「成金趣味という言葉がピッタリ当てはまる社長だ。騙し取ったとみられる計約200億円の出資金はカジノなどで散財。高級車やクルーズ船を買い漁り、果ては無人島まで購入していた。『ネバーランド』と名付けてリゾート開発するつもりだったらしい。金持ちを島に招待し、さらなる巨額マネーを集める魂胆があったのではないか」
と全国紙社会部記者はその目論見を喝破する。
東京・新宿区に本店を置く投資コンサルティング会社『FRich Quest(フリッチクエスト)』社長の森野広太容疑者(38)のことだ。架空の投資話で集めた出資金を騙し取ったとして警視庁生活経済課は8日、同容疑者を筆頭に同社幹部ら男女計8人を詐欺の疑いで逮捕した。
3300人から約200億円を詐取
逮捕案件を含めおよそ3300人が被害に遭ったとみられ、詐取した総額は約200億円におよぶ見込み。実際に投資に充てていたのは3億円程度にとどまるというから、差し引き約197億円はどこに消えたのか。
「2年前に国内の無人島を約8000万円で購入し、島を往来するクルーズ船を約4000万円で買っている。毎月開催し、出資者を招いてきた豪華な『おもてなし会』にはお笑い芸人や著名人を呼び、有名飲食店に出張調理させるなど羽振りのよさを演出した。女子プロレスの興行を主催したこともある。都心に構えた事務所はサウナ付きだった」(前出の記者)
どれほど豪勢な事務所なのか。本店所在地を訪ねてみると、新宿三丁目駅に近い雑居ビルのワンフロアだった。同社があるはずのフロアは看板が外され、エレベーターも停まらなくなっていた。
同ビルの関係者はこう話す。
「もう1年以上前に退去していますよ。てっきり自己啓発セミナーをしている会社だと思っていたんですが、投資コンサル会社だったと知って驚いています」
ビル入居者によると、大勢の人が頻繁に出入りするフロアだったという。
同社のブログにスタッフが投稿していた内容から、その異質さはみてとれる。
《事務所は和、和、和です!はじめてご来社いただくお客様はエレベーターが開く瞬間、階数間違えちゃったかな?ってよく思われるみたいです。和テイスト=FRich Questなのでご認識ください。というのも代表の森野がとにかく日本、和が好き!彼のこだわりにより、事務所には井戸もあれば、滝もあるし、さらには道場もあります!とにかくとことん追求するタイプなので、いろいろできちゃいました》(18年7月10日)
事務所の評判について《かなり良い》と胸を張るが、仕事に打ち込める環境とは思えない。装飾のセンスも独特だった。
《玄関先にはなんとワニの剥製があります。1メートルほどのワニと小さいワニ達。ワニの口に指を入れるとワニに噛まれた時のイメージを体感いただけます(笑)。やばい!って感じると思います。あっ、もちろんちゃんとしたお土産もございますのでご安心ください。今回は東南アジアのお土産ですが、お越しいただく度に違ったお土産がございます》(18年7月11日)
来訪客をお土産で釣るつもりだったのか。金回りがいいと匂わせることぐらいはできただろう。
同社は2016年ごろから一口100万円で出資を募り、インド洋のセーシェル共和国にある会社で資産運用して月4パーセント、すなわち年48パーセントを配当すると出資者に約束。21年秋ごろ自転車操業に陥り、配当金の支払い遅滞が始まったとされる。
「同社スタッフが社員旅行でセーシェルに行った際、資産運用会社の所在地にはアパートのような建物があるだけで実体はなかったという。運用していないのだから利益が出るはずがなく、配当金の原資は、新たな出資者が出す金となる。早急に多くの出資者の信頼を得る必要があり、森野容疑者はメディア戦略に打って出た」(前出の記者)
テレビやラジオに出演し、有名脚本家と対談したり、知名度ある女性アナウンサーと共演。活字メディアにも取り上げられた。
国際ニュース週刊誌『ニューズウィーク日本版』(21年3月16日発行)では、「チャレンジャー」と題して森野容疑者のインタビュー記事が掲載された。20年秋に設立したばかりの不動産会社の社長として、存分に夢と野望を語っている。
別荘地は東京へリポートから30分以内で行ける場所
そこでは新たなビジネスとして、別荘分譲とヘリコプターによる輸送を組み合わせたサービスを企画中と明かしている。
《海外へ行きづらい昨今、東京からヘリで郊外の別荘に行き、都会の喧騒を離れてデジタルデトックスできるサービスは、富裕層の方に高い需要があると感じています。既存の別荘を購入するか新規で建築するかは検討中ですが、いずれにしても、別荘地は東京ヘリポートから30分以内で行ける場所を考えています》(同誌より)
記事によると、当時は伊豆などの候補地をリストアップしている段階で、軌道に乗ったら関東周辺にへリポートを備えた別荘地を増やす展望を描いていた。休眠状態だった不動産会社をM &Aで譲り受け、社長に就任したという。
ニューズウィークで語った“無人島計画”
見開きページの右側は、森野容疑者のインタビューカットをデカデカと掲載。黒いTシャツに馬の蹄のペンダントトップをあしらった金のネックレスをぶら下げている。プロフィールには慶大卒でドン・キホーテに入社したことや、フリッチクエストを設立、代表に就いた経歴が記されていた。
無人島のレジャー開発にも言及している。
《日本には、無人島で遊べるところが少ない。自然の豊かさを学びつつ、ゆっくりと過ごせる無人島をつくりたいと考えています。実はこちらも候補地があり、近々下見に行く予定。将来的には、その開発にも弊社を連携させていきたいですね》(同誌より)
記事掲載の約2か月後には、フリッチクエストと同じ場所に本店を置く新会社を設立。法人登記情報によると、事業目的はネイチャーアクティビティツアーや自然実体験型ワークショップの運営、会員制ホテル・リゾートクラブの経営などとされ、無人島のレジャー開発を前提に会員権を売りさばく狙いが透けてみえる。
一方、不動産会社のほうは昨年2月23日に社長を退任。同社に森野容疑者の退任の経緯や無人島開発について話を聞こうと連絡したところ、電話は不通になっていた。
ネットで特定される森野容疑者の元妻
被害者のおよそ3分の2は20〜30代の若年層だ。出資金を捻出するため消費者金融をはしごさせられたり、数百万円〜1000万円以上の借金を負わされたケースもあるという。
契約書面は英語のみで、やりとりはメッセージが自動的に消去される通信アプリ『シグナル』を使っていたから、ハナから騙す気満々だったともとれる。
そんな森野容疑者らへの怨嗟からか、ネット上では「森野容疑者の元妻」と名指しされた女性の画像を公開する騒ぎも……。
《無類のホテル好きでセレブ旅をしまくっていた》
《フェラガモのプレゼントを誇らしげに持っていた》
《彼女の金も詐欺の200億から捻出されていたなら許せません》
などと憶測が飛び交い、森野容疑者との3ショットで子どもの顔を掲載するサイトまであった。
騙し取った出資金は、ギャンブル代を含む遊興費に消えたほか、森野容疑者の個人的な流用もあったとみられる。逮捕された同社幹部らは都内の一等地でタワマンに住むなど分不相応な生活を送っていた。
「捜査当局は家宅捜索で押収した資料の分析などを進め、集めた金の流れを調べている」(前出の記者)
高い“勉強料”と諦めるには巨額すぎる被害。何にどう使われたのか、事件の全容解明が待たれる。