外食の定番、大人気のファストフード店である回転ずし。庶民の味方のこの業界に、逆風が吹き荒れている。
寿司をファミリー層に広げた立役者が危機
まぐろなど魚介の相次ぐ値上げと、心ない炎上動画で利用者が急激にダウン。一時の勢いを失ったかに思えるが、はたして実店舗の様子とは。寿司のプロが、味、サービス、コスパを徹底リサーチ。
「今回の迷惑動画は回転ずし業界がコスト削減のために頑張ってきたことが裏目に出てしまった感はあります」と回転寿司評論家の米川伸生さん。
テーブルに置かれたしょうゆに口をつけて飲む、回転している寿司にわさびをのせるなど、悪質ないたずら動画が拡散され、打撃を受けた回転ずし業界。さらに、昨年10月に軒並み値上げしたこともあり、客離れ、業界イメージの悪化が懸念されている。
そもそも回転ずしでは原価率50%という商品もあったほど、企業努力によって新鮮で安く、美味しい寿司を提供してきた。だが、昨今の記録的な円安、燃料価格高騰により、値上げに踏みきったわけだが、人件費カットなどさまざまなコスト削減も行ってきた。
「タッチパネルや特急レーンなどは客の不満を解消して発展してきて、客にも店にもメリットはありましたが、近年急速に進む『省人化』は店内の監視の目を緩め、迷惑行為を誘発する環境を生み出すことにもつながってしまった」(米川さん)
安価で寿司を提供するために力を入れてきた企業努力が裏目に出た結果というわけだ。
回転レーンは消滅!?回らないレーン増加中
昨年の値上げ以降、これまでの勢いが失速した店も。
「家族4人でたらふく食べて5000円程度だったのが、今では7500円ほどに。それぐらいかかるのなら、焼き肉食べ放題やハンバーガー店などに行くという選択肢が生まれてしまった」(米川さん)
しかし、味のクオリティーはむしろ上がっているそう。
「値上げしたことで、全体的にネタの質はよくなっています。ただし最低価格のメニューの数がどこも減ったため、“コスパがいい”とはいえなくなっています」(米川さん)
また、コロナによる衛生意識の高まり&食品ロスの観点から、「回らない回転ずし」へのシフトが加速している。
「回っている寿司を見る楽しさもありますが、回らなくても握りたてが食べられるほうがいいという人も。迷惑行為の件もあり、この流れは今後も進むと思います」とは、寿司業界を盛り上げる事業に携わる、寿司リーマンさん。
回転ずしのコスパが圧倒的ではなくなってきた今、業界は新しい局面を迎えている。
「昨今は高級寿司店が回転ずしや立ち食い寿司なども始めている。各社が刺激し合って寿司業界を盛り上げてほしいですね」(寿司リーマンさん)
これからは味、価格、エンタメ性など何に重きを置いて満足感を得るかを選ぶフェーズに。次項からのリアル調査を参考に、回転ずしの魅力を再発見して。今夜、行きたくなること間違いなし!
※本文中の価格はすべて税込み価格
【はま寿司】明るく活気のある店内【イチオシ!】
【はま寿司】基本情報
《店舗数》622店
《にぎり》86種類、110〜165円
《軍艦巻物》35種類、110〜319円
《サイドメニュー》26種類、110〜418円
《デザート》9種類、110〜220円
※期間・エリア限定品アイテムは除く ※すべて税込み価格
※2月8日現在編集部調べ ※店舗により種類と価格が異なります(以下同)
「店内は活気があり、ネタも美味しくなっていてコスパのよさは、さすがはま寿司」と寿司リーマンさん。米川さんも「110円皿のお得感は健在。4店舗の中でいちばん安定感がある」と高評価。
昨年、1皿308円の高価格帯商品を10円値上げしたが、メニューの多くを占める110円、165円の商品は価格を据え置き、安さを武器に値上げ組に攻勢している。また、はま寿司は『すき家』などを展開するゼンショーホールディングスが運営しているため、
「肉系の寿司が他よりも美味しく、レアステーキシリーズなどにもかなり力を入れています。あと個人的には、あおさのみそ汁が110円で飲めるのがすごいなと。みそ汁もので110円は4社中ここだけ。ブレない良さを感じます」(米川さん)
ブレない姿勢でコスパ良し!
