テレビ、YouTube、CM業界などの放送作家として、数々のコンテンツを作り出してきた澤井直人(32)。今、ほかの誰よりも「人間」に興味がある平成生まれの彼が、「話を聞きたい!」と思う有名人と対談する、好奇心と勢いだらけのインタビュー企画『令和にんげん対談』。
第6回は、連載初のWゲストでお送りします!! 笑点でおなじみの三遊亭好楽(76)さんと、その弟子で今年7月に真打に昇進する三遊亭とむ(39)さん。「好楽師匠は落語界で一番優しいんです」と慕うとむさんだが、その理由にはかつてテレビで大失態した裏話が!? 仲睦まじい師弟関係に迫りつつ、昨年亡くなった三遊亭円楽さんとの思い出話や、真打に昇進するとむさんの胸中など、盛りだくさんの内容でお届けします!!
澤井直人(以下、澤井):とむさんと知り合ったのは10年ちょっと前、その時とむさんはお笑い芸人でしたよね。僕がお笑いライブの企画をしている際に知り合ってからの付き合いで。まさか落語家に転身するとは思わなかったですよ。
三遊亭とむ(以下、とむ):僕も元々、落語家に転身するつもりはなくて、芸人として芸の肥やしになればいいなと思って落語に触れていたんですよね。
澤井:そもそも芸人としてデビューしたのも早かったですよね?
とむ:16歳でデビューして、当時お笑いがブームだったので、ありがたいことに20歳ぐらいの頃にテレビに出られるようになったんですよ。
澤井:順風満帆なのに、なぜそこから落語家に?
とむ:若くしてテレビに出られたんですけど、0.5発屋みたいな感じで、23歳の頃に再び食えなくなるんですね。まあその後もバイトしながら芸人を続け、2011年の東日本大震災が起こった後、「被災地に少しでも元気を与えよう!」ということで気仙沼にネタを披露しに行ったんです。
そこでダジャレを披露したら空気がシーンとなってね。「やばいな……」と思ってたら、中学生ぐらいの子が突然立ち上がって、僕に向かって「頑張れ」って言うんですよ(笑)。そしたら周りの観客も「頑張れ」って言い始めて。
まあその場はうまく収まったんですけど、よく考えたら被災された方を励ましに来たのに、なんで逆に励まされてるんだろうと……(苦笑)。「俺の10年ちょっとはなんだったんだろう」とむちゃくちゃ落ち込んで、その時に新しい道として落語家になろうと決めましたね。
澤井:それで好楽師匠のところへ?
とむ:いえ、最初は春風亭小朝師匠のところに、素人として落語の稽古をつけてもらっていたんです。そのうち小朝師匠から「もう落語家になったら?」と言われ、紹介されたのが好楽師匠でした。
澤井:好楽師匠は、当時とむさんが弟子入りされた時のことを覚えてらっしゃいますか?
三遊亭好楽(以下、好楽):覚えているよ。弟子入りが紹介制って落語界では珍しいからね。弟子入りを志願するときは、寄席の楽屋とかで師匠を出待ちして、遭遇した時に「弟子にしてください」といった直談判が普通なんですよ。でもとむの場合は、小朝からの紹介だったし、もう芸人を10年近くやっていると聞いたからさ。ホテルの喫茶店で待ち合わせして、どういう活動してきたのか聞いたりして、そのまま入門させた感じだね。
とむ:ちょうどその喫茶店出た後に、鞄持ちをしたのが、弟子としての最初の仕事でしたね。
澤井:実際に、好楽師匠のもとに入門してどうでしたか?
とむ:めちゃくちゃ飲み会が多いと思いましたね(笑)。落語会の時間よりも、打ち上げの方が4倍ぐらい長いんじゃないですか?
