「真っ赤に染まる血尿を見たとき、尋常ならざるものを感じました」と当時を振り返るのは、WBA世界チャンピオン竹原慎二(51)さんの妻・香織さんだ。夫が膀胱がんとわかったときにはすでにステージ4。医師からは「最悪の場合は余命1年」と宣告された。
大切なのは「絶対に諦めない」こと
「夫は普通の人より運動量が多く、健康には自信を持っていたので『まさか』と頭が真っ白に。けれど悲嘆にくれても仕方がない、今すべきことをしなければ、と冷静に受け止めている自分もいました」(香織さん、以下同)
結婚25年目。結婚し、2人の子どもにも恵まれ、苦楽を共にしてきた同士の2人。
香織さんは、宣告後、混乱と不安に押しつぶされそうになりながらも、まずは今起きていること、今後の予定、選択肢など思いつくことをノートに書き出していった。今やるべきことが明確になると思ったのだ。
医師からは「膀胱全摘が必要」と言われたが、本当にそうなのか……温存治療をしている病院を調べ、その特徴や方針も書き出してすべての病院に電話をした。最終的にはフォースオピニオンまで受け、納得のいく医師と治療法に出合い、転院も決める。
「夫は『もういいよ』と弱気な発言も。でも私は『めげてはいけない、絶対に乗り越えてみせる』と、妻として夫のがんと闘う覚悟を決めていました」
膀胱がんのステージ別、発症後5年生存率データ
ステージ1:91.8%
ステージ2:73.2%
ステージ3:59.0%
ステージ4:17.4%
※がんメディカルサービスHPより
膀胱がんは、目で見てわかるほどの血尿で発覚することがほとんど。痛みを伴わない血尿は初期症状としてみられる症状。竹原さんはがん判明の1年も前からこうした症状があったというが、当初は違った診断が下され、早期発見にはつながらなかった。
平熱が35度台前半、免疫力を高める日々
寝る間も惜しんで猛烈な勢いでがんについて調べ始めた。ネットや本から情報を収集し、ノートに書き留めていく。夫のファイティングスピリットが宿ったかのように強靱な意志と精神力で夫のがんに集中していった。
「いろいろな情報に触れると、よいと書かれていることが別の本では否定されていることもあり、混乱する部分もあります。でも多数読むことで共通している点が見えてくることがありました」
がんが居心地悪くなる身体にするには、自己免疫力を高めることが必須だと気づいた香織さんは、その方法について徹底的に調べた。よいと思う方法は夫に伝え、夫が試してみたいというものを実践していった。
中でも注力したのが“温活”だった。がんになってから気づいたのだが、竹原さんの平熱は35度台の前半。時には34度台のこともあった。
「体温が低いと免疫機能も十分に働かないので身体の深部の温度をしっかり上げるようにしました」
生薬として効能が高い、びわの葉を使った温湿布やマッサージ、体温を上げる入浴法など、よいとされることは取り入れた。
以前は外食が多く、欧米型の食事を多くとっていた竹原さんだが、自宅での食事を増やし発がん性が疑われる添加物は排除。ご飯は有機玄米に変更、一時は肉も断った。
「にんにくやブロッコリーといった抗がん効果が高いとされる食材は毎日意識してとるように。野菜をたくさんとりたかったので、野菜のスムージーも日課として飲んでもらいました」
メンタルを整えるために「笑い」を
またメンタルを整えるために笑うことも意識した。笑いは免疫力向上にもつながる。笑える気分ではなくてもお笑いのDVDを見るなどして、気持ちをほぐすことを心がけた。不規則だった睡眠時間を整え、睡眠の質を上げたり、漢方薬を取り入れたり、呼吸法も……。まさに二人三脚の闘病。途中、心折れることはなかったのだろうか?
