近年、“家族葬”を選ぶ遺族が増えている。
2020月3月から2022年3月の2年間、喪主を経験した40歳以上の男女から回答を得た葬式に関する全国調査では、半数を超える55.7%が家族葬を選択。
コロナ禍以降の葬儀に変化
一般葬に代わり、家族葬が主流になりつつあることがうかがえる。
「これには新型コロナが影響しています。2020年のコロナ発生以降、親族や参列者の安全面から大勢で集まる密な葬儀を避け、小規模な葬儀を好む傾向が強くなりました。そんな家族葬の需要増加に伴い、新たな問題を抱える遺族も少なくありません」
と話すのは、葬祭コーディネーターの安部由美子さん。安部さんは葬儀業界に20年以上携わり、これまで2万人超の見送りを経験している。
「家族葬といえば、『費用を安く抑えられる』『家族だけで故人とゆっくりお別れできる』『葬儀時間の短縮』などの利点をイメージする人が多いのではないでしょうか。
確かにそういった側面はあるものの、一方でトラブルを招く原因にもつながります。家族葬は近親者のみで執り行う小規模な葬儀の総称とされていますが、明確な定義はないため、『思い描いていた式と違う!』ということになりがちなんです」(安部さん、以下同)
オプション費用で150万円も追加に
では、イメージと現実はどう異なるのか。金銭面のトラブルから聞いていこう。
「葬儀社から最初に提示される見積もりは思いどおりの安い金額です。しかし式終了後の請求書では、見積もりをはるかに上回る額だったという例は何件も耳にしています」
その差はなぜ生まれる?
「サービスの追加費用がかかるからです。例えば、最低限のプランで祭壇の飾りが少ないことに対し、『祭壇が寂しいので何かお供えしましょうか?』、家族以外の想定外の参列者が来てしまったときには、『火葬場までバスをご用意しましょうか?』と担当者に言葉をかけられ、慌ただしい中で『はい』と言えば追加。
名簿にない参列者に受付で返礼品を渡せば追加になりますし、ご遺族への確認なしにサービスを加算されて事後報告というパターンもある。私の知る例では見積もりと実際にかかった費用の差額は、最高で150万円以上でした。
金額に納得できず、裁判に発展した例も。リーズナブルなはずの家族葬が逆に高くつき、家族が亡くなった悲しさに経済的なダメージも加わるのはつらいことです」
次は人絡みのトラブル。家族葬は比較的新しい形ゆえに、周囲の理解を得られないことも少なくない。
「想定外の参列者が訪れるのはそのためです。葬儀に呼ばれなかった人が葬儀後に『線香を上げさせてください』と次々自宅を訪れ、対応に追われることもあります。家族葬で簡単に式をすませたはずがフォローに手間や時間を要しては、本末転倒でしょう」
一方、葬儀社選びにもトラブルのもとが。CMなどで格安プランの家族葬をアピールしている“紹介業者”を利用する際には注意が必要という。
「CMを流している業者は葬儀社ではなく、電話やWEBで葬儀を仲介する窓口に過ぎないのです。
紹介先を信じて家族葬を行ったら、従業員のマナーが行き届いていないなど質の悪いところに当たった話をよく聞くので、運が悪いと不快な思いは避けられない。紹介先をうのみにしないことですね」
呼ばない人への連絡はタイミングを配慮して
こういった家族葬トラブルを回避するには、事前の心構えや対策が不可欠になる。
「金銭面は葬儀社に対し、最初の段階で予算額を明確に伝えましょう。これ以上払えないことを告げれば予算の範囲内で収めてくれるはずです。
サービスの追加については担当者にその都度、金額を確認して不要なら断り、加算がないかも明細を常時チェックするようにしてください」
人絡みでは親戚やご近所の方、故人の関係者への家族葬の知らせ方やタイミングに配慮しなければならない。
「家族葬のお知らせは、近親者のみで行うことを十分説明し、理由として『故人の意思を尊重したもの』とすれば、比較的理解を得られやすいと思います。
タイミングは葬儀前、葬儀後のどちらが正解とは言い切れませんが、葬儀前に知らせると想定外の参列を招きかねないので、葬儀後のほうが身内のみの心安らぐ式を望めるでしょう」
最後は紹介業者だけに頼らずに葬儀社を選ぶ方法。
「紹介業者が案内する葬儀社も選択肢のひとつとし、自分でも事前に目星をつけておくことをおすすめします。良い葬儀社は施設内外が常にキレイに整備され、従業員の対応も礼儀正しい。一度足を運んでみれば一目瞭然ですよ」
トラブルを避ける!家族葬の心得(4)
・葬儀社には予算を具体的に伝える
・追加費用が加算されていないかこまめに確認する
・呼ばない人にはハガキで一報入れるなど配慮を
・紹介業者に任せきりにせず事前に葬儀社をリサーチ
良かれと選んだ家族葬が悲しみの上塗りに……
case 1/「家族葬など非常識」近隣住民が怒鳴り込み
「『本日は家族葬が執り行われています。一般の方はお入れできないんです』。そうお伝えしたのですが、『喪主を呼べ!』と、ものすごい剣幕で怒鳴られてしまい……」
安部さんが司会を担当した家族葬でのひとコマだ。式場に怒鳴り込んできたのは故人の近所に住む女性だった。
「ご遺族が『今日は近親者のみの式なので』と釈明しても聞く耳を持ってもらえない。お悔やみの言葉は一切なく、『お別れできないなんて非常識だ』とののしる。『私に恥をかかすの』などとこぼしていた言葉から、世間体を気にされていたと推測します」
安部さんらがその人を別室に案内してお茶を出し、話を聞いたことで気が静まり、なんとか穏便にすんだ。
「近しい人の葬儀に参列するのを当たり前の風習とする地域もあります。家族葬ではそれができないことをうすうすわかっていながら、ご近所の手前、行かずにはいられなかったのかもしれません」
case 2/お布施額が見合わず読経の手を抜かれ唖然
家族葬でも一般葬と同じく、僧侶にお布施を渡し、お経を読んでもらうのは変わらない。
「ただ家族葬の場合、費用を安く抑えたいご遺族が多いため、お布施の額も渋くなりがちです。そもそもお布施の金額に決まりはないため、問題はないんですけど……」
そう語る安部さんが立ち会った式で異変が起きた。
「通常、お坊さんの読経は30~40分程度続きます。にもかかわらず、その日はものすごい早口でお経が読まれ、なんと10分余りで終わってしまった。私もご遺族の方々も唖然とし、その瞬間は言葉が出なかったですね」
式終了後、遺族と珍妙な読経の話題に。
「ご遺族いわく、『お布施を少なくしたのが悪かったのかしら……』とこぼしておられました。『私の読経代は100万円』と口にするお坊さんもいます。
家族葬を一般葬より格下に見て、お布施も安いから、『この程度でいいだろう』と手を抜かれるケースはなきにしもあらずです」
(取材・文/百瀬康司)