草笛光子「わがまま放題やって『おもしろい女優だった』と言われたい」

 女優人生70年。今年10月に90歳を迎える草笛光子さん。昨年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で比企尼役を好演し話題を集めるなど、ドラマ・映画・舞台と第一線で活躍している。今も現役の女優として輝き続ける秘訣はいったい何なのか──。

「このごろどのインタビューでもそういうことをよく聞かれるのですが、いつも答えに窮してしまいます。あえて言うなら、普通に生きているからでしょう。誰かにいいところを見せようとか、無理に頑張ろうともしませんし、そのまんま生きている。それが、とっても楽なんです」

毎日、毎時、億劫と戦っています

 11回目の大河ドラマ出演となった『鎌倉殿の13人』についても、「自然に鎌倉時代の空気を感じながら、1話の最初のシーンから時代のほうへすっと寄り添って芝居できた」と語り、撮影現場でのことをイキイキと話す表情からは、演じることが“心から好きである”と伝わってくる。やはり「好きなこと」は生きがいになり、人を輝かせるということがわかる。

 元気で楽しく生きる秘訣を尋ねると、

「みなさんから、『お元気ですね』と声をかけていただきますが、私も毎日、毎時、億劫と戦っていますから、元気で楽しく生きるコツがあるなら教えてもらいたいくらいです。“生き方”を年齢とともにうまく探して、どうやったら元気に生きていけるか、どう生き抜いてやろうかと日々考えています」と答えてくれた。

おしゃれは“礼儀”と思うと楽です

 グレイヘアの代表として、80歳を越えてからシニア世代のファッションリーダーとしても注目される存在に。2018年に出版した初のファッションブック『草笛光子のクローゼット』は4万部超えの大ヒット。草笛光子という人物が幅広い世代からより支持されるようになった。

「どんな衣装がきても“エイや”っと着ちゃう、試してみる」というそのパワーは女優として培われたものなのか……。

「性分なのかもしれませんが、台本を読むように洋服を見ています。どう演じるか、が勝負なんです。地味なものを艶やかにしたくなるんですが、何も足さなくても華やかさを出せる人になりたいと、いつも思っています」

華やかなイエローのパンツルック。春らしい軽快な装いは参考にしたい!

 50~60代の読者の女性で、おしゃれをすることに億劫になってしまった人へのアドバイスを求めると、「私も何をするのも億劫になっているので、アドバイスが欲しいくらいです」と前置きしたうえで、

「おしゃれといってもいろいろありますよね。決して私はおしゃれではないのですが、今回の本(『草笛光子90歳のクローゼット』)にも登場してもらった、ご近所の犬が家に遊びにくるとなると、ちゃんと着替えて、ほんの少し薄めの口紅を塗って、うっすら頬紅をのせて準備するんです。

 相手は犬なので“私、何やってんだろう”と鏡に向かって思うんですが、礼儀ですね(笑)。おしゃれというとハードルが上がってしまうけれど、ほんの少しの礼儀と思えば楽です」

 草笛さんにとって、おしゃれを楽しむこととは?

「私はシンプルなものが好き。服もシンプルで良いので気持ちよく堂々と中身で勝負したいんです。だから、何でもない真っ白な木綿のブラウスが似合う女性になりたいとずっと思っていますね。ちょっとお利口そうに見えるでしょ(笑)。

 それで、スカーフなんかをうまく使ってみたり、アクセサリーを選んだり、それだけで印象もガラリと変わりますね。そうやって自分らしいものを着るようにしています」

草笛光子

 今でも颯爽とハイヒールを履く姿が印象的な草笛さん。『草笛光子90歳のクローゼット』の中で、「若いころ、つらいことがあると、靴を買って心を癒した」というエピソードを明かしているが、ちなみに現在は?

「今はありません。今なら負けません(笑)。お仕事ではハイヒールも履きますが、普段の靴は身体優先。転がってしまったらお仕事に影響するので気をつけています」

 靴に限らず、最近はコロナ禍で出かける機会が減ってしまって買い物にも行かなくなり、「去年は、ほとんど買い物をしていません」と語る。

「お仕事では相変わらず毎回違った洋服を着て、どう着こなすか戦っていますが、プライベートでは、洋服や靴を買う気がなくなって“おしゃれ”から遠のいてしまった気がします。

 そんな自分は女優としてダメだと思っていますが、『私はわたし』と居直っている自分もいます。年を重ねて、“たがが外れた”んです。人からどう見られたいとか、これじゃなきゃダメとか、そういったしがらみから解放されて、『いいじゃないこれで、なんか文句ある?』って。そのほうが楽ですから(笑)」

母との約束「きれいに生きましょうね」

 草笛さんが、大切にしている言葉がある。

草笛光子「わがまま放題やって『おもしろい女優だった』と言われたい」

「『週刊文春』で私が執筆しているエッセイの連載タイトルにもなっていますが、『きれいに生きましょうね』という母との約束。

 母がマネージャーだった当時の芸能界はいろいろとありましたから、決して外見のことでなく、生きざまのことなのですが、ずっと大切にしています。

 もうひとつ、『一番きれいなのは、女性の裸よ』。これも母の言葉です。

『洋服が美しいのではなくて、中身が美しいことが大切』だと伝えたかったのでしょう。着飾るよりも土台が重要だと、ズバッと教えてくれる母でした」

 最後に、人生100年時代、89歳の今、草笛さんはこの先をどう生きていこうと考えているのか聞いた。

「女優として、まだまだいい仕事がしたいです。みなさんに感動してもらえる腕のある女優になりたいと思っています。あとは、わがまま放題やって『おもしろい女優だった』と言われたいですね」

 話をしていると89歳の高齢だということを忘れてしまうような、少女のようなキラキラ感を纏っている草笛さん。気持ちの若々しさこそが輝きの秘訣なのだと実感した。

『草笛光子 90歳のクローゼット』(主婦と生活社)著=草笛光子 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

『草笛光子 90歳のクローゼット』(主婦と生活社)89歳になった草笛さんのクローゼットから50着以上を披露。年齢に負けず輝くための服と心意気が詰まったファッションフォト&エッセイはシニア世代の新おしゃれバイブル。

草笛光子(くさぶえ・みつこ)●1933年、神奈川県生まれ。1950年松竹歌劇団入団。'53年に映画デビュー。映画『老後の資金がありません』で第45回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞受賞。昨年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』比企尼役で好評を得た。映画、ドラマ、舞台と第一線で活躍。

(取材・文/井ノ口裕子)