「やれることがあるほうが心の救いになります。やるべきことをやって出た結果なら受け入れられるから。夫も同様の考えだったと思います。余計なことを考えず、ストイックに治療に専念したことで心が弱くならず、メンタルを整える効果もあったと思います」
結果、がん細胞は小さくなり、やがて5年後、医師からついに「根治」と告げられた。
「現在もすこぶる順調です。今でも食事内容や温活は気をつけていますが、神経質になりすぎず、ストレスをためないよう日々を楽しく過ごすことも大切にしています。私たちがやってきたことは、すべてのがん患者にとって有効とはいえませんが、がん治療の選択を迫られている方のヒントになればうれしいです」
竹原慎二さんの妻・香織さんが取り入れた10のこと
がんが増殖しやすくなる低体温を改善するための温活を中心に、食事療法、睡眠、メンタルケアと免疫力アップにつながることを日々、取り入れていった。
温活ケア10選
■温浴で身体を温める
以前はシャワーで済ませることが多かったが毎日湯船につかるように。42度のお湯につかり、水分補給をしながら、体温が38度に上がるまで入浴する。生薬であるびわの葉やゆずなどを入れることも。※心臓に負担がかかりやすいので、心臓が悪い方は医師に相談を。
■びわの葉湿布をする
優れた薬効があるとされるびわの葉とこんにゃくを使った温湿布。身体にびわの葉を貼って、こんにゃくをゆでて温め、布で包んだものをのせる。じんわりとした暖かさが30分ほど続く。「こんにゃくは洗って何度か使えます」
■足マッサージをする
ふくらはぎや足裏をもんで血行を促進。ふくらはぎから太ももまで下からもんでいくと、冷たく白っぽかった足に赤みがさして、血行が改善されていくのがわかる。足裏は膀胱やリンパ腺のツボを重点的に優しくもんだ。
■漢方を飲む
がん患者によく処方される「十全大補湯」と冷えによる痛みや心身の機能低下に作用する「加工附子末」という漢方を毎朝煮出して飲んだ。「体力と免疫力を上げるために飲んでいました」
■深呼吸を意識する
深呼吸には血行促進、冷え性や自律神経の改善、疲労回復、緊張を解きほぐすなど、元気になれる効能がいっぱい。心配事や不安があると呼吸が浅くなりがちだが、「深呼吸」を合言葉に、夫婦で意識してやっていた。
■添加物を避ける
ソーセージやハムなどの加工肉は添加物を多く含むので口にしないことに。添加物の中でも特に発がん性が疑われる亜硝酸ナトリウムと防かび剤、タール色素は徹底して避けた。
■お笑いのDVDを見る
気分が滅入るときほどお笑いのDVDを見て思い切り笑うように。お気に入りは『人志松本のすべらない話』。「笑うと自然治癒力が高まるという説もあり、お笑いをがんの治療に取り入れている病院もあると聞きました」
■睡眠の質を上げる
竹原さんは膀胱の手術を受けたため、夜中でも3時間おきに排尿する必要がある。睡眠が細切れになることもあり、質のよい深い睡眠を取るように心がけた。スマホを寝室に持ち込まず、早寝早起きを徹底。
■デザインフーズを食べる
肉類をやめ、抗がん作用の高い食品といわれるデザインフーズ(にんにく、大豆、キャベツ、しょうが、玉ねぎ、ブロッコリーなど)を。量も種類も多く食べることを心がけた。スープやみそ汁、スムージーにして毎日たっぷりとった。
■薬はほどほどに
がんになる前は、市販の鎮痛剤を大量買いし、ちょっとした頭痛などに常用していたそう。「でも、薬はあくまでも対症療法。薬に頼るのではなく、根本から体質を見直し、体調を整えることに注力するように」
伺ったのは竹原香織さん
日本人初の世界ミドル級王者・竹原慎二を夫に持つ。1男1女の母。著書『夫・竹原慎二のがんを消したカラダにいい食べ物と習慣43』(宝島社)では温活方法や食事メニューなど具体的なメソッドを紹介している。
<取材・文/樫野早苗>