在日三世として東京で生まれ、人気シンガー、クリスタル・ケイ(36)を女手ひとつで育てたシンシア(60)。小学校から朝鮮学校に進学し、学級委員の副班長を務める優等生だったが、あるとき人生を変える出会いを果たす。
シンシアの人生を変える出会い
「同級生のロミの家はスナックを営んでいて、トントンと階段を上がったところに小さな住まいがありました。ロミには7つ年上のお兄さんがいて、『レコードをたくさん持っているからおいでよ!』と言う。
当時はちょっとイキがっている男の子たちの間でリーゼントが流行っていたころで、彼らがよく聴いていたのがブラックミュージックでした。ロミのお兄さんもそんなタイプだったのでしょう。ザ・ミラクルズ、スタイリスティックス、ヴァン・マッコイと、今となってはお宝のような名盤がところ狭しと並んでいた。初めて聴いたブラックミュージックは、もう衝撃のひと言で、小学校3年生のときでした」
なかでも心奪われたのがアメリカのグループ・スタイリスティックス。「誓い(You Make Me Feel Brand New)」の世界的ヒットで知られ、日本でも高い人気を誇っていた。
「スタイリスティックスってすべてが完璧なんですよね。コンサートに行くとよくわかるけど、レコードと同じように崩さず歌ってくれる。5人いたメンバーの中で、私がファンになったのはハーブ・マレルさん。以降50年以上彼の歌を聴き続けています。放課後は毎日のようにロミの家に行き、片っ端からレコードを聴きました。
ロミの家は方向が違い、バスを乗り継ぐので帰るのに時間がかかります。けれどレコードを聴いているとつい時間を忘れて遅くなり、親に、『この子は全然帰ってこないんだから!』とよくぶたれたものでした」
親は厳しく、何かにつけ手が飛んできた。「ブラックミュージックなど不良の聴くものだ」と禁止されたが、それでも内緒で聴き続けた。
ブラックミュージック熱に拍車
「小学校6年生のころテレビで『ソウル・トレイン』が始まって、私のブラックミュージック熱にさらに拍車をかけました。初めて見たときは、あまりのカッコよさに「なんじゃこりゃ!」ともうびっくり。
放映は毎週23時25分からで、その時間になると居間に行き、こっそり隠れて見るようになりました。昔のテレビなので、チャンネルは手動式です。ガチャガチャ音が鳴らないよう、そっとボリュームを絞り、耳をぺたりとつけて聴いていたのを覚えています」
『ソウル・トレイン』はブラックミュージックを中心としたアメリカの人気音楽番組で、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダー、ジャクソン5らトップアーティストが出演した。
「小学校高学年のころはユーミンやダウン・タウン・ブギウギ・バンド、キャロル、クールス、中島みゆきさんが大人気で、みんなこぞって聴いていました。でも私はやっぱりブラックミュージックが好きだった。音が漏れないよう布団にカセットレコーダーを持ち込んでは、毎晩夢中で聴いていましたね。
勉強もそれなりにしていたので、学校では相変わらず勉強のできる優等生で通っていました。でも良い子だったのはせいぜい小学生まで。中学になるとグレ始め、成績もどんどん落ちていきました」(次回に続く)