花粉症に悩まされている人は、特定の果物や野菜でアレルギーを起こしやすいと判明している。ただでさえつらい花粉症の症状を悪化させることも!この時期、注意が必要な食材を専門医にすべて聞いた。
花粉に似たアレルゲンで口腔アレルギー症状が!!
「日本は海外に比べて、花粉症患者が圧倒的に多い。国民の4割、約2人に1人は花粉症といわれています。これだけ増えたのはスギ・ヒノキなど植林が多いことも原因の1つです。さらに地球温暖化の影響で花粉の飛散量が増えていますし、海外でも花粉症患者は増加傾向にあります」
と話すのは、食物アレルギー研究の第一人者で医師の福冨友馬(ゆうま)先生。
花粉症患者の増加とともに相談が増えているのが、花粉症患者が食物アレルギーを併発するケースだ。この症状は「花粉・食物アレルギー症候群」と呼ばれ、花粉症患者のおよそ10人に1人の割合で発症するというデータもある。
「アレルギーの原因物質を『アレルゲン』といいますが、花粉のアレルゲンと似た構造の物質が、果物や野菜類の中に含まれているんです。花粉症の人にはこれらがアレルゲンにもなるため、食べたあとに口の中でかゆみや痛みなどを引き起こすことがあります。花粉症に悩んでいる時期は、食物アレルギーも発症しやすいので注意しましょう」(福冨先生 以下同)
ただし、発症しやすい食物は、原因となる花粉の種類によって基本的に異なる。
「症状としては口の中が痛い、かゆい、イガイガ、ヒリヒリする、唇が腫れる、など。のどがかゆい、と訴える患者さんがいちばん多く見られます」
とはいえ、花粉症にかかると、必ず食物にアレルギー反応を起こすようになるわけではない。また卵や小麦、エビ、カニなどに代表されるようなアレルゲンが食物に限定された食物アレルギーとは、基本的に異なる。あくまでも花粉症がベースにある食物アレルギーだ。
「花粉・食物アレルギー症候群を起こす食材は、リンゴ、モモ、ナシなどバラ科の果物、メロン、きゅうりなどウリ科の野菜や果物、柑橘(かんきつ)系果物、大豆やピーナツなど豆科の食物です」
例えば、キウイなどには刺激の強い物質が含まれているため、人によってはアレルギーとは関係なくイガイガを感じることもある。食べたときのヒリヒリやイガイガが、花粉から引き起こされるアレルギーかは、その食べ物に対して検査でアレルギー反応があるかどうかで判断する。
どの植物の花粉が、何に対応しているかチェックしてみよう。
生の果物や野菜でアレルギーが出やすい
「花粉症と聞くとスギやヒノキがよく話題になりますが、花粉・食物アレルギー症候群にもっともなりやすいのは、ハンノキとシラカンバなど『カバノキ科』の花粉症です」
シラカンバは白樺といわれる木の幹が白い樹木で、北海道や岐阜県以東で見られる。ハンノキは北海道から九州まで日本全国に分布。雑木林や公園などで、よく目にする。
ただ、カバノキ科花粉、ブタクサやヨモギなどの「草の花粉」に似たアレルゲンは、熱や消化酵素に弱いため、口の中だけで症状を起こし、重症化することは極めて少ない。そのため、果物や野菜を生で食べるとアレルギー症状が引き起こされるが、ジャムなど加工食品で反応することは少ないという。
「スギを含む『ヒノキ科』の花粉症で、口腔(こうくう)アレルギーが出ることは少ないですが、アナフィラキシーを伴って重症化することがありますので、注意が必要です」
スギ・ヒノキの花粉症に似たアレルゲンは、熱や消化酵素に強く、体内で消化されずに全身に回るため、重症化しやすい。
では、「花粉・食物アレルギー症候群かな?」と思ったらどうしたらいいのだろう。
「いちばんいいのは原因となる食べ物をとらないこと。通年とらないことに越したことはありませんが、花粉の飛散時期は特に用心したほうがいいですね」
高齢者の場合、長年食べ慣れてきたものなので、うっかり食べてしまうことがある。
「アナフィラキシーは比較的若い人に多く、高齢者は少ないですが、持病があると重症化することがあります。高齢者のいる家庭は周囲が気をつけてあげましょう」
ちょっと口の中がピリッとしたぐらいでは放置しがちだが、症状が出たら必ず病院へ行ったほうがいいのだろうか。
