「突然だが、君にヘッドハンティングの話がある」「すべての未来は選ぶことから始まっている」
パーソルキャリア株式会社が運営する転職サイト『doda X(デューダエックス)』のCM。昨年開催されたサッカーワールドカップの放送でもハーフタイムなどにくり返され、現在でも頻繁に流れている。メインで起用されているのは小栗旬。そして“転職に成功した例”として、宇宙飛行士の野口聡一(元・航空技術者)、片づけコンサルタントの近藤麻理恵(元・営業職会社員)、陸上競技監督の原晋(元・営業職会社員)が出演している。
しかし、その“評判”が非常に悪い。
“気持ち悪い”と不快に感じる人が続出のワケ
《小栗がやってるdodaのCMまじで無理 人間の顔がどでかく映るの不快すぎる》
《doda XのCMが不快で不快で…ツイッターでも好意的な意見はほぼ見受けられないのに、流し続けるのはどこの策略?》
《dodaのCMホント気持ち悪いからやめて欲しい 顔を大写しにすな》
《テレ朝日本xコスタリカ戦でわかったことはdoda XのCMが気持ち悪いこと》
(以上、SNS上の声より)
CMでは小栗ら出演者たちの顔が大写しされている。なぜこれほどまでに“気持ち悪い”と不快に感じた人が続出しているのか。
「CMでモノクロ映像というのも珍しいですし、それがホラー映像を連想させ、また恐怖感を抱かせるようなものになっている。アップにしすぎているからか、特に近藤麻理恵さんや野口聡一さんが顕著ですが、すごく黒目がちに映ってしまっている。それが余計に恐怖感に拍車をかけている状況かと思います」
そう話すのは消費者心理に詳しい関西大学の池内裕美教授(社会心理学)。
「また、高画質のため顔の毛穴まで目立ってしまっている。毛穴などは自分自身でもあまり見たくない部分かと思います。さらに魚眼レンズを使ったような撮り方で、すごく“迫ってくる”ような映像となっている。顔が大きく映った映像は気持ち悪く受け取られがちで、'13年の『Kis-My-Ft2』の『キスミント』のCMも同様に苦情の声が上がっていました」(池内教授、以下同)
『Kis-My-Ft2』の『キスミント』のCMは、黒い背景に、メンバーの“顔だけ”が大きく映し出され、それがキスする表情でグルグルと回転、そしてメンバーの顔が増殖……というものだった。
「顔が迫ってくるような映像というのは、心理的に自分のパーソナルスペースが侵害されたような気持ちになってしまう人もいるかと思います。“これ以上近づかないで”という距離感は日常生活、社会においてもあると思いますが、それは映像においても同様でしょう」
「何度もくり返される」不快要素
映像の気持ち悪さだけでなく、その頻度も不快に感じている人が多数いた。
「何度もくり返されるというのも苦情が入る1つの要素です。震災時の『ACジャパン』のCMなどが代表的です。キャラクターを使っていて、最初はかわいいという好意的な意見もありましたが、あまりにも回数が多かった。『単純接触効果』といって、対象に感情がニュートラルな場合は接触する回数が多くなると好意度が高くなる理論があります。しかし、接触すればするほどその対象を好きになるのかというと決してそうではなく、人でも物でも映像でも、10回をピークにそれ以上となると好意度は増加しない、増加があっても緩やかとなるという研究があります。
単純接触効果が有効なのは、“感情”が芽生える前とされています。要するにニュートラルな感情の場合は接触することによってその対象に好意を持つけれど、“気持ち悪い”・“怖い”というような嫌悪感を抱いてしまった場合は、どんどん悪いところに目が行くようになります」
SNSなどを見るかぎり、多くの人が不快感を持ったようだった。『doda X』のCMの“意図”とは……。
「私自身、『doda X』のCMを見たときに、少し恐怖感を抱いたので、“苦情が入るかもしれないな”と思いました。こういったインパクトの強いCMは、苦情が入りやすいことが企業側もわかっているので、ここ最近はあまり見かけませんでした。そのため余計に気持ち悪いと受け取られたのではないかと思います。
しかし、その一方で“面白い”とも思いました。“やんちゃなCMがあるな”と。今はネット上で情報や感情が共有され、それが時には“企業いじめ”や“商品潰し”につながる状況があります。そのため企業側は視聴者の目を気にして慎重になり、結果、地味になったというか、挑戦的なCMが減ってきている。視聴者側に“こういうのがCMなんだ”という『枠』、すなわち固定観念があり、それに収まった当たり障りのない、小さくまとまった映像になっているような気がします。その『枠』を見事に破壊したのが今回の『doda X』。“人の顔というのはCMにおいて大体これぐらいの大きさだろう”という視聴者側の固定観念を大きく覆すことになった。炎上狙い、話題作りの要素が強かったのではないかと思いますが、その意味ではすごく成功しているCMともいえますね」
転職サイトは今、非常に増えている。
「企業側として非常に多くのサイトの中から思い出してもらうということが重要となります。良かれ悪しかれ、選択肢にあがらなければ選ばれることもない。不快に思われたり、苦情が入ったりしても、それは失敗ではない。そこから商品が買われないとなると問題にはなりますが、今回は転職サイトのCMです。CMへの不快感と自分の転職をつなげるかというと、“CMが気持ち悪いからやめておこう”とは、おそらくならないでしょう」
不快感を乗り越え、ハイクラスな転職を実現した人はいかほどか。