取材に答える今井千和世校長

「翌日の朝、教室に入ると生徒たちが拍手をしてくれたんです。“先生、お疲れさま”という労いの言葉や“なんで言ってくれなかったの、一緒に会見に出て話したのに”と言ってくれる生徒もいました」

 1月19日、京都にある平安女学院(以下、平女)の教員4人が、同校の山岡景一郎理事長のパワハラにより精神的苦痛を受けたとして、理事長に計400万円の損害賠償などを求めて提訴した。

 冒頭の言葉は、理事長を訴えた教員が話したもの。

「平女は創立148年となる、こども園から大学までを備えたキリスト教系の名門女子校です。その平女で“お家騒動”が勃発するのですが、それは’21年3月に行われた高校の卒業式が発端。理事長が述べた式辞がキリスト教の教義に反する“差別的”な内容だったため、問題になったのです」(地元紙記者)

創立148年の歴史を持つ、平安女学院

 山岡理事長は式辞で5種類の人間がいるとして、“いてもいなくてもいい人”“いたらあまりよくない人”“いたら害になる人”などと発言。

「どんな人でもこの世に望まれて生まれてきた、かけがえのない存在だと説くキリスト教の教えとは、真逆な理事長の式辞を看過することはできません。保護者や卒業生からはたくさんのお叱りの電話やメール、手紙をいただきました。その中には“不登校の娘が卒業式だけはと、やっとの思いで出席したのに、あの式辞を聞いて、自分がいらない人間なのだと感じ、帰ってきて泣いています”とする内容もありました。生徒の心までも傷つけたのです」

 平女で40年以上にわたって教壇に立ってきた今井千和世校長は、そう憤る。

恫喝まがいの言葉で…理事長の異常支配

 そして山岡理事長の“異常支配”について明かす。

「何人もの教職員が山岡理事長の“パワハラ”によって学院を去っていきました。賃金は大幅にカットされ、昇給は何年もない。恫喝まがいの言葉で圧力をかけたり、気に入らない教職員には不当な人事異動を命じたりする。私もクラス担任だったとき、まったく事実でないことをでっち上げられ、懲戒委員会にかけられました。その結果、年度の途中で担任を外されたあげく、中高の校舎への立ち入りを禁じられ、物置のような部屋で、いっさいの仕事を禁じられたことがありました」(今井校長、以下同)

 山岡理事長は、多額の債務があった平女の経営立て直しのために招聘され、’03年に理事長に就任。学院を支配しようと、今井校長のように人望が厚く発言力のあった教職員を冷遇し、自らの権力を強めていった。

「教職員らが“式辞発言”に対する説明を求めた文書を理事長に提出するも回答はありませんでした。そればかりか、教頭と副校長ら4名の役職を解任。私は理事長の名誉を傷つけ、教職員たちを扇動し、理事長の解任を企てたとして“懲戒解雇”処分を受けました。懲戒解雇なんて犯罪行為をした人に出すような処分なのに……」

 この処分は翌日に撤回されたが、それが明かされたのは今井校長に解雇通知が届いた3日後である’21年7月8日のことだった。

理事長に突きつけられた懲戒解雇通知書

「詳細はわかりませんが、外部から“解雇は適切ではない”と指摘があったよう。教職員のみが出席する朝礼で、理事長は“不徳の致すところ”と式辞での問題発言について謝罪し、処分を撤回したことを明かします。そして“今後は今井校長と手を携えてやっていく”と話していました」

 しかしそれも一瞬の出来事で、再びパワハラが始まる。

《今井を信用するな》教職員らに届いた“怪文書”

「8月には話し合いで決めた人事配置を白紙に戻し、私に“次年度は人事に口出しができない立場だからな”と言うのです。’22年2月には、“すべての校長業務を副校長に移管する”と書かれた誓約書に無理やりサインをさせ、私から仕事を取り上げました。理事長に意見した教職員には昇給を決める面談をせずに最低評価をつける。私が使用していた校長室を、突然移動するよう命じられたこともありました」

