堺雅人

 芸能人が売れたら出たいという番組に『徹子の部屋』(テレビ朝日系)がある。ステータスのひとつなのだろう。

 ただ、この番組は見極めにけっこう時間をかける。芸人が出演するころには旬が過ぎていて、そろそろ一発屋として消えるんだなと感じたりするものだ。

 堺雅人がこの番組に初出演したのは、2008年7月。NHK大河ドラマ『篤姫』でヒロインの夫となる徳川家定を演じた直後のことだ。この芝居は視聴者から助命嘆願の声が上がるほど好評で、それが決め手になったのだろう。

エッセイ本『文・堺雅人』に書かれていたこと

 彼は幼稚園のお遊戯会で「カベムシ」役だった話や、若いころ、タンポポを食べて野菜を補給した話をした。録画したわけではないのに内容をよく覚えているのは、その境遇に親近感を持ったことが大きい。地方から上京して早稲田大学の同じ学部に入ったものの、途中でやめて不安定な職業を選んだところに、だ。

 '09年に出版されたエッセイ本『文・堺雅人』のなかで、彼は、

《ゆくゆくは大学を中退することになり、親からの仕送りもなくなると確信していました。経済的に孤立した状態で、細々とバイトで食いつなぎ、一生定収入が見込めない、イヤ~な大人になるんだろうな、と(笑)》

 などと語っている。堺は芝居、筆者は文章だったわけだが、成功する保証もないのに大学をやめようとするときの気持ちはまさにこういうものだ。ただ、不安を覚えつつも、なんとかなると思っていたので、彼もそうだったのではないか。

 なにせ、ワセダは途中でやめてもなんとかなりそうな大学第1位だ(そんなアンケートはないだろうけど)。前出の『徹子の部屋』でも、黒柳がタモリをはじめ、早大中退の大物芸能人の名を挙げていた。実際、堺はNHK朝ドラの『オードリー』や大河の『新選組!』『篤姫』などで広く知られる存在に。その後も『リーガルハイ』(フジテレビ系)『半沢直樹』(TBS系)といった主演ドラマを大ヒットさせた。

不安をうまく楽観に切り替えて

 私生活では、'13年に菅野美穂と結婚。2年後、長男も生まれている。

 そんな堺が50歳を前に、28年間所属した大手事務所から独立、フリーになった。人生2度目の大きな転機だろうか。

 所属していたのは、芸能界において真の最強事務所ともいわれる田辺エージェンシー。早大中退の大先輩・タモリもいる。田邊昭知社長は週刊誌の取材に《引き留めてもうまくいくわけないじゃない。もう一緒に仕事なんてできないよ》とコメントしており、干されるのでは?という見方も飛び出した。

 が、堺は『日曜劇場』(TBS系)の枠で7~9月期に主演ドラマが決まっていて、そこには田辺の若手女優も出ると報じられている。独立後も古巣とはウィンウィンの関係が保たれるのかもしれない。

 それ以上に、本人がなんとかなると思っているのでは、とも感じてしまう。大学をやめてもなんとかなった、あのスリルをまた味わうのも悪くない、そんな胸中を想像するのだ。

 前出の本でも、彼が不安を漏らしているのは引用した部分くらいだ。あとは《運がいい》とか《作品にも恵まれている》といった前向きな言葉が並び、全体の内容からもどこか飄々として楽観的な雰囲気が漂う。

 要は、不安を楽観に切り替えるのがうまいのだろう。このあたりが『半沢直樹』のような逆転劇が似合うゆえんだ。今回の独立も、本人はさほど転機だとは思っていないのかもしれない。

ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。

堺雅人。文字と文字の間がかなり広い。マイペースでゆったりしているのがわかる

 

菅野美穂。文字と文字の間が狭く、角ばった文字はせっかちでまじめな性格から

 

『真田丸』打ち上げの前に行われた取材とほぼ同じ服装で会場に現れた堺

 

堺雅人主演ドラマ打ち上げ、空気を読んで朝5時まで参加

 

『真田丸』の打ち上げに参加したかっちりめコーデの堺雅人とカジュアルな大泉洋
菅野美穂(写真左から 1996年・18歳、2011年・34歳、2019年・42歳)