「アレルギーはQOL(生活の質)疾患といわれていますので、生活に著しく支障がなければ病院へ行く必要はありません。花粉症を含め基準は『自分がつらいかどうか』で決めていい。我慢できないほどの痛みや重い症状があったら、専門医に相談しましょう」
病院選びは専門性重視、アレルギー外来へ
花粉・食物アレルギー症候群は病院選びがポイントとなる。まずはアレルゲンを特定するための検査が行われるが、専門医や熟練した医師でないと判断が難しい。
アレルギー検査は、血液中の抗体「IgE(アイジーイー)」を調べる血液検査が広く知られている。「特異的IgE」といって、特定のアレルゲンに反応する抗体の量を調べる検査だ。数値が高いほどアレルギー症状を引き起こしやすいとされているが……。
「検査結果を読み解くのは、やっかいで、数値が高くてもアレルギー症状が出ない、一方で低いのにアレルギー症状を起こすことがあります。アレルギー専門の外来で、経験豊かな医師に、血液検査と同時に皮膚テストを行い、診断してもらうのがベストです」
どうやってアレルギーに詳しい医師を見つけたらいいのだろうか。
「日本では平成26年(2014年)に『アレルギー疾患対策基本法』という法律が施行され、各都道府県にアレルギー疾患に関する拠点病院を置いています。日本アレルギー学会と厚生労働省による『アレルギーポータル』というサイトで病院の検索ができます。また、日本アレルギー学会のHPではアレルギー専門医がいる病院も検索できるので参考にしてみてください」
甘いもので症状が悪化、砂糖依存をなくす
花粉・食物アレルギー症候群は、花粉症がベースとなっているので、それだけを治療することはできない。花粉症対策が改善の基本となる。
「花粉症の症状が強い人は特に、花粉・食物アレルギーが出やすい傾向があります。まずはアレルゲンを遠ざけることが第一です。さらに、アレルギー症状を悪化させる生活習慣をやめましょう」
そのひとつは、甘いものだ。
「砂糖は炎症反応を促進し、アレルギーの悪化と関連していることが、数々の医学研究で明らかにされています。加えて、砂糖の代謝はミネラルやビタミンを使うことから、栄養バランスが悪くなることがわかっています」
少し難しい話になるが、砂糖はブドウ糖と果糖がくっついた二糖類。体内でブドウ糖と果糖に分解される。
「この果糖がよくないのではないか、と最近の研究ではいわれています。そのため、『果糖液糖』が含まれる食品も避けたほうがいいでしょう」
果糖液糖は、ブドウ糖果糖液糖、高果糖液糖、異性化糖、コーンシロップなどさまざまな名前で、ペットボトル飲料やアイスクリームなど多くの甘い食品に含まれているいわば“隠れた糖質”だ。
「今まで甘いものを断って、花粉症の症状が良くなる患者さんを多く見てきました。甘いものはお酒と同じように依存性が高いので、できればきっぱりやめること。せめて回数を減らして、お菓子を食べるのは週1回以下に制限していきましょう」
また、強いストレスも症状を悪化させる原因に。
「適度な運動、質の良い睡眠、栄養バランスのとれた食事をとり、健康管理をすることが結果として花粉症を遠ざけます。ビタミンDを含む食材をとったり、室内でもいいので軽い運動をしたり、よく眠れるような環境づくりなどを心がけてみてください」
これから本格化する花粉症の季節、体調を整えて元気に乗り越えよう!
花粉症タイプ別注意したい果物と野菜
原因となる花粉/おもな飛散時期/症状が出る果物と野菜
●カバノキ科花粉(シラカンバ・ハンノキ)/1月~6月/バラ科の果物(リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、イチゴ、プラム)・ヘーゼルナッツ・豆科(大豆、大豆製品、ピーナツ)
●草の花粉(ブタクサ・ヨモギ)/3月~10月/ウリ科の野菜や果物(メロン、スイカ、きゅうり)・トマト・オレンジ・バナナ・アボカド
●ヒノキ科花粉(スギ・ヒノキ)/1月~6月/バラ科の果物・柑橘系果物・梅干し
教えてくれたのは……福冨友馬先生 ●独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター臨床研究推進部アレルゲン研究室長。アレルギー専門医・指導医、医学博士。成人食物アレルギー研究・治療の第一人者。
〈取材・文・イラスト/ますみかん〉