た人が何に感動したかで自分自身についての新たな発見がある作品かなと思います。“愛って……!?”ということを考えながら見ていただきたいですね」
キャリアの折り返しひとつひとつが勝負
3月29日の誕生日で40歳を迎える。30代最後の昨年は舞台『広島ジャンゴ2022』で気弱な青年と馬の二役に挑み、話題を呼んだドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』では野心家のジャーナリストなど幅広い役柄を演じてきた。
「年をとることに抵抗はないけど、40歳はキャリアという面で折り返し。自分のやりたいことへまっすぐにシフトチェンジしていかないと間に合わないぞと思っています。自分の人生が終わるときに何が残せるのか、逆算して考えることがコロナ禍以降に増えた気がします。これからはひとつひとつの作品が勝負。自分の人生の集大成だと思って失敗を恐れず、いろんなチャレンジをしていきたいです」
映画のクランクインは主演ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の撮影後すぐだったが、緩んだ身体にするためお腹をパンパンにふくらませる努力も。
「体形を変えるのはこれまでにも経験がありますけど、さすがに時間がなくて(笑)。
実は『エゴイスト』は、お互いに役者と監督を目指していたときから知り合いの松永大司監督から最初に声をかけられたのが2019年。それから温め続けて'21年の秋に撮影をして、ようやく今年、僕の30代最後に公開される映画です。僕の中ではとても大きなプロジェクトだったので、ぜひ皆さんに見ていただきたいです」
4月28日には劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の公開が控える。来年にはネットフリックスが全世界独占配信する映画『シティーハンター』の主人公・冴羽獠役に決まるなど、これからも活躍から目が離せない!
俳優&スタッフ信頼のアドリブ
撮影では、監督から渡される指示書のメモをもとにアドリブで演技をするシーンが多くあったそう。
「作品にもよりますけど、僕らが演技として目指すところは、自分の心から出てきた言葉が結果セリフになっていることなんです。浩輔役として生まれたセリフなら何でもいいから、そのままその場所で生きてくださいと任されるのは、すごい集中力を使うしプレッシャーもありますけど、同時に監督やスタッフが俳優を信頼してくれている証拠。役者が演じることにリスペクトしてくれる現場でしたね」と鈴木。