好楽:好楽一行の一門会を開くと、売れたチケットの枚数より、打ち上げに来ている人数のほうが多いときがあるよね(笑)。落語会の常連さんから「師匠、落語会は間に合わないんですけど、打ち上げから行きます!」って電話してきて。「もう来なくていいよ!」って返したりね。
とむ:たしかに落語の場合、打ち上げにお客さんがいるところが独特だなと思いましたね。僕らがお客さんのお酒を作ったり、感想を聞いたりして。芸人の時は出演者と関係者だけだったので、結構びっくりしました。
澤井:確かにお笑い業界にはない文化ですね。
好楽:打ち上げで一緒になると、僕の独演会を観に来てたお客さんも「弟子のも観てみようか」と流れるからね。しのぶ亭(根津にある演芸場。三遊亭好楽の自宅1階を開放)で落語会を開催して、そのまま打ち上げ会場にする時も多いんだよ。落語会の後に椅子を片付けて、そのままテーブルを並べて宴会場みたいにしてさ。俺が飲兵衛だから酒はウチにいくらでもあるのよ(笑)。それでおつまみを作って振る舞ったりしてね。
とむ:本当に師匠はホスピタリティが高すぎるんですよ。自分のお客さんも紹介してくれるし、料理まで振る舞ってくれるんですから。普通は弟子がやることですよ(笑)。
澤井:師弟関係のイメージが180度変わったような感覚です(笑)
好楽:逆にお酒飲めなくて辞めた人もいるぐらいだから。
澤井:え、そんなこともあったんですか!?
好楽:「飲み会ばかりには付き合ってられない」って数日で辞めた人もいるよ。
とむ:考えは人それぞれですからね。ただ、好楽師匠はどんな人でも受け入れてくれるんですよ。ウチの一門には、私のようなお笑い芸人もいれば、元々引きこもりの人も、スウェーデン人もいる。師匠のところじゃないと続いていない人ばかりで、懐の深さを感じますね。兄弟子とか弟弟子も飲み仲間という感じで、師匠がアットホームな雰囲気を作ってくれるからなんですね。
好楽:旅行とか、ボーリング大会とか、一緒に出かけたりすることも多いよな。
とむ:そうですね。前にWINS(場外馬券売り場)も一緒に行きましたよね。ちょうどその時、鶴瓶師匠から「何してんの?」って連絡が来たので、「師匠とWINSにいます」って返したら、「どんな一門やねん」って(笑)。まあそりゃそうなりますよね。
澤井:そんなに一緒にいたら、思い出もたくさんありそうですね。
好楽:色々あるけど、テレビの収録中にとむが酩酊して潰れたのは面白かったな(笑)
澤井:なんですかその話(笑)!
とむ:好楽一行の花見を撮影した密着ロケがあって、僕が司会をやっていたんですよ。それなのに緊張からか自らめちゃくちゃ飲んで潰れて、気づいたらしのぶ亭で寝ている状態で……(苦笑)。
澤井:収録中に酩酊(笑)。
とむ:それで「やばい!」って正気を取り戻したんですけど、どうやら師匠が司会を代わってくださってて。しかも「今日はお酒を飲む場だから、一番飲んだとむが一番偉い!」ってフォローもしてくれたんですよ。テレビ来てるのに酔い潰れているんですよ、普通なら破門ですよ(笑)。
澤井:どんだけ優しい師匠なんですか(笑)!
好楽:亡くなったカミさんからね、「弟子は自分の子どもだと思って育てないと駄目よ」って言われてね。もちろん他の一門はここまで緩くないと思いますが、ウチは一門が家族になれるような雰囲気でやってますよ。
澤井:自宅の1階を開放してしのぶ亭にしているのも、好楽師匠の優しさを感じます。しのぶ亭を開いたきっかけは何かあったんですか?
好楽:やはりお客さんを前にした方が勉強になるし、経験値も上がると思ったんです。昔はよく「壁に向かって稽古しなさい」と言われたものですが、それは間違っている。お客さんはどこで笑っているのか、あるいは退屈であくびをしているのか、反応を見ることで弟子たちもシャカリキになって研究する。だからこそここでは年中独演会をやっていますよ。
とむ:僕も稽古ができると聞いて入門したのが大きいですね。
澤井:年中お客さんを相手にできるのはこの上ない環境ですよね。
好楽:私は後輩と独演会できるのが好きだからさ。他の門下のお弟子さんも、よくしのぶ亭で公演しているよ。「ウチでやる?」と聞くと、「え、いいんですか?」って驚かれるんだけど、垣根関係なく誰にでも開けた場所はあったほうがいいよね。
澤井:しかも自宅と考えると結構広いですよね。何人ぐらい入るんですか?
