1頭で60kg!パンダの食費は動物園イチ!?

 日本でもっとも最近に生まれたパンダは東京の『上野動物園』の'21年に生まれのシャオシャオとレイレイで、「4時間待ちで観覧時間1分!」なんてことも。日本人の熱烈なパンダ愛は、中国人も驚くほどだという。

 そんな『上野動物園』ではシャンシャンが2月21日、和歌山県にある『アドベンチャーワールド』のパンダ・永明、桜浜、桃浜の3頭が、2月22日に中国に旅立つことが決まった。両園は別れを惜しむ多くの来園者たちで連日賑わいを見せている。

知らなかった!パンダトリビア

 広く知られているように、野生のジャイアントパンダは中国西部の限られた山林地域にしか生息していない。

 日本では現在、『上野動物園』、『アドベンチャーワールド』、『神戸市立王子動物園』の3か所でのみパンダが飼育されているが、赤ちゃんパンダが生まれても、数年が経つと今回のように中国に旅立つケースがほとんどだ。

「日本にずっといてほしい!」と思ってしまうのがパンダファンの心情だが、『アドベンチャーワールド』副園長の中尾建子さんは「新しい命を育むためにも、返還は必要なんです」と話す。

 日本で最多のパンダ飼育数を誇る『アドベンチャーワールド』では、29年間で20頭ものパンダを育ててきた。3頭の旅立ち準備が進むなか、中尾さんに「旅立ちにあたっての本当の理由」や、わたしたちが知らないパンダの秘密などを教えてもらった。

トリビア1:なぜパンダは中国に旅立つの?

「アドベンチャーワールドでは、日中共同繁殖研究として'94年からパンダの飼育を始めました。このころ、野生のパンダは絶滅危惧種でしたが、中国のさまざまな施策によりいまでは少しずつ生息数が増加しています。

 今回中国に旅立つ3頭のうち、桜浜と桃浜は8歳の双子のメス。このまま兄弟たちと園にいてはパートナーが見つかりませんが、中国にはお婿さん候補がたくさんいます。

 中国動物園協会は世界中で飼育されるすべてのパンダを血統登録しており、何十年も先を見据え繁殖計画を立てているのです。

 繁殖した個体が新しい世代を育むことは、何より大切なこと。皆さんも寂しいと思いますが、パンダの未来のためにご理解ください」

中国に旅立つ桜浜(左)と桃浜(右)

トリビア2:人ならおよそ90歳、永明の中国での生活

「永明は現在30歳で、人間であれば90歳ほど。『永明はもうおじいちゃんだしずっと日本にいると思っていた』とのお客様の声が多く聞かれます。

 パンダ飼育における中国の研究は日本よりずっと進んでいて、なかにはパンダ専用のCTやMRIなどの医療機器を備えた研究施設も。高齢とはいえ元気なうちに、設備が整った中国に帰ることは永明にとってもよいことだと思います。

 しかも中国では永明の大好きなたけのこが1年のうち8か月も採れるとか。大好物のたけのこを食べつつ、ゆっくり余生を過ごすことになるでしょう」

中国で余生を暮らすことになった永明

トリビア3:パンダは飼育スタッフを見分けている!?

「人よりも視力が弱いので、飼育スタッフのおよその背の高さや、声の違いなどでぼんやりと見分けているように思われます。犬などと比較し、パンダの知能について尋ねられることがよくあります。

 犬が人を見分けられるのは、もともと群れで生活する動物だから。周りの者に順位をつけ、ほかの個体を識別する本能があるのです。

 一方、パンダは単独生活で、ほかの個体と過ごすのは母親が赤ちゃんを子育てしているときぐらい。だから個を見分ける必要がないのです。その代わり、おいしい竹を見分ける、犬にはない能力があります。

 動物は、それぞれ素晴らしい能力を備えています。異なる種同士で、知能の比較はできないと改めて感じます」

トリビア4:先祖は肉食!竹を食べるようになった意外なワケ

「800~900万年前にヨーロッパに生息していたとされるパンダの祖先は、もともと肉食でした。ネズミなどの小動物を食べていたようですが、260万年前の氷河期で、エサとなる生き物がいなくなります。

 ほかの動物との競争などさまざまな要因で中国の山岳地帯へ移動し、生きるために次第に竹を食べるようになったと考えられます。

 パンダが肉食動物のままなら、生存競争に勝てなかったかも。あのかわいらしい姿をいま見られるのは、パンダが竹を食べるようになったおかげですね」

トリビア5:繁殖には母親の存在が重要

「野生のメスは2~3年に一度しか繁殖しません。しかし、飼育下では、母子を3か月で分離すると母親が毎年繁殖できるようになることがわかりました。

 ただその後、メスの子どもの多くは繁殖能力のある個体に育つものの、オスの子どもではうまく繁殖に関与できる個体がなかなか育たなかったんです。

 このことから特にオスでは、母親との密接な時間が、社会性を身につけるうえでいかに重要かがわかってきました。今では、飼育下でも1~1年半は母子を離しません。

 成長して大人になったとき交尾できる個体が増え始めました。身体だけでなく、内面の形成に母親との関わりが大きな意味をもつというのは、人間と共通する部分もありますね」

お母さんの良浜と遊ぶ楓浜

トリビア6:1頭で60kg!パンダの食費は動物園イチ!?

「大人のパンダは、1日に15~20kgもの竹を食べます。与えた竹をすべて食べてくれるわけではなく、吟味する習性があるので、準備する竹は1頭あたり毎日約60kg。7頭ぶんの竹は週に1.5トンで、大阪・岸和田と京都の竹林から合わせて週4回搬入します。

 膨大な量ですが、竹は非常に繁殖力の強い植物なのでどんなに取っても無くなりません。昔は竹を建材やカゴに加工するなど有効活用していました。

 最近ではそういった風習も廃れ多くの竹林が放置されていますが、竹をパンダのエサにすることは、竹林の整備にもつながります。ただし、竹そのものは無料でも、採取と搬入にかかる費用は莫大。

 コスト面では、肉や野菜をエサとする動物よりもむしろ大変。園でいちばんかも知れません」

1頭で60kg!パンダの食費は動物園イチ!?

トリビア7:パンダを数えるには、う○ちが重要

「中国では成都ジャイアントパンダ繁育研究基地を中心に、多くの研究施設があります。中国の技術の進歩は目覚ましく、近年は遺伝子解析が主流。

 たとえばパンダには肉をおいしいと感じる遺伝子がなく、反対に甘みを感じる遺伝子があるなどあらゆることがわかってきました。

 野生のパンダの調査にも遺伝子解析が役立っています。パンダは群れを作らないので、山手線の内側ほどの広さにわずか数頭しか生息していません。広大な中国でパンダを探し回り、その生息数を把握するのは至難の業。

 そこで、落ちている“ふん”の遺伝子を分析することにしたのです。これにより、およその生息数とともに親子関係まで把握できるようになったそうです」

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(取材・文/植木淳子)