三遊亭好楽と三遊亭とむ

 笑点でおなじみ三遊亭好楽さん(76)と、その一門弟子で今年7月に真打へ昇進する三遊亭とむさん(39)の2人に、インタビューを敢行。昨年亡くなった三遊亭円楽さんとの思い出話や、三遊亭とむを真打にした経緯を、好楽さんが明かします。さらに話題は、2人の“自由すぎる”師弟関係に。思わず笑福亭鶴瓶から「どんな一門やねん」と突っ込まれたエピソードとは……。

「円楽とは52年の付き合いだったね。円楽の訃報を聞いた時は、ちょうどカミさんの墓参りに行った帰りだったんだよ。円楽もカミさんも72歳で旅立ってさ。これもなにかの縁だと感じたね」

 三遊亭好楽(以下、好楽)は、昨年9月末に亡くなっ三遊亭円楽さんへの想いをこう語った。2人は同じ一門の兄弟子と弟弟子にあたる関係で、40年以上前から笑点メンバーとして活躍している。「家族のような関係だったよ」と2人の関係を語る好楽が、円楽さんとの若手時代の思い出を振り返る。

円楽さんの最期にかけた言葉

「円楽とは仲間達と作った野球チームで一緒に遊んだな。当時カミさんと一緒に石神井公園の家に住んでてさ、よく泊まりに来ていたよ。円楽はA型で真面目な性格。ゴルフなんか行く時も、集合時間の20分前にはウチの前に車停めて待ってるんだよ。

『早く着いたなら連絡してくれればいいのに』って言うと、円楽は『いや集合時間が決まっているし、兄さんの準備もあると思うので車内で待ってます』ときっちりしていてね。私がB型でいい加減だから性格は正反対だったね(笑)

 半世紀以上にわたり公私をともに過ごしてきた2人。闘病生活中も円楽を見守り続けてきた。

「見舞いに行った時、円楽に『いくつになったんだい』と聞かれたから、私が『76歳だよ』って答えたら、『兄さん、76歳は四捨五入したら100歳だよ』って最後の最後まで冗談言ってたな(笑)。円楽とはずっと軽口を言い合える仲でさ、どこまでもアイツは面白い奴だなと思ったよ。

 訃報を聞いて駆けつけて顔を拝んだ時も、ふくよかで安らかな顔をしていたね。きっとつらい闘病生活を終えてホッとしたんだろうな。『俺より先に逝くんじゃねーよ』って声をかけたら、周りの親族たちも皆んなしんみりしちゃいましたけどね」

 円楽さんとの仲睦まじい思い出を語る好楽だが、落語界では“優しい師匠”としても有名だ。元お笑い芸人で、2011年に好楽のもとに弟子入りした三遊亭とむ(以下、とむ)が、好楽一門の自由すぎる日常を明かす。

とむウチの一門はめちゃくちゃ飲み会が多いですね。落語会の時間よりも、打ち上げの方が4倍ぐらい長い(笑)。「飲み会ばかりには付き合ってられない」って数日で辞めた人もいるぐらいですから。

好楽:売れたチケットの枚数より、打ち上げに来ている人数の方が多いときもよくある(笑)。落語会の常連さんから「師匠、落語会は間に合わないんですけど、打ち上げから行きます!」って電話してくるお客さんもいますよ。

“多様性”のある一門

とむ:しのぶ亭(好楽の自宅1階を開放して演芸場にしている)で落語会を開催してから、打ち上げ会場にする時も多いんですよ。その際は師匠が上でおつまみを作って振る舞ってくれたりして。本来なら弟子がやるべきことなのに、師匠はホスピタリティが高すぎるんですよ(笑)

 過去には、とむがテレビのロケ中に酩酊するというお酒にまつわる失敗談もあった。

とむ:以前、好楽一行の花見を撮影した密着ロケがあって、そのときに僕は司会をやっていたんですよ。それなのに緊張からか自らめちゃくちゃ飲んで潰れてしまい、気づいたらしのぶ亭で寝ている状態で……。後から聞いたら師匠が司会を代わってくださっていたんです。しかも「今日はお酒を飲む場だから、一番飲んだとむが一等賞だ!」ってフォローもしてくれたんですよ。普通なら酔い潰れた時点で破門ですよ(笑)。

三遊亭好楽

好楽:そんなこともあったね(笑)。カミさんからは「弟子は自分の子供だと思って育てないと駄目だよ」って言われてさ、それ以来家族のような雰囲気を作ろうというスタンスなんです。

とむ本当に師匠は懐が深いんですよ。ウチには私のような元お笑い芸人もいれば、スウェーデン人や引きこもりだった男もいて、師匠のところじゃないと続いていない人ばかり。アットホームな雰囲気を作ってくれるので、兄弟子や弟弟子も飲み仲間という感じですね。

好楽:旅行とか、ボーリング大会とか、一緒に出かけたりすることも多いよな。

とむ:そうそう。前にWINS(場外馬券売り場)も一緒に行きましたよね。ちょうどその時、鶴瓶師匠から「何してんの?」って連絡が来たので、「師匠とWINSにいます」って返したら、「どんな一門やねん」って突っ込まれて(笑)。

 今年7月には真打に昇進する三遊亭とむ。名前も「錦笑亭満堂(きんしょうてい・まんどう)」に改名し、三遊亭一門としては初となる新しい亭号を背負うこととなる。

好楽:とむはお笑い芸人時代を含めるともう芸歴20年を超えている。そろそろ真打にするべきだなと思ったんだよ。新しい名前は、小朝がつけてくれた名前。錦笑亭満堂っていう名前にある「満堂」は中国語で「人々が満員になった状態」を意味して、「錦」は「金」と同じだから縁起がいい。「満席のお客さんを喜ばせて売れ続ける」っていう想いを込めました。

武道館公演では“宙に舞う”!?

とむ:三遊亭から新しい亭号に変わるので、今年1年は勝負の年ですね! まあ正直言って荷が重いですが……。

好楽:大きい名前を襲名させると、「この亭号を汚しちゃいけない」って気が張るでしょ。だから改めて奮起してもらおうという意味で大事なんですよ。名前なんてすぐ継いだ方がいいというのが、私の師匠の教えだったので、どんどん新陳代謝して活気が出ればいいんですよ。

とむ:本当に不思議な話で、名前を頂戴したら急に責任感が出始めて。この錦笑亭を大きな亭号にしていかないといけない、弟子をたくさん獲れるような人間になろうという気持ちがと出てきたんですよ。

三遊亭とむ

好楽弟子が出来たら、名前は「こまんど(小満堂)」で、女の子だったら「あまんど(尼満堂)」だなって今から話してますよ(笑)

 来年1月には武道館で真打披露公演を行う、とむ改め錦笑亭満堂。

とむ武道館のキャパは8000人らしいですが、今から色んな人に手売りしていくつもりです。真打の披露公演を武道館でやるのは初めてらしく、やれることはなんでもやりますよ。公演では宙に浮いて落語をやる『スーパー落語』も披露する予定です。鶴瓶師匠には『そんなことしてないで、早く世に羽ばたけ』って言われましたけど(笑)

好楽とむは顔も広くて、人付き合いも上手いからさ。芸人は色んな人に可愛がってもらってなんぼの世界。新しい亭号を大きくして欲しいね。


構成・文 佐藤隼秀  撮影・吉岡竜紀

 

 

1981年、31歳の頃の三遊亭円楽さん(当時は三遊亭楽太郎)

 

春風亭昇太と新妻のSさん

 

三遊亭好楽

 

三遊亭好楽と三遊亭とむ