冬になると疲れやすく、口内炎がよくできて、しかも治りにくい。気分が沈む。実はそれ、栄養が足りていないせいなのかも─。
冬は夏よりも多くの栄養が必要
今、季節特有の理由から引き起こされる栄養失調が注目されている。なぜ、寒い季節に栄養が不足しがちになるのか。そのメカニズムを、栄養療法に取り組む鎌倉元氣クリニック院長の松村浩道先生に聞いた。
「気温が低い時季は体温を維持するため、身体がより多くのエネルギーを必要とします。外気温と体温との差が大きいため、夏と比べ冬場は必要なエネルギー量が10%ほど増えるといわれます」
エネルギーが必要なら、高カロリーのものをたくさん食べればよいと考えがちだが、それでは脂肪が増えるだけ。
「エネルギーを作り出す工程で、さまざまな栄養が必要になります。私たちが身体で使うエネルギーの“素”を作り出しているのは、細胞の中にあるミトコンドリア。このミトコンドリアが糖質や脂肪、アミノ酸などから栄養素を生成する過程などで、主にビタミンB1、B2、B3、B5、B6、B12やマグネシウムを使います」(松村先生、以下同)
エネルギーが多く必要となる冬は、これらの栄養素がすべて不足しがちになるというわけだ。
冬場に栄養が不足しがちな要因は、ほかにもある。それは、“感染リスクの増加”。
「気温も湿度も低い冬は、風邪やインフルエンザにかかりやすくなります。そこで活躍するのが免疫細胞。免疫細胞は、ほかの細胞に比べ、数十倍ものビタミンCを必要としますから、やはり冬場に不足しがちです」
ビタミンCは水に溶けやすい栄養素。煮る、ゆでるなど加熱調理が多い冬は、食事から吸収できる量が減ってしまう。さらに、ビタミンCは鉄の吸収に必要な栄養素でもあるため、摂取量が減ると、結果として鉄も不足することに。
また、冬は日照時間が短く、肌の露出も少なくなる。そうすると、本来は紫外線により皮膚で合成されるビタミンDも足りなくなってくる。冬は普通に食事をし、生活しているだけで不足のリスクが高い。
栄養不足は身体やメンタル不調の原因に
では、それぞれの栄養が不足すると、どんな不調があらわれるのか?
ビタミンB1
胃腸の働きが弱り、食欲も低下。さらに疲れやすくなる。
ビタミンB2
口内炎ができやすく、皮膚の炎症やむくみも起きやすくなる。また、不眠や、活力低下などを引き起こす。
ビタミンB3
口内炎や湿疹などの皮膚トラブルが起きやすく。抑うつぎみになる。
ビタミンB5
肌が乾燥する。花粉症など、アレルギーを起こしやすくなる。
ビタミンC
免疫力が低下するほか、肌が荒れやすくなり、髪もパサつく。
マグネシウム
イライラ感のほか、体温の低下を引き起こす。「著しく不足すると、動脈硬化のリスクも」
鉄
貧血のほか、抑うつぎみに。
ビタミンD
骨粗鬆症のリスクが上がる。感染症にかかりやすくなる。アレルギー症状が出やすくなったりする。
影響は多岐にわたるが、注意すべきは、メンタルの不調や体温の低下など、一見、栄養不足とはかけ離れているように思える症状も多いこと。冬型栄養失調は、自分ではそのサインに気づきにくいことも特徴のひとつだ。
効率的に栄養を取るには鍋料理、食事と一緒にお茶を飲まないこと!
これらの栄養不足を解消するために、冬場に積極的にとりたい、おすすめ食材の1位は豚肉。ビタミンB群が豊富に含まれているからだ。ほかにも、さまざまな栄養素を効率的にとる方法として、松村先生がおすすめするのが鍋料理。
ビタミンCが豊富な白菜や、ヘム鉄やビタミンB群を含む赤身の豚肉、ビタミンDの含有量が多い鮭やきのこ類を具材にしてみよう。
「シメはマグネシウム豊富な玄米の雑炊などもいいですね。ビタミンCが溶けだした汁もいただきましょう」
50代以降は、冬場に限らず栄養不足の傾向があると松村先生は指摘する。
「この年代は徐々に食事の量が減り、肉類を食べなくなります。そうすると肉に豊富なビタミンB群やヘム鉄のほか、タンパク質とカロリーが足りなくなります」
また、加齢にともない噛む力が弱くなることも、実は栄養不足に直結する。
「食べ物は噛んで細かく砕かれた後、胃酸によって、タンパク質はアミノ酸、でんぷん質はブドウ糖といった形により小さく分解されて小腸で吸収されます。咀嚼が不足していると食べ物の分解が十分にされず、例えばタンパク質がそのままの形で小腸へ届くようなケースが起きてしまう。そうなると栄養の消化吸収が不十分になるうえ、分解されない栄養素が悪玉菌のエサとなって腸内環境が悪化。さらに消化吸収率が落ちる悪循環を引き起こします」
吸収力アップには、よく噛むこと、さらに胃液を薄めないため、食事は、なるべくお茶などドリンク類と一緒にとらないことが大切だ。もちろん汁物などはご飯時に必須という人もいるだろうが、あまりがぶ飲みしないことがポイントになる。
冷え込みが厳しい2月。松村先生は「しっかり体温を保つことも大切」と話す。身体が温まっていれば、必要なエネルギー量が少なくなり、栄養素が多く消費されることもない。
特に不足しがちな5大栄養素をよく噛んでとり、身体を温かく保つ。少し意識して口内炎や頭痛、肌あれ、メンタルの落ち込みまで、冬の不調とまるっとサヨナラしよう。
冬に不足しがちな5大栄養素
ビタミンB群
エネルギーやアミノ酸などの代謝などに必要。ビタミンB1は豚肉に、ビタミンB6は赤身肉に豊富。
ビタミンC
コラーゲンの生成に必要なほか、免疫機能の活性化、抗酸化作用がある。ブロッコリーやかぼちゃ、白菜に豊富。
ビタミンD
カルシウムの吸収や免疫機能に関わる。まいたけ、キクラゲなどのきのこ類や鮭に豊富。
マグネシウム
骨の成長・維持に必要なほか、血栓をできにくくする働きも。米ぬか、玄米に豊富。
鉄
酸素を全身に運ぶ。野菜の「非ヘム鉄」より肉に含まれる「ヘム鉄」のほうが吸収は◎。レバーや赤身肉に豊富。
体温維持してエネルギーをキープ!おすすめ温活
1. 湯たんぽを活用する
低温やけどに気をつけながら太もも、二の腕、背中などに5分ずつ当て、身体をじんわり温めよう。「繰り返し使えるだけでなく、熱エネルギーの放出度が高く早く温まるのでおすすめです」
2. しっかり重ね着
1枚多く羽織る、または下着を重ねる。首、足首など冷えやすい場所を温めるのもよい。「薄着で暖房器具に頼っていては、廊下やトイレに行くたびに、保温のため余計なエネルギーを使うことになります」
3. 温かい食事で中から温める
旬の野菜をたっぷり使った鍋やシチュー、スープなどは身体が温まり、汁ごと栄養素もとれる。「たっぷりの肉や野菜を入れましょう」
鎌倉元氣クリニック院長。日本医科大学卒。全人的な医療を志す過程で東洋医学、精神医学、温泉医学、栄養療法などの研鑽を深め、現在は心身相関を重視した包括的診療を行う。さらに、産業医としてストレスマネジメントや予防医療にも力を注いでいる。
<取材・文/仲川僚子>