SNSで拡散されている“迷惑行為”動画の数々

「キャハハハ!ちょ、ホンマに!?」

 信じられない迷惑行為、いや、犯罪とも言える行為が映った動画がSNSで拡散されている。コンビニエンスストアと思われる店内で、おもむろにライターオイルを手に取っては商品が並ぶ陳列棚に向かってオイルをかけて、持っていた着火ライターで火をつける男性。

 火が燃え上がると息で吹き消しては、再び火をつけて消す行為を繰り返し、側にいた女性が笑いながら撮影した内容だった。撮影時期や場所こそ確認できないものの、もしも実際に店舗で行われたのだとしたら大惨事になりかねない、器物破損どころか放火を問われる度を超えた行為といえよう。

 他にも、制服を着た高校生と思われる女性が、「みなさん、こんにちは。○○です。今回は、こちらやってみたいと思います」と、施設内の個室トイレにてライターを着火。高々と燃え上がった火の熱を感知してか、火災報知器が作動してブザー音が響き渡る。

 同行者と笑いながら逃げようとする画面には、《このあと女の従業員がトイレきて トイレ出たら警備員立っててバカ焦りしたよね》との“テロップ”があることから、明らかに火災報知器を鳴らすことを目的としたのだろう。

 大手回転寿司チェーン店『はま寿司』や『スシロー』で確認された、迷惑行為の余波が広がり続けている。両社はすでに、そして新たに被害を受けた福岡県北九州市のうどんチェーン店『資(すけ)さんうどん』も警察に被害届を提出したばかり。

 この流れに乗ってのことだろう、冒頭の迷惑行為の他にも回転寿司店をはじめとした別の飲食店で撮影したと思われる動画が、ネットユーザーによって次々と発掘、拡散されるブームが起きつつある。

“デジタルネイティブ”の弊害なのか

 回転寿司店で、お茶の粉を口いっぱいに含んでは咽せてテーブル状に撒き散らす男性や、わざと醤油を座席にかけ回してふざけ合っているグループカレー店で無料で提供される福神漬けを共用トングで直接食べたり、ラーメン店では胡椒の容器を口に含んだりと、確認できるだけでも店舗の衛生と安全を損いかねないものばかり。

 中には《これ、やばすぎやろ》とのテロップを添えた、本人や撮影者も“やってはいけないこと”と理解しつつも実行している動画もある。では、彼らはなぜ「悪いこと」と知りつつも迷惑行為を繰り返し、また他者の炎上を傍観しながらも、動画撮影をしてSNSに投稿してしまうのだろうか。

 また彼ら若者の中には、いわゆる“Z世代”と呼ばれる2000年代以降に生まれた“デジタルネイティブ”も多く含まれている。スマホで動画を撮る、撮られることに慣れ親しみ、またSNSツールに投稿することへの抵抗のなさから足を踏み外してしまったのだろうか。

「いえ、今回の件で言えば“Z世代”という括りは関係ないと思います」とは、2013年の“バカッター騒動”も含めた、SNS炎上の背景を独自取材してきているITジャーナリストの三上洋氏。

「(炎上した動画は)ほとんどがインスタグラムのストーリーズ、もしくはTikTokも含まれていると思いますが、目的は“多くの人に見てもらってバズろう”というものではありません。その多くは“身内”にだけに見せたい、わかりやすく言えば居酒屋で友人たちに話す“武勇伝”でしょう。

 本来は、自分の仲間だけに配信したと“思い込んでいる”動画で、“こんなに悪いことしてやったぜ”という悪さ自慢のためにやったものがほとんどだと思います」

 どうやら、炎上目的でYouTubeに動画を投稿する迷惑系ユーチューバーらのように、収益を稼いだり、他者から見られたい、騒がれたいといった承認欲求を満たす行為とは種類が異なるようだ。

友人限定のはずが友人から友人へ

 三上氏によると、24時間で消えるストーリーズは元より“フォロワー”だけに配信するプライベートツールの役割が主なのだとか。そんなプライベートなはずの動画が、全くの他人のツイッターに“流出”して拡散されてしまうのはなぜか。

「配信を視聴した友人(フォロワー)は、シンプルに面白いと思って画面収録機能を使って動画を保存します。そして別の友人にも“俺の、私の友人がこんなバカなことやってるんだよ”と見せるのですが、友人の友人と言ったらもう他人ですよね。

 その人にしてみれば、“えっ、ひどい”とさらに保存されては次第にクラスや別のコミュニティーにも広がり、しまいにはSNS投稿されて炎上。またはツイッターの“炎上ウォッチャー”と言われるアカウント、たとえば滝沢ガレソ氏への“タレコミ”となり、本人の知らないうちに拡散されてしまっているのです」(三上氏、以下同)

 なるほど、迷惑行為をした本人は仲間内で盛り上がるための“ネタ”として配信したつもりが、まさか友人から友人へ、さらに不確定多数に拡散されるとは微塵も思っていないワケだ。仲間内からの他意なくして、または意図的による流出が原因か。

 さらにストーリーズを「フォロワー、仲間内だけに見せられる便利なツール」と誤解しているユーザーも多いようで、次々と出てくる新しいSNSサービスへの理解が追いつかない認識不足もトラブルを招く原因になるとも。

 では、お店や企業が苦慮する迷惑行為、はたまたユーザー側のSNS拡散を防ぐ手立てはあるのだろうか。三上氏が講じた3つの対策が次のもの。

迷惑行為をする若者はなくならない

1.“被害”にあったお店や企業側が、迷惑行為を働いた者に対して刑事はもちろん、民事訴訟を起こして損害賠償金請求をする強硬な態度を示す。そして裁判結果を公知して世に広く知らせる。

2.SNS運営会社は、迷惑行為をしたユーザーのアカウントを削除するだけでなく、電話番号やIPアドレスを把握して永久に利用停止(永久BAN)とする措置をとる。

3.中高生の“ネットリテラシー教育”をできる限りアップデート(20代はストーリーズ機能等に関しては教えられていない可能性も)させる。またインスタグラマーが他の利用者に対する啓蒙も含めて、最新の事例を紹介していく。

 とはいえども……、

「根本的な話になりますが、迷惑行為をする若者はいつの時代にも一定数はいるわけで(苦笑)、さらにSNSという装置が拍車をかけて世に広めてしまう現在の構造にも問題があります。従ってSNS側が人工知能なり使って(投稿を制限)できればいいのですが、現状では不可能ですし(今後も騒動は)なくならないのではないでしょうか」

 SNSへの投稿や拡散がどうではなく、迷惑行為をする時点でそのユーザーに問題ありなのは確かだ。

◎三上 洋さん セキュリティー、ネット事件、スマートフォン、ネット動画が専門のITジャーナリスト。守備範囲はウイルスからネット炎上まで多岐にわたる。
 
トイレ個室内でライターを持つ、制服らしき服装の女性(インターネットより、一部編集部加工)

 

個室内でライターの火をつけた女性。この後に火災報知器のアラームが鳴り響いた(インターネットより、一部編集部加工)
コンビニと思われる店内で、商品のオイルライターを陳列棚に撒いて火をつけた男性(インターネットより、一部編集部加工)

 

回転寿司店で醤油ボトルをラッパ飲みする男性(インターネットより、一部編集部加工)