 教職員たちがお互い疑心暗鬼になるようなことも起きた。

 ある教職員のプライベートに関する内容が書かれた手紙や、《今井を信用するな》などと書かれた“怪文書”が教職員らの自宅に届いたという。

 ’22年11月には理事長が代表を務める出版社が、持続化給付金を不正受給したとする疑惑も報じられた。

 冒頭の教員は、訴訟を提起した理由についてこう語る。

「私たちが大事にしてきた教育を守るためにも、理事長の独裁をこれ以上、放置することはできません。理不尽な人事や、大声で怒鳴られて脅しのような言葉を投げかけられることもありました。そのため、理事長に何かされるのではないかと怖くなり、教職員は誰も声を上げることができなかったのです。しかし、生徒たちのためにも今こそ立ち上がり、教職員が一丸となって戦うべきだと思ったのです」

 そして山岡理事長に対して、こう訴える。

「私たちの学校を返してください!」

 この思いを持つのは、教職員たちだけではない。

 1月20日、山岡理事長の解任を求める保護者、卒業生、元職員ら約5000人の署名が学校に届けられた。

 学生たちも山岡理事長による異常支配の“終わり”を求める。同校の系列大学に通う女子学生は、山岡理事長のこんな“異常行動”を明かす。

現金2万円を学生に渡して…

「昨年12月に大学の学長も務める理事長が、学内のイベントに出席したときのことです。理事長が胸元から現金2万円を出して、司会をしていた学生に渡そうとしたのです。その学生はお金の受け取りを拒みましたが、学内では理事長がたびたび“お小遣い”という名目で学生に直接、現金を渡すことがあったようなのです。そのお金を受け取ってしまう学生もいたようで……」

 そして、こんな話を続ける。

「そのイベントで、お菓子の袋詰めが配られたのですが理事長の似顔絵が描かれたシールも入っていたんです。こんなシールにも私たちが払った学費が使われているんでしょうか? だったら、いいかげんにしてほしい。人をバカにしているとしか思えません」

イベントで配られたお菓子の袋には理事長の似顔絵が描かれたシールが

 別の女子学生も、

「山岡理事長の誕生日にお祝いのメッセージを書くのを強要された生徒もいるんです。理事長室にそのメッセージを飾り、来校者に“私はこんなに学生たちに好かれている”と見せびらかしているそうです。その子は“なんであんなヤツのために書かなきゃいけないんだ”って、本当に嫌がっていました。夢を探すため、夢を叶えるために大学に入ったはずなのに、理事長のご機嫌取りをしなければいけないなんて……。私たちは理事長のおもちゃじゃないんです」

 ’21年3月の卒業式で山岡理事長の式辞を聞いた女子学生は、今も複雑な思いを抱える。

「あの式辞を聞いて、私たちが学んできたことのすべてが否定された気持ちになりました。式を終えて校庭に出たとき、“卒業したんだ”って晴れやかな気持ちになれなくて……。2年たった今も、その不快感は残り続けています。どうしてそんな人が今も理事長なんでしょうか。1日も早く、学校を去ってもらいたい」

 こういった教職員や学生、卒業生、保護者たちの思いについて、山岡理事長はどのように考えているのか。

 話を聞こうと、山岡理事長の携帯に電話をすると、

「今ね、会議中なので後でお願いします」

 と話し、電話が切れた。その後、改めて電話をすると理事長ではなく、学校職員を名乗る女性が出て、こう話した。

「山岡は学校に携帯を置いて帰宅しました。今日はこの電話に出ることはありません」

 この学校には、もはや理事長の居場所はない─。


 
山岡理事長(HPより)

 

今井校長に届いた怪文書

 

教職員の自宅に届いた怪文書

 

今井校長が山岡理事長のパワハラ行為を訴え、労働局に提出した陳述書1

 

今井校長が山岡理事長のパワハラ行為を訴え、労働局に提出した陳述書2