好楽:ここだと35人が定員かな。一番多い時で66人いたことがあるね。その時は鶴瓶が出てくれて、お客さんが玄関まで張り付いていていたよ。私も見ていたんだけど、端っこの方に中谷美紀さんがいてびっくりしたね(笑)
澤井:好楽さんといえば笑点のイメージが強いですが、そもそも笑点に入られたきっかけを教えていただけませんか?
好楽:元々は笑点メンバーになる前に、月1回若手の落語家を集めた「若手大喜利」という企画があって、そこがいわゆる笑点への登竜門みたいな感じで。そこでプロデューサーとも仲良くなって、「もうすぐお前の番だから」とも言われていたんだよね。その流れで1979年に笑点に参加した流れだね。
澤井:もう45年近くやられているんですね。
好楽:笑点に参加して数年経った頃、離脱していた時期もあったんだけどね。その頃に落語協会から大日本落語すみれ会(現・円楽一門会)へ移籍して、古典落語をもう一度勉強しようと思って。だから出演していたのはだいたい40年ぐらいになるかな。
澤井:それでもかなり長いですね……! 笑点に関して印象的な思い出はありますか?
好楽:もちろん色々あるんだけどね。三波伸介さんが司会の時で、(三遊亭)小圓遊と(桂)歌丸が口喧嘩なんかしてた時はさ、視聴率が42%の時もあったんだからさ。すごい時代だよね。
澤井:今じゃ考えられないですね……。長年やっているとメンバーとの思い出も深いのでは。それこそ昨年亡くなられた三遊亭円楽さんは、好楽師匠が兄弟子にあたる関係ですものね。
好楽:そうだね。円楽とは52年の付き合いだったね。最初は私の鞄持ちから始めてから、仲間達と作った野球チームで一緒に遊んだり、私がカミさんと当時住んでた石神井公園の家によく泊まりに来てご飯を食べたりね。それこそ家族ぐるみの付き合いだったよ。
澤井:仲睦まじいですね。円楽さんはどんな方だったんですか?
好楽:円楽はA型で真面目な性格だったね。私はB型でいい加減だから正反対だったよ。例えば一緒にゴルフなんか行くでしょう。そしたら20分前にはウチの前に車を停めて待ってるんだよ。「早く着いたなら連絡してくれればいいのに」って言うと、円楽は「いや集合時間が決まっているので、それまではここで待ってますよ」ときっちりしていてね。面倒な頼み事をしても、返事ひとつで何でも請け負ってくれたよ。
澤井:かなり兄弟子を立ててくれるような方なんですね。
好楽:昔、一緒に地方で仕事している帰りに銀座に寄ったわけよ。それで銀座で一緒に飲もうと誘われたんだよ。当時、私はまだ全然テレビに出てない頃だったけど、先に円楽は結構出ていて稼ぎも良かったんだよ。
それで私が「じゃあご馳走してくれるのか?」って聞いたら、「何言ってるんですか、兄弟子がご馳走するのが当たり前でしょう」って言われちゃって(笑)。それでも粘ったら、最終的に20万貸してくれて、さらに飲んでたら会計が30万近くになっちゃってさ。結局、弟弟子に1日に2回もお金借りて、その翌日に返したこともあったな。
澤井:本当に公私ともにずっと一緒だったんですね。
好楽:だから、亡くなったときは本当にショックだった。これも縁なのかわからないけど、円楽の訃報を聞いた時は、ちょうどカミさんの墓参りに行った帰りだったんだよ。ちょうどカミさんも円楽も72歳で旅立ったのも何かの縁だと感じたね。それですぐ円楽のもとに駆けつけたらさ、ふくよかで安らかな笑顔に戻ってて、闘病中のくたびれた疲れた顔じゃないんだよね。きっとつらい闘病生活を終えてホッとしたんだろうな。
澤井:お顔を見た時は、なにか声はかけられたのですか?
