今“固定電話”という言葉をインターネットで検索すると、真っ先に表示されるのが“廃止”そして“2024”のキーワード。固定電話がなくなるということ? これは一体どういうことか─。
固定電話自体は無くならない
「固定電話が2024年にアナログ回線から切り替わり、IP網に移行します」
と話すのは、NTT東日本広報室・佐倉裕之さん。移行の理由について、
「近年ご家庭で固定電話を利用している方が減りつつあり、さらに今使っている中継交換機が老朽化して'25年に限界を迎えるため」
と解説。とはいえ、今後も固定電話自体がなくなるわけではないという。
「IP網というネットワークに切り替えることで固定電話のサービスを継続してご提供していく」(佐倉さん)
というように、移行はあくまで固定電話を残すための措置とのこと。しかし、携帯電話の普及が固定電話の衰退につながっているのは事実。実際のところ固定電話は今、一般家庭でどの程度使用されているのだろう?
週刊女性が全国40~60代の男女600人にアンケート調査を行ったところ「自宅に固定電話がある」が76.67%、「あるが近々契約を止める」が1.17%、「ない」が21・5%という結果に。中高年以上の層に関しては、今なお多くの家庭が固定電話を所有していることがわかった。
では、固定電話と携帯電話をどう使い分けているのか? の問いには、
「携帯電話は家族用で、無料通話専用。固定電話は家族以外との通話で、仕事上での見積もりなど長い電話になりそうなとき」(神奈川県・58歳女性)
「5分以内で済みそうな話は携帯電話で。それ以上かかりそうなときは固定電話」(鹿児島県・56歳男性)
と、通話料金がよりお得なほうを選択しているという回答が目立った。また、
「固定電話はほとんど通話せず受けるだけで、主にFAXとして使用。基本的に通話は携帯電話を使っています」(長崎県・50歳男性)
「固定電話は詐欺や勧誘などの電話が多いので基本的に留守番電話。携帯電話は知人との連絡用」(北海道・54歳女性)
など、固定電話は受信またはFAX専用という声も。さらに、
「携帯電話でフリーダイヤルにかけられないときに固定電話を使用」(東京都・40歳男性)
「固定電話は音声通話専用。携帯電話はメールとSNS用」(千葉県・45歳男性)
といった回答もあり、通話時間や相手先、使用シーンで双方を使い分けているケースがある。
黒電話のかけ方がわからない若者たち
NTT技術史料館によると、国産電話の第1号機が製作されたのは1878年で、グラハム・ベルが電話を発明したわずか2年後のことだった。固定電話が一般家庭で広く使われるようになったのは1980年代に入ってから。
当初は黒電話が電電公社から貸し出されていたが、'85年の通信自由化政策に伴い、さまざまなメーカーによる電話機が使用されるようになり、固定電話の普及が進む。しかし1990年代後半になると携帯電話が急速に浸透し、固定電話の需要は減少。2000年には携帯電話とPHSの契約数が固定電話を抜いている。
NTT技術史料館を訪れる若者の中には、展示してある、プッシュ式ではないダイヤル式の黒電話を見て、
「使い方がわからない」
とつぶやく人も多いという。20歳未満の世代は携帯電話ネイティブで、黒電話はもはや映画やテレビの中だけのもの。片や、
「いまだにウチは黒電話。45年間使っていて故障したのは1度だけ。ここまでくるともう新しいものに買い替えようという気が起こりません」(神奈川県・58歳女性)
という声もあるように、黒電話に愛着を持つ人も根強く残る。振り返ればかつては固定電話が唯一の通話手段で、いくつものドラマがそこで生まれてきた。そんな“固定電話の思い出”を聞いてみると……。
古き良き昭和の固定電話エピソード
「昔はどこの家も電話は玄関に置いてあった。自宅に電話がない近所の人がよく借りにきて電話をかけていた」(埼玉県・68歳男性)
「子どものころ周りはほとんど電話がなかったけれど、ウチは商売をしていたから早くからあった。近所の人あてに電話がかかってきては呼び出していた」(神奈川県・61歳男性)
というのは、古き良き昭和の薫り漂うエピソード。また、
「受話器にいい香りのするフィルターを取り付けていて、何か月かに一度女性が取り替えに来ていた」(愛知県・63歳女性)
「電話機にカバーをかけていた」(神奈川県・64歳男性)
「受話器の後ろにオルゴールのついた受話器受けを置いていた」(兵庫県・60歳男性)
と、懐かしの固定電話“あるある”も多数。携帯電話がなかった時代にとりわけ苦心したのが恋人との通話で、
「ガールフレンドからの電話を親に取り次がれるのがイヤだった」(茨城県・65歳男性)
「好きな人に電話をかけると決まってお父様が出た」(宮城県・51歳女性)
「コードをギリギリまで延ばして自分の部屋に持ち込んでは長電話をしていた」(埼玉県・47歳女性)
など、甘酸っぱい思い出話も。
固定電話のIP網への移行は2024年1月1日以降の切り替えが予定されている。
「今使っている電話は使えなくなるの?」と案ずる声も多いが、
「黒電話を含め、現在使用中の電話機や電話番号、FAXも継続してお使いいただけます」(佐倉さん)というからご安心を。また公衆電話、警察・消防・海上保安庁への緊急通報(110・119・118)、番号案内(104)、時報(117)、天気予報(177)、電報(115)などのサービスも継続。
一方、短縮ダイヤル、キャッチホン・ディスプレー、お話し中調べ(114)など、利用減少が続く一部サービスは終了を迎える。
回線移行に便乗したダマしの手口に注意
IP網移行にあたり懸念されるのが、切り替えに便乗した強引な販売勧誘や詐欺被害。国民生活センターで「今後固定電話が使えなくなると言われて、光回線の契約をした」「2024年にアナログ回線がなくなると言われて、光回線を勧誘された」などの相談事例もある。
もし不審な勧誘やトラブルがあれば、消費生活センターなどに連絡を。今後も移行に便乗した詐欺や勧誘は頻出するとみられ、前出の佐倉さんも、
「ご利用者様のほうで契約手続き、電話機の交換、切替工事をしなければならないということはありません」
と注意を呼びかける。
かつて固定電話は豊かさの象徴で、加入権が8万円という時代も。それだけに信頼性も高く、アンケートでも、
「書類に書く番号のために固定電話を持っているようなもので、基本は携帯電話オンリー」(東京都・45歳女性)
と、公の機関への提出書類用に固定電話の番号を残しているというケースも見受けられた。同時に今後も固定電話の使用を継続するか否か検討しているという声も多く、
「そうなると電話の債権はどうなるの?」(大阪府・66歳女性)
という、権利に関する問いが複数あがっている。
「固定電話を利用する際は施設設置負担金をお支払いいただいていますが、これは解約のほか、休止・再開も可能」(佐倉さん)
とのこと。ちなみに、「解約料はなし。ただし解約しても返金はございません」。また今後も固定電話の加入は可能で、新規契約時に3万6千円(税抜き)の施設設置負担金、もしくは月々のプランに上乗せした契約が必要となる。
IP網への移行に伴い、料金も改定される。基本料金は現状のままで、通話料金は現在の市内通話料金と同じ9・35円/180秒だが距離に関係なく、全国一律になる。長距離通話がぐっとお得になる計算で、これは固定電話ユーザーにとってはうれしいニュースといえよう。
コミュニケーションの在り方が刻々と変わる時代に、この先固定電話をどう使い、携帯電話とどう併用していくべきか。自身のライフスタイルを見直す必要がありそうだ。
<取材・文/小野寺悦子>