●舐め回した指で回っている寿司を触る
●回っている寿司のネタを素手で剥がしてワサビを入れる
●皿を取らずに寿司だけ取って食べる
●レーンから取った寿司を食べずに友人同士で回し合った後、レーンに戻す
●箸としょうゆを付けた寿司をレーンに戻す etc……
回転寿司店における客の迷惑行為、“飲食店テロ”が止まらない。連日、SNSで“新たな加害者”が報告されている。特に目立つのが、上記のような回っている寿司に対するいたずらである。
止まらない飲食店テロ、予防策は?
「多くの回転寿司店は、カバーなどを被せずに寿司が皿の上に“晒された”状態のため、このようないたずらが“行いやすい”状況にあるといえます。30年ほど前は、寿司の乾燥を防ぐなどの目的で、フタ状のカバーで覆っているお店は少なくなかった。ですが、透明であるために手垢などの汚れが付いて目立ちやすいこと、匂いがこもってしまうことを理由に廃れていきました」(飲食コンサルタント、以下同)
現在でも“寿司カバー”を導入している大手チェーンはある。『くら寿司』だ。
「『くら寿司』は、カバーを触らずに自動的に皿に乗った寿司に被せるシステムを開発。これで手垢などによる汚れを防げます。さらに、カバー自体に小さな穴を開けることで匂いがこもらないように改良しています」
回っている寿司にいたずらをする人は、カバーがあっても同じような迷惑行為をするかもしれないが、『くら寿司』の寿司カバーは皿を取らなければ開かない仕組みになっており、いささかの抑止力にはなっているだろう。
全国にチェーン展開している大手回転寿司は『くら寿司』のほかに『スシロー』『はま寿司』がある。同価格帯・同規模といえる他社では、なぜ寿司を守るカバーが導入されていないのか。
「『くら寿司』の寿司カバーは『抗菌寿司カバー鮮度くん』と名付けられています。運営する株式会社くらコーポレーションは、このカバーで特許を取っているのです」
特許取得済みとなると、同様のシステムを他社が真似することは難しい。導入するには『くら寿司』に対し、特許料を支払う必要があり、コストがかかってしまう。
『くら寿司』のカバーの特許は、簡単に説明すると、
・カバーが開いているか否かを自動的に検出
・カバー内に皿が置かれているか否かを自動的に検出
・寿司の乗った皿をカバーが閉まるケース中央の適切な位置に置く
・適切な位置に皿が置かれたら自動的にフタが閉まる
特許情報における名称は『飲食物搬送用収容体』。日本以上に乾燥など食の衛生基準に厳しい海外店舗から導入され、'11年に国内全店舗で導入されたという。
『くら寿司』のカバーは上記のとおり“特許”となっているが、他社はこの特許を使わずして同様のシステムを導入することはできるのだろうか。
「『くら寿司』の特許では、“皿を入れると自動的にカバーが閉まり、皿を出すと自動的にカバーが開くこと”が必須の要件となっています。『くら寿司』の特許明細書では皿に手動でカバーを載せ外しすることは従来技術であると認めていますので、“手動で従業員がカバーなどを被せ、客側も手動でカバーを取る”という形であれば、この特許権を侵害しないことは確実です」
そう話すのは、弁理士の栗原潔氏。
皿にカバーを被せることは大した手間ではないかもしれないが、寿司の数だけカバーが必要になりコストがかかり、単純に作業工程も増える。また、30年前と同じ問題も生まれてしまうだろう。
他社が「特許料を支払うので、このシステムを使わせてほしい」と、『くら寿司』に申し出た際、どの程度の金額を支払うのだろうか。
「特許権をライセンスするかしないか、するとしてライセンス料はいくらにするかは、法律で決まっているわけではなく特許権者の裁量となります。今回のケースで言えば、私見ではありますが、手作業で普通にカバーをかけることは自由にできますので、『くら寿司』は他社にはライセンスせず、特許は独占して清潔性と効率性に優れた点を差別化要素としていくのではと思います」(前出・栗原氏)
『くら寿司』は社長の肝いりで寿司カバーとその自動システムを開発した。目的は寿司の乾燥や細菌が付くことを防ぐためだ。寿司にカバーを付けることは、決して“いたずらを防ぐ”ためではない。飲食店テロの“加害者”に付ける薬は……。