1つのネタでいろいろな食べ方をさせるところも、グループ全体のらしさだと寿司リーマンさんも分析。
「あぶりや、白髪ねぎ&ラー油をのせたり、大根おろしをのせたり。トッピングで展開させることで食べ飽きない」(寿司リーマンさん)
卓上には選べる5種類のしょうゆや、塩、こしょう、七味などがあり、自分でカスタマイズすることで寿司を楽しく食べさせる工夫が。
他にも、タッチパネルの使いやすさにもお客さんに寄り添った姿勢が感じられるという。
「最初にタッチパネルの使い方動画があったり、音声を『鬼滅の刃』の声優さんが担当しています。ストレスなくメニューが選べるのがいいですね」(寿司リーマンさん)
設備からメニューまでさまざまな工夫が感じられるのが強みだ。
【高評価ポイント】
★皿単価が安くてお得感あり
★ネタ切りが大きく食べ応えよし
★トッピングやしょうゆでの味変が楽しい
はま寿司で食べるべきは【あぶり&漬け、肉系】
直火焼き牛カルビ 165円
「甘辛のたれが口の中に染みて美味しい。肉もやわらかくて大きい。肉好きの人にオススメ」(米川さん)
ほたてレアステーキ 165円
「レアステーキシリーズはどれも絶品。肉厚なほたてが香ばしくガーリック&ペッパーと合う」(米川さん)
特製漬けまぐろ 110円
「切り身が大きく、漬けだれのレベルが高い。普通のまぐろを食べるより美味しい!」(寿司リーマンさん)
炙りうなぎ 165円
「うな重を口いっぱいに頬張っている感じ。2貫で165円はめちゃめちゃ安いです!」(寿司リーマンさん)
【くら寿司】値上げ幅も許せる範囲内【ニオシ!】
【くら寿司】基本情報
《店舗数》537店
《にぎり》84種類、115〜345円
《軍艦巻物》34種類、115〜345円
《サイドメニュー》32種類、115〜1000円
《デザート》18種類、115〜280円
抽選のゲームシステム、名物「ビッくらポン!」が子連れのファミリー層に絶大な人気を得ているくら寿司。
「浅草や原宿などで展開する、縁日、屋台などを再現した、インバウンド需要を狙ったお店もかなり好評です」と米川さん。近年のエリアを絞ったマーケティング戦略がうまくいっている様子。肝心の寿司については?
「全体的に値上げした印象はありましたが、以前よりネタが大きくなっていて食べ応えがありました」と寿司リーマンさん。「115円皿の数が多いので、値上げはそこまで気にならないのでは」(米川さん)
商品の完成度高し!
さらに、値上げした分、商品開発に力を入れているのが目に見えてわかると米川さんは言う。
「“まぐろ軍艦三種盛り”は、かなり出来がよいなと感じました。えびが2本になって110円から165円になった“えび天2倍手巻き”もこのクオリティーを保ってくれるなら納得。どちらも見栄えもよくてついつい写真を撮りたくなります」と、165円ラインの満足度の高さがうかがえる。
サイドメニューの充実度もファミレスレベルに。
「海鮮丼や天丼もあるので、寿司を食べなくてもOKな感じがちょっと面白いなと。僕が隠れた名作だと思っているのが“くら出汁”。みそ汁以外の汁物としてオススメです」(寿司リーマンさん)
家族連れでワイワイ楽しめるメニューとエンタメ性においては、くら寿司が頭ひとつ抜け出した印象だ。
【高評価ポイント】
★寿司を通したファミレス感UP
★値上げ分、ネタもビッグに
くら寿司で食べるべきは【映え系】
小柱梅かつお軍艦 115円
「高級なネタの小柱が1つの軍艦に3つものっていてかなりお得! 梅かつおのたれも美味」(寿司リーマンさん)
えび天2倍手巻き 165円
「えび天が1本増えて50円値上がっても、満足度は2倍以上あるので全然OK」(米川さん)
まぐろ軍艦三種盛り 165円
「食べ比べが楽しい。バラエティー豊かなまぐろ軍艦がリーズナブルに堪能できる」(米川さん)
【スシロー】他にはない“シャリの適温”【サンオシ!】
