「オファーをいただき、まずびっくりしました」
宮本武蔵に横浜流星、 佐々木小次郎に中村隼人(29)。演出に堤幸彦。“新解釈”で展開される舞台『巌流島』の幕がいよいよ上がる。
“萬屋錦之介なのに小次郎?”と言われています(笑)
「僕の大叔父である萬屋錦之介は'60年代、宮本武蔵の役を映画5部作で演じていますから。そのときの佐々木小次郎は高倉健さん。
歌舞伎界の中には“宮本武蔵は萬屋錦之介”というイメージを持った方々が多いです。だから“萬屋といったら武蔵なのに、小次郎をやるんだ?”なんて冗談を言われたり(笑)。
これはすごく大変だぞと思いましたが、どうして自分にこの役が来たのかを考え、オファーをお受けしました」
と中村隼人。本作は3年前、初日直前に新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされている。
「できあがっている座組に入るということは、僕も何度か経験したことがありますが、独特の空気感があるんですよね。
この『巌流島』のカンパニーに関しては最初から関わっている人の熱量や無念さは想像を絶しますし、そこに自分が入ることに怖さはありますが、僕がやるからには新しい風を吹き込めるようにと考えています」
横浜流星との殺陣「やってきたことの違いを」
「佐々木小次郎って、巌流島で一撃で倒されちゃうイメージがあると思いますが(笑)、本作ではその前に武蔵と出会い、一緒に同じ釜の飯を食っていくうちに相手の強さを知り、畏怖、憧れ、そしてライバル心へと、グラデーションのように描かれていく。すごく感情に無理のない物語になっています」
横浜流星とは初共演。ポスター撮影の日に初めて会ったというが、
「流星くんは空手の世界一ですからね。本当に“当てる”距離感を極めた人。僕は、歌舞伎で様式美に特化した立ち回りをやってきていて。
歌舞伎は絶対届かない距離で殺陣をしますが、こういうエンタメの舞台では“本当に避けないと当たる”という距離感でやらないと、お客さんもハッとしないと思う。逆に、武闘派ふたりでの殺陣だと、今度は近すぎてしまう。
舞台は後ろの席や2階からも見るものなので、やはり余白が必要。だからふたりのやってきたことの違いがぶつかると面白い立ち回りになるんじゃないかなと思っています」
では、ライバルと聞いて思い浮かべる存在は?
「きれいごとで答えるなら、昨日の自分(笑)。でも、ライバルにはいろんな意味があると思っていて。武蔵と小次郎は認め合い、高め合える存在。精神的BLというか、愛でつながっている部分もあると思う。
“この男がいちばん自分を刺激してくれた”“奮い立たせてくれた”と、どうしても求めてしまう。そういう意味で言うなら、歌舞伎俳優では尾上右近くんかな」
幼稚園のころから、一緒に駄菓子屋に通っていた仲だと微笑む。
「夢を語り合い、そしてぶつかった時期もあったけど、お互いを認め合い、やっていることを尊重して応援できるのは彼かな」
迎える30代、描く役者像&結婚
昨年11月に29歳を迎えている。20代にやり残していることを尋ねると、
「スカイダイビング!でも、なかなか機会がなくて。昨年はスキューバダイビングを始めたんですが、海に潜っていると、いかに自分の身体に力が入っているかがわかる。この感覚の気づきは、舞台に活きると思っています」
来たる30代、どんな俳優になっていきたい?
「30歳ってもっと大人だと思っていたんですよね、自分が10代のころは。先輩方はもっとバリバリ&キラキラと仕事しているイメージがあって。自分がもうすぐ30歳になるのに、ちょっと情けない気持ちもありますけど……。
歌舞伎の世界では世代交代が迫っている側面もあるんですが、やっぱり、どんな時代になろうとも必要とされる役者になりたいです」
人生の伴侶も、やはり30代のうちに?
「結婚は自分に余裕が出てからですね。結局、仕事をちゃんとできなければ、相手を幸せにできないって勝手に思っているところがあるので。慎重?めっちゃ石橋を叩きまくって渡るタイプです(笑)」
歌舞伎以外の舞台に上がるのは、本作が初。そして6月には主演ドラマ『大富豪同心3』の放送も始まる。イケメン歌舞伎俳優の飛躍に心は躍るばかり──。
2月10日(金)~22日(水)東京・明治座にて。その後、金沢、新潟、秋田、名古屋、神戸、高松、福岡で公演予定。https://ganryujima-ntv.jp/