柔和な笑顔が印象的な広海深海さん(33)。「双子タレント」としてテレビで活躍していた2人の姿を記憶している方も多いのではないだろうか。
双子タレントとして活躍していた広海深海の現在地
現在2人は芸能界から離れ、広海さんはマーケティング会社経営、深海さんはスタイリスト、という転身を遂げていた。芸能界という表舞台を離れ、裏方へとジョブチェンジをしたのはなぜだったのか。
「みなさん経験されているように僕らもいろいろなことにトライして、うまくいったこと、いかなかったことを重ねて……、ひと言で言えば芸能界は向いてなかったんです(笑)。でもうまくいかなかったことをグチグチ言いたくないのよねぇ。
今の仕事はリボ払いで500万円の借金を抱えたときに、しっかりお金を稼げる仕事につかなきゃ! と思ったのがきっかけ。ありがたいことにご縁があって、たまたまうまくいったんだと思っています」
そうあっけらかんと笑う広海さん。「目の前の仕事を一生懸命やっていただけよね」と言う深海さんからは、鋭い答えが続いた。
「自分にこの仕事は向いてるって思いながら働いている人なんて、たぶんほとんどいないと思う。それに、日本特有の『私なんてまだまだです』っていう謙遜の文化は、すてきな美学でもありますよね。でも私はあんまり好きじゃないんです。
以前外国育ちの友人が『自信のない人に仕事を頼みたい人っているかな』って言っていてハッとして。それもそうだなって。だから私は『私ならできる。私ってイケてる』ってなるべく思うようにしています。根拠のない自信って大事よ!」
貧乏だったけど不幸ではなかった
10代で芸能界デビューし、さまざまな経験を重ねて今にたどり着いた2人。朗らかな笑顔からは日々の充実度がうかがえるが、その半生は波瀾万丈だった。
「小さいころに両親から育児放棄された私たちを、育ててくれたのは祖父母でした。すごく貧乏だったし、児童相談所に一時期保護されていたこともあります。でもそのころはそこが居場所とは思えなくて」(広海さん)
コロナ禍になり、2020年から2人で始めたInstagramでのライブ動画が人気を博した。2人に元気をもらおうと、フォロワー数はそれぞれ約8万人に急増。
そんな2人のありのままを綴ったエッセイ『むすんでひらいて』(ワニブックス)は重版を重ねるロングヒットに。昨年12月には、インスタライブからこぼれた彼らの発言をもとにした日めくりカレンダーも発売。どちらも印税は入所していた児童相談所と自然保護団体に全額寄付するのだという。
生まれ育った地元、三重県志摩市で行われたカレンダーの撮影には、感慨深い思いがあったようだ。
「幼少期のことを話すと、かわいそうとか大変だったねなんて言われるけど、私たちはちっとも不幸じゃなかったんですよ。2人で一緒に本を読んだり、地元の海で泳いだりすごく楽しかったし、幸せでした。
もう亡くなってしまったけど祖父母にすごく感謝しているから、過去をひどく言うことは嫌だったの。だってそれって一生懸命育ててくれた祖父母に失礼じゃない? とはいえ今回(カレンダーの)撮影で生まれ育った家にも訪れたのですが、よくこんなところに住んでいたわねってビックリしたんですけどね。慣れって恐ろしいわ……(笑)」(広海さん)
「“親ガチャ”って言葉を最近よく聞くけど、私は好きじゃない。もちろん生まれてくる環境によって貧富の差はあるし、貧しいなりの苦労は私たちも経験してきたからよくわかる。人生は平等だなんてことも思わない。でももう生まれちゃってるんだから、グチグチ言っても仕方ないじゃない! 私自身もそうだけど、うまくいかないことを人や環境のせいにして自分を守ることって、誰でもしてしまいますよね。
でもそれを続けたら、自分が息苦しくなっていくだけの気がする。親ガチャでいえば一般的には私たちはハズレなのかもしれないけど、今の人生を一回もハズレだって思ったことはないですね。不運ね~って思ったことは何度かあるけど」(深海さん)
とりあえずやってみるところから
前向きに歩み続けてきた2人の言葉に、励まされる人は少なくない。
「インスタライブを始めたのは暇だったから(笑)。コロナ禍の初期ってこの状況がいつまで続くんだろうって漠然としていたじゃないですか。誰とも会話しないような日が続いていて、おしゃべりがしたかったんです。当初は、私と深海ちゃんは別々に暮らしていたんだけど、配信のたびに集まるのも面倒くさいからもう一緒に住んじゃう?って。僕ら、面白そうなことはとりあえずやってみるんです」(広海さん)
ノリでスタートしたという同居生活は、広海さんのパートナーも含めた3人+グリちゃん、タオちゃんの愛猫2匹と現在も継続中だ。
同居することでSNSでの発信の幅もさらに広がったという。
「私たちのあけっぴろげな配信をたくさんの『友の会』(ファンの愛称)の方々が見てくれるようになって、それがきっかけで本や日めくりカレンダーも出せたし、YouTubeも始めたし、発信する機会は増えました。面白そうって思った流れに逆らわず、身を任せて生きてきたことがうまく作用しているのかなって」(広海さん)
「とりあえずやってみる! ダメだったらやめればいい! という考え方は昔から変わらないよね。最近思うんですけど、人生っていいことも悪いこともあるじゃないですか、金持ちだろうが貧乏だろうがね。でも茶柱立ったレベルの小さなことで、どれだけ喜べるかで人の幸せって決まるのかもって。
私も広海も喜怒哀楽がとてつもなく激しくて、怒るときはそりゃ恐ろしいけど(笑)、そのぶん些細なことを2人でうれしい楽しいってすごく喜べるんですよね、キャーキャーやかましいくらいに(笑)。大人になってもそういうことができる、似たような感覚を持っている人が近くにいるのは、本当にラッキーだったかなって」(深海さん)
時折バトル的なもの言いになるものの、互いのことを熟知した、息の合った掛け合いには、2人の間の強い絆が感じられる。
「芸能界で同じ仕事をしていたときはライバルになる部分もあって、失敗を相手のせいにしたりケンカもしていたけど、今は本業も違うし、距離感としてはちょうどよくなった気がします。
私たちは結局『一心同体』だから、この人が成功すればきっと自分も成功するって信じることで、歯車が合っているんですよね」(深海さん)
過去よりも「今」を見つめて、面白そうなことはとりあえずやってみる。ポジティブにアップデートを重ねる2人の活躍から目が離せない。
(取材・文/片岡あけの)