「まあ僕はしょうがないなと思っちゃうんですよ。若いしカッコいいんだもん(笑)」
小日向文世が舞台『アンナ・カレーニナ』で見た若き日の思い出
2月24日から始まる舞台『アンナ・カレーニナ』に出演する小日向文世。ロシアの文豪、トルストイの名作でアンナの夫、カレーニンを演じる。宮沢りえ(49)が演じる主人公、アンナは若き青年将校のヴロンスキー(渡邊圭祐・29)と恋に堕ち、離婚が成立しないまま一緒に暮らし始め、娘をもうける。カレーニンは傷つきボロボロになりながらも、アンナを忘れることができず……。
カレーニンの心情が「ものすごくわかる」と語る小日向。そこには若き日の苦い思い出が。
「僕も、今の女房に出会うまで全部捨てられてきましたから(笑)。僕みたいな男は飽きるんでしょうね。よく例えられるんですけど、首輪を外しても遠くに行かず戻ってくる、危なっかしいところがないって。若い女性は、ちょっと危険な香りのする人が好きなんじゃないですか? 僕はそれが一切ないから。“ごめんね”と言われて、“え!? 僕はずっと一緒にいたいのに、さよならしなきゃいけないの?”って(笑)。まさにカレーニンです」
しかもカレーニンは終盤、アンナを赦し、アンナとヴロンスキーの娘も愛して育てることを決める。アンナを憎んでもおかしくない状況に思えるが。
「本当にアンナのことを心の底から愛していたんでしょうね。それに、アンナはカレーニンを憎んではいない。ほかの男に惹かれて、ものすごく戸惑って、必死になってカレーニンを憎もうとするんだけど、それはカレーニンを納得させるため。その心情がわかるから、カレーニンもアンナを憎めないし、捨てられてもなお、愛おしく感じていたのかな」
では、小日向自身は若いころの失恋で、相手を憎むことはあったのだろうか?
「憎むことはなかったですね。悲しくて寂しい思いは散々しましたけど。だって僕は嫌いになってもいないし、むしろ“好き!!”という状態のときに(去って)いっちゃうんですから(笑)。なんなんだろうなあ?と思ってました」
俳優・小日向文世は意外と聞き上手?
今作の演出は、日本でも何作も大作を手がけてきたフィリップ・ブリーン。稽古は非常にエネルギッシュだという。
「普通は、本読みを2~3日やったら立ち稽古に入るんですけど、今回は1週間、1時から7時までびっちりやって。その後もすぐ立ち稽古に入って、1時から8時まで。フィリップさんのテンションがものすごく高いので、それに応えていかなきゃという思いで、けっこう大変です(笑)」
演技指導も熱量マックス。
「フィリップさんはスタンドアップコメディーをやっていたそうなんです。ですから芝居の心も当然あって。怒鳴るシーンを僕に演技指導するときは、“うわー!(怖)”ってこっちが怯えちゃうくらいのすごい迫力(笑)。疲れますけど、とてもわかりやすいし、自分がやらなきゃいけない方向がはっきり見えるんです」
また共演の宮沢りえは、
「今回初めて間近でご一緒して。あの宮沢さんが目の前にいて一緒にお芝居できるというのは、本当に楽しいですね。そのうえ、ものすっごく性格がよくて。サバサバしていて男っぽい。話していてとても楽しいです」
気になる会話の中身は?
「芝居のことや、“私、けっこう緊張しぃなんです”“え、宮沢さんでも?”みたいな話とか。あと、身体にいい食べ物やサプリは何がいいみたいな話もしますし。僕、意外と聞き上手なのかな。女優さんともけっこうざっくばらんに話してるなと、時々思うことがあって。おばさんぽいのかな?(笑)」
毎日“ああ、おいしい”って思いながら
夫婦という関係を続けていくには、「愛というものを超える何かを見つけていく必要があると思う」と小日向。
「長い間一緒にいると、愛だなんだって言ってられなくなるじゃないですか。それよりも感謝や尊敬、この人と一緒にいてよかったなという気持ち……そういうものがだんだん強くなっていくんじゃないかという気が、僕はするんですけど」
実際の小日向家の様子を尋ねると、
「子どもたちとは小さいときから、寝る前や出かけるときにハグするのを習慣にしていて、今も続いてます。長男は別のところに住んでいるので、たまに来ると“おー!”ってハグしますし。次男は一緒に住んでいるので、“お父さん、お休み~”って必ずハグしにきて、出かけるときもハグして送り出します。もうクセですね。
女房とは必ず“行ってきます”のチューを。ずっとやってるので、もうハンコみたいなものですけどね。そんな熱いチューじゃないですよ(笑)。ハイタッチのような感じです」
夫婦ゲンカしたら大変そう。
「確かに困りますよね。でもひどいケンカはあまりしないんです。その場で収まっちゃう。理由は芝居の感想を言ってくれないとか。昔は“このシーン見てよ!”と言ってるのに携帯をいじってたりするから“なんで見てくれないんだよ!”ってケンカしてましたよ。“俺に興味ないの?”って。でも、“長いこと夫婦やってるんだから言わなくてもわかるでしょ”と言われて、ああそうかと納得しました」
そして「もう、本当に感謝なんですよ」と妻への気持ちを。
「うちの女房は料理がすごく得意で。朝も夜も、いつも用意してくれて、僕は毎日“ああ、おいしいおいしい”って思いながら食べてます。中華もイタリアンも、何でも作ってくれるんですよね。中でも評判がいいのが、タラコのスパゲティ。難しい料理じゃないですけど、隠し味に昆布茶を入れたり、バターの量やタラコにこだわったり、いろいろ凝っていて。甥っ子や姪っ子たちからも大人気です」
稽古終わりに行われた今回の取材。「今日も帰れば何か用意してくれてます」とほがらかに笑う様子は癒し度マックス。そして肝心の、舞台の見どころは。
「この話をお受けしたときに、とにかく宮沢さんのアンナが見たいなという思いがあって。それを今、芝居をしながら間近で見ていて、本当にすっごくすてきなんです。“宮沢さんをぜひ見にきてください!”という感じです。情けない、かわいそうなカレーニンも登場しますけど、それもまあ、お楽しみに(笑)」
日々の生活で心がけていることは?
「とにかく健康を維持すること。朝と寝る前に、サプリをいろいろとってます。ビタミン系やフコイダン、ウコンとか。あと、朝は必ず黒ニンニクと乳酸菌飲料。お酒を飲んだら次の2日間は飲みません。それと、最近はできるだけ睡眠をとらなきゃなと思って気をつけてます」
舞台『アンナ・カレーニナ』
■東京公演:2月24日~3月19日
Bunkamura シアターコクーン
■大阪公演:3月25日~27日
森ノ宮ピロティホール