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「どうしてしないの?」と靴下を脱ぎっぱなし、はたまた用事をほったらかしの夫に、そんな言葉を投げかけたことはないだろうか。「夫がすべきことをしないとき、多くの妻がこの言葉を口にしていました」と、指摘するのは脳科学コメンテーターの黒川伊保子さん。「どうしてしないの?」は夫には伝わらない『妻語』のひとつだという。つい使ってしまいがちな「妻語」を使わずに夫を“操縦”するには?

「女性が男性に腹を立てたときに言うセリフを調査したところ、多くの夫婦間で同じ言葉が使われていることがわかったんです」

 と話すのは、人工知能研究者で脳科学コメンテーターの黒川伊保子さん

夫婦間のトラブル、原因は「妻の言葉」にあった!?

 妻が怒りとともに口にしがちな言葉は、「あなたってどうしてそうなの?」「自分でするからいい」「みんな私が悪いんだよね」など、18個。

「私はこれら18個の言葉を『妻語』と命名。その最大の特徴は、夫にはその意味が通じていないことで、夫の返事で妻が逆上する展開になりやすいという点です」(黒川さん、以下同)

 実は、このすれ違いは男女の脳の違いによって生じている。

「何らかのトラブルが起こったとき、脳にはすぐに起動できる2つの脳神経回路があります。1つ目が事のいきさつを繰り返し考えて、根本原因に触れようとする回路。原因を見極めることで適切な処置がとれる利点があります」

 一方、トラブルには素早く対処することも必要となる。

「それを行うのが、2つ目の今できることに意識を集中してすぐに動き出そうとする回路。どちらの回路もすべての人に備わっていますが、女性は1つ目の『事のいきさつ』回路優先、男性は2つ目の『今できること』回路優先であることが多いのです」

“いきさつ派”と“今できること派”、男女の脳の違いがトラブルに

 そのため、妻的には当然すべきことをやらない夫を見ると、『どうしてしないの?』とそのいきさつを問う。

「例えば、子どもが具合が悪そうでご飯を食べないという状況のとき、女性に多い“いきさつ派”は『おととい保育園で手足口病が出たって聞いた、風呂上がりにジュースをあげたときに嫌がっていた、口を開けてみて、やっぱり発疹が』と根本原因にたどりつく。

 男性に多い“今できること派”は『もし何かあれば病院に行こう、あそこの病院は今日は開いていたっけと調べる』と、目の前の問題をクリアしていきます」

 結果、“当然すべきこと”が食い違い、夫婦間はギクシャクなんてことも。

「こういった男女の脳の違いに起因するコミュニケーションギャップをなくすためには、夫婦どちらも言葉のかけ方や受け止め方を少し変えることが必要。『どうしてしないの?』と言いたくなる場面なら、シンプルに『やって』と言ったほうが、男性の脳には伝わりやすいんです

 要は、妻語で夫に話しかけると、伝わらないうえに自分もイライラモヤモヤする結果になるということ。そこで、ここでは妻語を使わず、夫と快適に暮らすための5つのポイントを黒川さんから伝授してもらった。

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家庭でもホウ・レン・ソウ

 夫の気の利かなさにイライラ。「あなたってどうしてそうなの?」と言いたくなるときは、どうしたらいい?

「妻は何も言わずに家事などを片づけがちですが、職場の仕事のタスクと同様に『報告(ホウ)・連絡(レン)・相談(ソウ)』するのがおすすめ。

 私は夫と1日過ごす日には『今日は原稿を2本書くけど、その合間にご飯作りと洗濯と、あとたまった新聞を片づける』とまず連絡。タスクが終われば、「洗濯が終わったから、今から新聞をまとめる」と報告もします。そこまでして初めて、夫は妻がせわしなく働いていることを理解。『新聞にひもをかけてくれる?』という相談に快く応じ、まとめた新聞を自主的にガレージまで運んでくれるようになります」

 自分の成果を誇らしげに報告するつもりで、明るく「ホウ・レン・ソウ」してみては。

頼むときは利益を強調

 妻が忙しいのに、夫はテレビやゲーム。そんなときに夫にも動いてもらうコツは?

「こういうときは、理論や理屈で攻めるのが一番。特に男性脳には、その行為で利益が上がることを強調されると納得する特性があります。ですから、『あなたが〇〇してくれたら、私は〇〇できるからすごく助かるのよね』というように、夫の行動で成果が上がることを伝えてみては」

 私ばっかり大変と責めたくなるが感情的になるのは損。信頼しているパートナーに相談する心構えで話してみる。

夫の言葉を裏読みしない

「生殖でよりよい異性を厳選するため、異性への警戒スイッチが搭載されているのが女性脳。そのため、妻は夫の言動を『これは攻撃では?』と捉えがちです」

 例えば、夫に「おかずこれだけ?」と言われると、「1日家にいて、おかずはたったこれだけ?」と責められたように感じる妻は多い。

「実は、夫の多くは『このおかずで、ご飯を食べ切ればいいんだよね?』と確認するために、この質問をしています。物事の特徴や仕様など、スペック確認をせずにはいられないのが男性脳の特性。夫の言葉はほとんどがただの事実確認ですから、妻が言葉を裏読みして、卑屈になる必要はありません」

 この場面では、「そうよ。おかずが足りないなら、ふりかけか卵がけにすれば?」と淡々と応じればOK。

家事では妻が上司

「現代はさまざまなAI(人工知能)が開発されていますが、最も作成が難しいのは家事をするAIだといわれているほど高度な作業。それを日々こなしている主婦は家事のエキスパート。ですから家事を夫に頼むときも、自分は上司で部下を育てるつもりで、夫に接しましょう

 このとき、特に注意したいのが夫にかける言葉。

「部下に『私がやるからもういい』『ほんといいかげんなんだから』などと言えば、パワハラになりますよね。夫婦間でもこれは同じ。パワハラにならないか意識して話すことで、自然に妻語は減っていくはずです。

 やってほしいことは『お願い』と『ありがとう』のサンドイッチで。気に入らないことがあったら『ここ、私はこうしてるの。そのほうが後が楽よ』というように、より良くなる提案をするように。否定文“しちゃダメ”を使わないのがコツです」

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家事分担はリーダー制に

「分担する場合、私がおすすめしているのが、家事のリーダー制。得意分野で担当を分けて、責任者になってもらうやり方で、わが家では夫が『洗濯リーダー』『ゴミ出しリーダー』『そばゆでリーダー』を担当しています」

 リーダーは自分の好きなようにそのタスクを遂行。家族に仕事を割り振る権利も。

「夫の洗濯物の干し方を見て、『ん?』と思ったことは、私にもありました。でもある日、理由を聞くと『これを先にしたほうが干しやすい』と合理的で、私より無駄がないと判明。このように家事を縦割りして、丸ごとまかせると、お互いのスキルを尊敬できるという良い効果もあります

 リーダー制を導入するとき、夫にどう言えば?

「苦手やパニック状態をアピールするといいのでは。例えば、わが家の場合、私がそばをゆでるのが下手で、夫に『やってくれない?』と頼んだのがそばゆでリーダーのきっかけ。一方、洗濯リーダーは私が仕事と家事で息つく暇もない中、外出する時間が迫り、パニックになったことがきっかけで、夫が担当してくれるようになりました」

 妻語を使わずにすむ場面を増やして、夫婦円満を実現!

 教えてくれたのは……くろかわ・いほこ ●人工知能研究者、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、随筆家。AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。

〈取材・文/中西美紀〉