今年に入ってから、回転寿司店での迷惑行為による問題が多発している。
「もっとも話題となった、しょうゆのボトルや湯飲みをなめたり、レーンを流れる寿司をなめた指で触るなどの動画が撮影されていたのが『スシロー 岐阜正木店』です。同店は警察に被害届を提出。捜査が進められており、岐阜県警は迷惑行為をした少年や、撮影者、投稿者などを2月中にも書類送検する方針です」(地元紙記者)
一連の問題が最初に発覚したのが、『はま寿司』だ。
「1月上旬、“注文品”と書かれた台にのっている寿司の1貫を、若い男性が箸で取って食べる動画が拡散されました。『はま寿司』を運営する『ゼンショーホールディングス』は1月12日に警察に相談したそうです。動画には《人の注文》《おいしそうだったのでたべちゃいました》などの文言も添えられていました」(全国紙社会部記者、以下同)
被害はこれだけにとどまらなかった。
「1月中旬ごろには、《他人握りわさび乗せ》と書かれた動画が拡散。若い男性グループが、流れている寿司にスプーンでわさびをのせている様子が撮影されたもので、こちらも『はま寿司』での出来事と見られています。毒物などを混入する可能性も指摘され、さらなる大問題になりました。加害者が店に謝罪の連絡を入れたそうですが、1月25日に被害届が提出されています」
ガリの容器の中に電子タバコの吸い殻が
そして、『くら寿司』でも……。
「若い男性グループが、1度取った寿司の皿をレーンに戻している動画が1月下旬に拡散されました。店内の掲示物や商品から、4年前に撮影されたものと見られているようです。こちらも、警察に対応を相談しています」
その後拡散されたのが、書類送検にまで至った冒頭の動画だった。
「2月8日には『すし銚子丸』でも、卓上に設置されたガリの容器の中に電子タバコの吸い殻が入れられているのが確認されたそうです。動画の拡散はありませんでしたが、他店の事例と同様、警察に相談し、厳正な対処を進めています」
ほかにも、寿司店のみならず多くの飲食店で、迷惑行為動画が確認される事態に。
グルメジャーナリストの東龍氏は、一連の問題についてこう分析する。
「そもそも飲食店が営業許可を取るためには、食品衛生法に則った許可を保健所から得ることが必要です。つまり、安心・安全を担保できる方式でないとオープンできない業態なのです。これまで、回転寿司店は安心・安全でしたが、危険性が懸念される以上、やり方を変えざるをえないと思います。例えば、商品にフタをするだけでなく、そのフタがまだ開けられていないことがわかる仕組みを作ったり、“回転”をやめて席まで直接届けたり。これまでお客の良心に頼っていたところをシステム的なものに変えるか、やめてしまうか。このどちらかしかないのかなと考えます」
被害に遭った各社は対応に迫られ、回転寿司チェーンは苦境に立たされているのかと思いきや……。
「迷惑行為により損害を受けた寿司店を応援しようと、タレントやユーチューバーがこぞって『スシロー』などを訪問。一般客も多く訪れ、店は混み合うこともあるそうです。こういった動きを受けて、『スシロー』では期間限定で店内での飲食やテイクアウトなどが10%オフになるキャンペーンを実施することが発表されました」(WEB編集者)
SNS上では《スシローを救いたい》、《回転寿司を救いたい》というハッシュタグが生まれ、回転寿司店で食事を楽しむ写真が投稿されている。
消費者からの問い合わせについて各社に聞いた
とはいえ、一連の問題で不安を覚える消費者も少なくないようで、次のような声も。
《こういうのあってから回転寿司行けなくなった…生理的嫌悪と言うか気持ち悪いと言うか》
そこで、被害の有無にかかわらず寿司チェーン大手に、迷惑行為問題による対応の変化を問い合わせたところ、7社から回答があった。
回答の詳細は次ページ「主な大手寿司チェーン店の対応」のページに記載しているが、コロナ禍においての運営変更はあるものの、損害を受けていない寿司店は今のところ大きな変更はない。
一方、被害に遭った『スシロー』では“レーンでは注文品のみの提供”“卓上の食器や調味料は希望に応じて交換”などの対応が取られ、『くら寿司』、『すし銚子丸』でも次ページに記載したような対策をしている。
また、消費者からの問い合わせについて各社に聞くと、
《対策を公開しましたので、問い合わせよりも、励ましのお声をたくさんいただいております》(『すし銚子丸』)
《激励のメッセージを数件頂いております》(『がってん寿司』)
と、寿司チェーン店への応援ムードは確かなようだ。
しかし、いつどんな迷惑行為が行われ、拡散されるかわからない昨今。二度とこのような問題を起こさせないために消費者側にできることはあるのだろうか。
「最終的に自分たちが損をすることを、わかってもらうのが大事だと思います。迷惑行為をした方に悪意があることは間違いないですが、それがどういう結果をもたらすか、本質的に理解できていないのです」(東龍氏、以下同)
いったいどういうことか。
「回転寿司に限らず飲食業界全体の話ですが、消費者と店の信頼関係のもと、コストを抑えてやっていたのに、このような迷惑行為が発覚すると、“悪ふざけをする人がいるかもしれない”と、対策が必要になってしまいます。卓上に設置されたカトラリーや調味料を個包装のものにしたり、厳重な設備にしたり、従業員を増やしたり……。すると、コストが上がり、結果的に商品の値段が上がってしまいます」
また、日本の食文化全体への影響も考えられるという。
