『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)に主演している安藤サクラ(36)、『リバーサルオーケストラ』(同)に主演中の門脇麦(30)、『100万回言えばよかった』(TBS系)で脳神経内科医を演じているシム・ウンギョン(28)は同じ芸能事務所に所属している。
事務所の名は「ユマニテ」。ドラマ、映画のファンなら知っているはず。僅か20人余の事務所ながら、売れっ子が綺羅星のごとく所属している。
売れっ子ばかりの芸能事務所「ユマニテ」
近年、同一事務所の女優ばかりがドラマに登場すると、「(事務所によるテレビ局への)ゴリ押し」などと声が上がるが、力のある安藤と門脇、シムの場合、そう思う人はいないはず。ユマニテはほかの女優も実力派ばかりだ。
主演映画『ケイコ 目を澄ませて』が今年度の映画賞を完全制覇する勢いの岸井ゆきの(30)、米国アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)でヒロイン的存在を演じた三浦透子(26)、NHK大河ドラマ『どうする家康』に登場する古川琴音(26)。さらにベテランの樋口可南子(64) 、若手の蒔田彩珠(20)らも所属している。
「所属者は20人余」と記したが、この人数には俳優も含まれている。やはり演技力のある人ばかりだ。
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』で屈折した料理人を演じた井之脇海(27) 、フジテレビ系『ミステリと言う勿れ』(2022年)で悲しい放火魔を好演した岡山天音(28)、佐藤浩市(62)の長男でNHK『鎌倉殿の13人』(同)で公暁を演じた寛一郎(26)たちが名を連ねる。
ここまで売れっ子の比率の高い事務所も珍しい。しかも全員、PR以外ではバラエティ番組に登場せず、それでも人気と知名度を得ている。どこが、ほかの事務所と違うのか。
「代表の畠中鈴子さんの力量に尽きる。畠中さんは映画制作もしていることもあって、作品の良し悪しを見抜く目があり、役者を出演させたほうがいいかどうかのジャッジが的確に出来る。育成力にも定評がある」(大手芸能事務所幹部)
畠中代表は75歳。過去に制作した映画は、よしもとばなな氏の原作で安藤サクラが主演した『白河夜船』(2015年)、満島ひかり(36)が主演した『海辺の生と死』など。ほかにも多数の映画に関わっている。
畠中代表は新人を採用する際に見るポイントも異なるという。
「大抵の事務所は基本的に男女ともに美形を採るんです。身長なども気にする。でもユマニテは違う。最優先するのは芝居がうまいかどうか、うまくなりそうかどうか。顔も見ているようだが、人間として魅力があるかどうかを重んじている」(中小事務所幹部)
ユマニテに所属する女優たちの顔は「ユマニテ顔」とも言われる。そんな事務所はほかにないが、選考基準が異なるのだから、ほかの事務所の女優たちと違って見えるのは当然なのだろう。
義理堅いユマニテの代表
畠中代表は義理堅く、所属者を大切にすることでも知られる。かつて事務所を支えてくれた故・根津甚八さんが、うつ病を患い、仕事が出来なくなると、その生活を全面的に支えた。2016年に根津さんが他界した後も数年間、事務所のホームページの筆頭所属者は根津さんのままだった。いまもホームページには根津さんのコーナーがある。こういう事務所も稀だ。
それだけに昨年2月の東出昌大(34)の契約解除問題で、畠中代表への批判が一部で起こると、芸能関係者、ドラマ関係者らは驚いた。
東出は2020年1月に女優の唐田えりか(25)との不倫が報じられると、同7月に妻で女優の杏(36)と協議離婚。逆風にさらされた東出を畠中代表は守り、再起へ向けてのサポートをした。東出の仕事先には詫び、違約金も支払った。
ところが、東出はその思いに背く行動をした。2021年10月、今度はロケ先のホテルに20代女性を呼び寄せたと報じられた。畠中代表は翌22年2月、東出との契約を解除する。
「仕事先に迷惑を掛け、畠中さんに謝罪させた後の2度目ですから、当たり前の判断。もしも処分しなかったら、甘い事務所だとして信用を失う。ほかの役者にも示しがつかない」(中小事務所幹部)
畠中代表は契約解除時にこんな声明を出した。
「東出の配慮に欠ける行動でその再生への道は頓挫いたしました。その時、私たちが感じたものは怒りというよりも、徒労感と虚しさでした。そして熟慮の末に、これ以上共に歩くことはできないという結論に達しました」(畠中代表の声明より)
淡々とした文面だった。もちろん顧問弁護士が事前に文面を見ていたはず。契約解除と声明には東出に自覚を促したい意味も込められていたのだろう。
それでも「契約解除にあたって声明を出すのはおかしい」などと批判された。背景には近年、「芸能事務所はみんな悪」と考える向きが一部にあるからではないか。だが、実際には世間の会社がさまざまなのと同じで、ケース・バイ・ケースと捉えるべきだろう。
満島ひかりは事務所独立のモデルケース
満島ひかり(37)も元ユマニテ。1997年に7人組ユニット「Folder」で歌手デビューしたが、売れず、2004年から本格的に女優業を始めるが、やはり芽が出なかった。
活躍し始めたのはユマニテに移籍した2009年から。
「ウチでも獲得できたので悔しかった」(前出・大手芸能事務所幹部)
そんな事務所は複数ある。その満島は人気絶頂期と言えた2018年3月に独立した。
そのときも畠中代表は声明を出していた。
「更に素晴らしい表現者としての、満島ひかりの成長につながることを期待しています」
だが、批判されたのは東出の時だけだった。
満島と東出では経緯が異なるので、内容は違ったが、まさか偽りの声明を出すわけにはいかないだろう。ちなみに権利意識の強い米国では俳優もエージェントも自由に主張する。
その後の満島の活躍は知られている通り。テレビ朝日系『未来への10カウント』(2022年)では天然気味の教師を演じ、日本テレビ系『初恋の悪魔』(同)では行き場のない少女たちを救う女性に扮した。
各事務所から出る人が相次ぐようになったのは満島が成功してから。このため、独立のモデルケースと言われる。
一方、東出は主演映画『天上の花』が一部地域で公開中。やはり主演映画『Winny』が3月に公開される。畠中代表の声明が自戒につながったのか、着々と歩みを続けている。