「迷惑動画」による炎上騒ぎが後を絶ちません。
登録者60万人を誇るYouTuberグループが、神奈川県のとある地方で高齢女性が一人で切り盛りするうどん店を訪れ食事をしたものの、「料理の提供が遅い」「対応がなっていない」などと酷評した動画をアップしました。
しかし訪れた4人が、店員一人で回す店では提供に時間がかかるであろうバラバラのメニューを注文し、その対応をあげつらったり、おまけとしてくれたお菓子に文句を言ったりしたことに、視聴者から大反発を呼び、炎上状態となりました。
「うどん店酷評動画」への
謝罪が批判された理由
動画が配信されたのは昨年10月のことですが、昨今の回転寿司店などでの不適切・犯罪行為の動画投稿、いわゆる「客テロ」「バカッター」事件で、飲食店にまつわる動画の掘り起こしが行われ、注目されたようです。彼らの高齢者をばかにするような動画内容が、正に「胸糞」(胸糞が悪くなるような唾棄すべき行為)だとして、大炎上になったといえます。
動画を投稿した当事者である「夕闇に誘いし漆黒の天使達」というYouTuberグループは、有名YouTuberを多数抱える大手マネジメント企業UUUM所属でもあり、登録者数は60万人を超える人気者です。このニュースが広まり、大批判が寄せられたことで、同グループは謝罪をし、問題動画も非公開にしました。さらにそのうどん店にも電話で謝罪し、理解を得たという報告もされました。
しかし炎は消えるどころか、延焼を続けています。同グループが出演するFM横浜のラジオ番組は事件発覚後に打ち切りとなり、動画投稿活動も休止することが発表されました。
謝罪し、被害者と和解したにもかかわらず、世間の批判が止まらないのはなぜでしょうか。YouTuberの不祥事は頻発していますが、そのほとんどが視聴者に“許される”ことはありません。彼らの対応のどこに問題があるのか。
筆者は危機管理コミュニケーションの専門家として、数々の企業でコンプライアンス研修を行い、「不祥事時の謝罪」を見てきた経験から、昨今のYouTuberの謝罪が不発に終わってしまう原因を探ります。
なぜ、今回トラブルを起こした「夕闇に誘いし漆黒の天使達」の謝罪は、世間に受け入れられなかったのでしょうか。
同グループのチャンネルには謝罪動画が投稿されており、その中で自分たちの行為の非を認めています。うどん店の女性に電話をかけてお詫びをし、受け入れてもらったこと、さらには当面の活動停止を発表しました。地味なスーツ姿に神妙な語り口。これは謝罪の基本に沿っています。
ただ引っかかるのは、「動画投稿を“当面”停止する」という報告。さらには、「ライブ(バンド)活動は今後も続ける予定」という宣言が入っていることです。
先日、投資トラブルが問題となったお笑い芸人TKO・木本武宏さんが、経緯の説明とお詫びを兼ねた会見を開きました。その誠意ある対応は一定の評価があった一方、終盤で相方の、やはりトラブルで出番が激減した木下隆行さんが登場し、今後のコンビとしての芸能活動再開と意気込みを語ったことへは批判も呼びました。
私は謝罪会見に、謝罪以外の情報を入れることに反対です。結局自分たちの“仕事アピール”なのでは、という反発を呼んでしまうからです。同様に、「夕闇に誘いし漆黒の天使達」についても、「バンド活動は今後も続ける」の発言は不要でした。
「まず電話で謝罪する」ことは間違っていない
迷惑をかけたうどん店に対し、直接店に出向いてではなく、電話口でお詫びを済ませたことへの批判もありました。ただ、これについては、インターネットについて詳しくないであろう相手に、YouTubeのことや今回の経緯を説明したところで、理解を得るのは難しいでしょう。
私は常々、謝罪において直接訪問は、相手の時間を奪うという大きなマイナスがあると考えています。相手から呼ばれていない限りは、「すぐお詫びに行く」ことを控えるべきでしょう。彼らも、「直接謝罪に行くことを先方に相談している」旨を動画の中で明かしています。これは悪い対応ではありません。
また、グループの各メンバーは、それぞれTwitterでも謝罪をしていますが、そこに貼られている「今回の件に関して」という謝罪文画像が共通していることから、「テンプレ謝罪」という批判もありました。これはもちろん、良い印象になることはありません。文面はそれぞれ変えたほうが誠意は伝わったかもしれません。
謝罪方法に大きなミスがないのに、世間に受け入れられない。謝罪をしてもそのまま消えていってしまうYouTuberと、トラブルを起こしても生き残る人とでは何が違うのでしょうか。
そこで、今回本稿を書くに際して、「YouTuberの謝罪における成功例」を探してみました。多くの謝罪動画を見ましたが、たった1人を除いて、成功といえる例はありませんでした。それがヒカキンさんです。
1110万人の登録者数を誇り、人気YouTuberの頂点に立つヒカキンさんも、昨年、自身のチャンネルで行った「ヒカキン鬼ごっこ」という動画でトラブルを起こしました。