【スシロー】基本情報
《店舗数》639店
《にぎり》50種類、120〜390円
《軍艦巻物》27種類、120〜210円
《サイドメニュー》16種類、130〜410円
《デザート》13種類、130〜360円
「そもそもの期待値が高い分、苦戦している感がありますね」とは米川さん。
他を抜きんでた、こだわり寿司を提供してきたスシロー。他が追随してきており圧倒的な存在感が薄らいだ。
「とはいえ、寿司のフォルムの良さ、ネタの大きさ、味の良さはお墨付きで、シャリの温度などは絶妙です」(寿司リーマンさん)
美味しいことは前提として、値上げに対しての納得感があるかが問題だ。
「高くてもその価値を実感できた“匠のひと皿シリーズ”など、スシローならではのこだわり寿司を楽しみにしているファンも多い。やっぱり“さすがスシロー”と言わせてもらいたい」(米川さん)
抜きんでたうまさの王者
人気のキャンペーンも多いが、その値上げも相次ぎ、お得感は以前ほどはない。
ただ店舗利用時の利便性などは、非常に高いといえる。
「予約方法も、時間指定と“今から行く”の選択肢があり利用しやすい。品切れも、アプリで随時わかるようになっているなど工夫を感じる」(寿司リーマンさん)
しかし、やはり求めるのは寿司の魅力。スシローが本来提供してきた上質な寿司と、リーディングカンパニーとしての意地と底力で私たちをうならせてくれるに違いない。
【高評価ポイント】
★まぐろなど王道のネタの味がピカイチ
★品切れ商品の可視化をいち早く導入
スシローで食べるべきは【まぐろ&活〆ネタ】
まぐろ3貫盛り360円
「まぐろといえばスシローというイメージが強い人も多数。外せない鉄板メニュー」(米川さん)
活〆寒ブリ&はまち 120円
「寒ブリやはまちを店で締めて活け締めで提供を始めたのがスシロー。その商品の安定感は抜群」(寿司リーマンさん)
【かっぱ寿司】チャレンジ精神あふれるメニュー【ヨンオシ!】
【かっぱ寿司】基本情報
《店舗数》302店
《にぎり》78種類、110〜242円
《軍艦巻物》35種類、110〜363円
《サイドメニュー》26種類、110〜539円
《デザート》14種類、110〜429円
天井が高く、広々とした清潔感のある店内が好評のかっぱ寿司。本筋の寿司はというと「以前よりすごく美味しくなりましたよ! ただ、底上げというか、他の回転ずし店がもっと美味しくなっているんですよね」(米川さん)
寿司だけの勝負では、なかなか差があるかっぱ寿司だが、サイドメニューは好評だ。
「麺がおいしかった。鯛ラーメンは、上品でオリエンタルな味で、ラーメンだけでいうと4店舗中でいちばん美味しかったかも。ただ回転ずしの麺は全体に少なめなので、少しコスパは悪いかもしれませんが」(寿司リーマンさん)
他にも、女性が気になるデザートも高評価。“プレミアムプリン”はデパ地下並みの美味しさだという。
「相盛りといった2ネタを1皿で提供するのを最初に始めたのがかっぱ寿司。今は他も取り入れていますが、オペレーションが複雑になるのでどこも敬遠していたのを真っ先に取り入れた。こうした人的サービスに企業努力を感じますね」(米川さん)
【高評価ポイント】
★ジャンル数が多く選ぶ楽しみあり
★サイドメニューのクオリティーがUP
かっぱ寿司で食べるべきは【いかたこ&サイドメニュー】
真いか 110円、生たこ 110円
「市場価格の高騰で厳しい価格帯のはず。この価格で食べられることがありがたい」(米川さん)
鯛スープの塩ラーメン 429円
「麺は太めでもちもち系。スープも魚介エキスたっぷりな上品な味で飲み干し必至」(寿司リーマンさん)
プレミアムホイッププリン297円
「500円くらいで売っててもおかしくないほどの高級感ある味。レジ横でお土産用にも買える」(寿司リーマンさん)
調査をお願いしたのは……
取材・文/鈴木恵理子