「回転寿司のようなユニークな業態ができなくなってしまう可能性もあるでしょう。さらに、迷惑行為により安心・安全が損なわれることで、日本で使うお金の20%は食に充てるともいわれている日本食好きによるインバウンド消費や、1兆円を超えている食品関連の輸出など、ポテンシャルがあるものをつぶしていくことにつながってしまいます」
東龍氏は、迷惑行為に対して次のように警鐘を鳴らす。
「値段が上がり、飲食店がつまらなくなり、日本のよいところが失われてしまうことになり、われわれ消費者も被害に遭った飲食店も、得をする人は誰もいないのです」
迷惑行為に及んだ若者たちは、今ごろどんな気持ちでいるのだろうか─。
東龍 グルメジャーナリスト ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口でわかりやすい記事を執筆
主な大手寿司チェーンの対応
はま寿司 (株式会社ゼンショーホールディングス)
・他の客の注文品を食べる動画の拡散 ・レーンに流れている寿司にわさびをのせる動画の拡散 ・ガリを容器から直箸で食べる動画の拡散
本件に関するお客様からのお問い合わせ、ご意見は多数頂いており、その中で一部衛生面に関する内容も頂戴しています。 本件およびお客様から頂戴する声などを基に、さまざまな対策を検討しているところです。
がってん寿司、
函太郎 (株式会社アールディーシー)
被害ナシ
弊社では、変更点はございません。 弊社はコロナ禍において、ガリはタッチパネルでの注文スタイルで営業しております。 その他、わさびも回転レーンで流していたものをこちらもタッチパネルでの注文スタイルで運営を行っております。 幸いなことに、本件での大きな運営変更や大きな影響は今のところございません。 しかしながら、いつ弊社にも飛び火するかわからないご時世でございますので、状況を見守りながらお客様が安心してお食事ができる環境づくりに、より一層尽力してまいる所存でございます。
にぎり長次郎 (株式会社フーズネット)
被害ナシ
現時点で店舗運営に変更点はございません。 テーブルに設置している備品やしょうゆについては、現在検討中でございます。
すしざんまい、廻るすしざんまい (株式会社喜代村)
被害ナシ
特にありませんが、お客様に対し一層気配りや心配り、お声がけを徹底するようにしています。 当社が展開している廻転寿司店(4店舗)は、席数が30~70席の小型の店舗で、しかもお客様の目の前のレーンの中に寿司職人が常にいて握りながらサービスする形態なので従業員の目の届かない死角はありません。従って、当店にて迷惑行為に及ぶお客様もいません。 また、コロナ禍以降、感染予防対策として一層衛生面の強化をしてきましたので、現状、当店では店舗運営において一連の迷惑行為に対する影響はほとんどありません。
スシロー、回転寿司みさき (株式会社FOOD & LIFE COMPANIES)
・しょうゆや湯飲みをなめる動画の拡散 ・甘だれにしょうゆを混ぜる動画の拡散
迷惑行為の動画拡散といった理由ではなく、昨今の社会情勢を鑑みた運営方法の変更の対応を、ホームページに公開しております。(※編集部注:①レーンでは注文された商品のみ提供 ②食器や調味料の交換が可能に ③席とレーンの間にアクリル板設置)当社のビジネスだけではないと思いますが、お客様との信頼関係がベースにあることで成立しております。その意味からも、このたびの一連の迷惑行為はこの信頼関係を損なう重大な事案であると捉えております。それに従い、まずはお客様の不安を解消することを目的にした対応策は先にお伝えしたお知らせに記載した内容で実施しておりますので、そちらをご覧いただければ幸いです。 回転寿司みさきでは、これまでとの変更点はなく、上記はスシローのみの対応です。
くら寿司 (くら寿司株式会社)
・1度取った寿司をレーンに戻す動画の拡散
当社においては、1度取った皿を戻される動画が大きな問題になっています。もともと、お客様がお寿司を取ったことを、ベルト上に設置したAIのカメラを使って管理する仕組みがありました。今後は、皿が戻されたときにもそれを把握して、本社などにアラートを送る仕組みへの改修を3月上旬をめどに進めていきます。 われわれは’11年からお寿司にカバーをかけて、今回のような悪意のあるものだけでなく、小さいお子様が間違って触ってしまうことのないよう、対策をしてきました。今後も、ベルト上での不正を感知できる仕組みなどを利用して、〝回転寿司〟にこだわっていきたいと思っています。また、現在警察にも相談をしながらの厳正な対処も、並行して進めております。
すし銚子丸 (株式会社銚子丸)
・ガリの容器の中に電子タバコの吸い殻が混入
(動画拡散はなし)
運営方法変更についてはホームページのお知らせに掲載したとおりです。以下にその部分を抜き出して記載します。 当社では今後の対策として、従来カウンターやテーブルに設置していたしょうゆ、粉茶、わさび(小袋)などの共用の食品と、湯飲み、小皿などの食器について、お客様をご案内するたびに従業員がお席にお持ちし、お帰りの際に回収することにいたします。ご提供する食品・食器は安全確認を徹底いたします。ガリももちろん共用の食品としてお客様をご案内するたびに従業員がお席にお持ちし、お帰りの際に回収することにいたします。 この変更により、混雑時にお客様をお席にご案内するまでに、今まで以上に時間がかかることが見込まれますが、食の安全を確保するために細心の注意を払い、安心してお食事を楽しんでいただけますように、従業員一同誠心誠意取り組んでまいりますので、何とぞご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。