企画内でアクシデントが起こったにもかかわらず、制作サイドが参加者にルール変更を伝えないままゲームが続行され、企画自体が成立しないものになっていた、とのこと。このことはネットニュースなどでも報じられ、一般的にも知られることとなりました。
YouTuberの謝罪で“唯一成功”したヒカキンの例
このとき、ヒカキンさんはすばやく謝罪を行い、結果として炎上状態になることはなく鎮火となりました。このときのポイントは、以下の3つにあると考えています。
1:人のせいにせず、自分の責任だと明確にした
2:「想定外」だと言い訳せず、想定できなかった自分の責任を語った
3:「世間に迷惑をかけた」というあいまいな謝罪をしなかった
謝罪ではまず、「自分が悪かった」ということを伝えなくてはなりません(1)。スタッフにこういうミスがあった、と経緯説明をする前に、「悪いのは自分である」「責任は自分にある」と明確にしたことで、ヒカキンさんの誠意はより伝わったかと思います。政治家など、多くの失敗謝罪は自分より先に人のせいだと説明しがちです。
また、この件は「想定外のアクシデント」によって引き起こされたものでしたが、それを「想定外だったから仕方ない」とはせず、「想定できなかった自分が悪い」というふうに謝罪していました(2)。謝罪において言い訳は百害あって一利なしです。その姿勢は好感を誘ったと思います。
最後のポイントは、直接の被害者に謝罪をしたこと(3)。「世間を騒がせた」という言葉は謝罪の常套句のように使われますが、私は避けるべきだと思います。誰に謝っているのかがわからず、いかにも事務的な響きが不快感を呼ぶからです(「遺憾」も同様)。
ヒカキンさんは、まず企画にかかわった参加者やエキストラ、スタッフ、そして視聴者に対して謝罪しました。具体性があり、なぜお詫びをするかを明確にしたことは当事者意識の高さであり、非常に好感を持てます。
このトラブル以降も、ヒカキンさんはトップYouTuberとして地位も評価も維持できています。
YouTuberの収入は、動画の再生回数や、スポンサーとの取り決めなど、さまざまなパラメータによって決まるといわれます。人の野次馬根性を刺激する“迷惑動画”は、批判を呼ぶ代わりにビュー(動画再生回数)を稼ぐことができます。しかしここ最近は、こうしたいきすぎた迷惑行為に対し、ビューさえ稼げれば何でもありとはいかなくなりました。
ただそれでも、YouTuberにとって、いまだ視聴数が重要であることは間違いありません。今回の「うどん店酷評動画」のような、本人たちには“攻めた”コンテンツ、視聴者からは“迷惑行為”と思われるような動画はなかなか減らないのです。そして批判され、謝罪に追い込まれても、その謝罪動画は自分のチャンネルから発信できるわけですから、ビューを稼げる可能性があります。
たださすがに謝罪動画でビューを稼ぐことを、はじめから狙っているとは考えにくいのです。なぜなら批判を浴びた場合、そのまま活動停止、動画投稿も止まることが少なくないからです。今回の「夕闇に誘いし漆黒の天使達」以外にも、批判を浴びた結果謝罪をし、活動停止になったYouTuberはいくらでもいます。
YouTuberの“やらかし謝罪”本当の問題点
そして、そういったYouTuberたちの “やらかし謝罪”は、だいたい同じような経過をたどります。
「動画でやらかし→批判されたら謝罪で火消し→頃合いを見て復帰」という流れ。これが視聴者にあからさまに透けて見えるのも共感を得にくい理由でしょう。トラブル対応マニュアルに沿った“テンプレ対応”であるように、正直感じるところもありました。怒りや反発というより、空虚な思いにさせられます。
多くのYouTuberの謝罪が成功したといえない本当の理由は、その点にあると考えます。そもそも謝罪は急場しのぎの対応ではなく、その先にある“本当のゴール”を考えて行うものです。
企業でいえば、謝罪は「BCP(事業継続計画)」の一環です。謝罪そのものがゴールであってはいけないのです。よくあるのが土下座や頭を丸める、号泣するといったパフォーマンス。YouTuberや芸能人の方によく見られる行為です。危機管理の観点からいえば、これらにはまったく意味がありません。
まず、このような突飛なパフォーマンスは、人に強烈な印象を残します。世間に「土下座するほど悪いことをした人」という印象が植え付けられるでしょう。そのイメージのために、今後の活動が狭まれてしまっては、BCP的には失敗です。
謝罪は小手先のテクニックだけではダメなのです。事態収拾という本来の危機管理のフレームワークを組み立てず、パフォーマンスだけの謝罪で何とかしようというのは非現実的です。
まずは謝罪の先にあるゴールを意識し、かつ自分の責任をきちんと自覚し、誰に対して謝るのかをはっきりさせたうえで、自分の言葉で謝意を伝えるべきだと考えています。
増沢 隆太(ますざわ りゅうた)Ryuta Masuzawa
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。