好楽:「俺より先に逝くんじゃねーよ」ってね。そしたら周りの親族たちも皆んな泣いちゃいましたね。まあでも円楽とは平気で軽口を言い合える仲でさ。闘病中も、円楽に「兄さんいくつになったんだい」と聞かれて、私が「76歳だよ」って答えたら、「76歳は四捨五入したら100歳だよ」って最後の最後まで冗談言ってたよ(笑)。どこまでも円楽は面白いやつだと思ったね。
澤井:今年7月にとむさんは真打に昇進されますが、発表を聞いた時の心境はいかがでしたか?
とむ:始めて聞いたのは、師匠の口からではなくて、師匠のお客さんからなんです(笑)。聞いた時は「えっ?」って思いましたよ、そんな形で聞きたくなかったわって。まあそれだけ突然の出来事だったのでびっくりしましたよ。
澤井:それは師匠の口から聞きたかったですね……(笑)。好楽さんとしてもとむさんを真打にするのは急な決断だったのですか?
好楽:急というわけでもないんだけど、とむはお笑い芸人時代を含めるともう芸歴20年を超えている。そろそろ真打にするべきだと思ったんだよ。
澤井:しかも真打になったら改名されるんですよね。
とむ:はい! 錦笑亭満堂(きんしょうてい・まんどう)という名前になります!
好楽:新しい名前は、小朝がつけてくれた名前なんだよ。「満堂」は中国語で「人々が満員になった状態」を意味して、「錦」は「金」と同じで縁起がいい。「満席のお客さんを喜ばせて売れ続ける」っていう想いを込めてつけてくれたんだ。小朝は凝り性だから、名前をつけるのに1か月半ぐらいかかってさ。
澤井:とても良い名前ですね! 縁起も良いし金運も上がりそう!
とむ:しかも三遊亭から新しい亭号に変わるので、今年1年は勝負の年ですね! まあ正直言って荷が重いですが……(笑)
澤井:新しい亭号を与えたのに理由はあるんですか?
好楽:大きい名前を襲名させると、「この亭号を汚しちゃいけない」って気が張るでしょ。だから改めて奮起してもらおうという意味で大事なんですよ。名前なんてすぐ継いだ方がいいというのが、私の師匠の頃からの教えですね。落語協会とか芸術協会に所属していると、真打になるかどうかの権限は席亭が持っているけど、ウチはそういう縛りもないからさ。どんどん新陳代謝して活気が出ればいいんですよ。
とむ:本当に不思議な話で、名前を頂戴したら急に責任感が出始めて。この錦笑亭を大きな亭号にしていかないといけない、弟子をたくさん獲れるような人間になろうという気持ちがと出てきて。そんなことはついこの間まで思ってなかったんですけどね。
澤井:しかも来年の1月には武道館で公演されるんですよね。
とむ:はい、昇進披露全国ツアーということで全国を回り、24年の1月の最終公演を武道館で行います! 落語家として武道館で公演するのは3回目らしいですね。1回目は小朝師匠が、2回目はさだまさしさんや志の輔師匠ら大勢がイベントのような形で出演されたらしいので、真打の披露公演としては初めてになりますね。
澤井:自分でハードルをどんどんあげている気が(笑)
とむ:やれることはなんでもやりますよ。先日は「二日酔いでいさせて」という楽曲を逢信したり、宙に浮いて落語をやる「スーパー落語」も披露する予定です。鶴瓶師匠には「そんなことしてないで世に羽ばたけ」って言われましたけど(笑)
好楽:とむは顔も広くて、人付き合いも上手いからさ。芸人は色んな人に可愛がってもらってなんぼの世界。そこは私ととむの似ているところだね。
澤井:本当にお二人のお話から、和気藹々とした雰囲気を感じて、僕も入門したくなるような素敵な一門でした。この度はお忙しい中ありがとうございました!
好楽&とむ:ありがとうございました!
構成・文 佐藤隼秀 撮影・吉岡竜紀