イェール大学アシスタント・プロフェッサーの成田悠輔氏(38)の発言が物議を醸している。成田氏は以前からワイドショーなどで極端ともとれるような言動を繰り返しており、問題の発言は2021年12月に配信された『ABEMA Prime』で高齢化社会の対応策について私見を述べたときのこと。これが今になって拡散されたかたちだ。
《僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて。結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないか……》
続けて、
《僕はこれを大真面目に言っていて、やっぱり人間は引き際が重要だと思う。別に物理的な切腹ではなくて、社会的な切腹でもいい。過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤーで多すぎる。これがこの国の明らかな問題》
と持論を述べている。
この発言の拡散に反応したのは日本、というよりも世界各国だった。
ファッションとして『ハラキリ』は成立する
先陣を切ったのはアメリカの『ニューヨーク・タイムズ』で「これ以上ないほど過激」と批判。続いて同国の『ビジネスインサイダー』『FOXニュース』『ニューヨーク・ポスト』紙やイギリスの『デイリー・メール』『ザ・テレグラフ』、そのほかにもドイツ、ロシア、シンガポール、ベトナム、トルコ、韓国、インドなど各国のメディアが取り上げ、世界的な炎上となった。成田氏は『ニューヨーク・タイムズ』の取材に対して、
《日本では、政治、伝統産業、メディア、エンターテイメント、ジャーナリズムの世界で、同じ大物たちが長年にわたって権力を握り続けている》
《『集団切腹』『集団自決』という表現は『抽象的な比喩』であるが、潜在的なネガティブな意味合いについて、もっと注意深くあるべきだった》とし、《反省して、昨年からこの言葉を使うのをやめた》と答えている。
成田氏は《発言は 『文脈を無視して引用されたもの 』》と主張しているが、『集団自決』と『切腹』というこの二つの言葉は文脈云々にかかわらず、過激でセンセーショナルな言葉であることは論を俟(ま)たない。『抽象的な比喩』として用いることが果たして的確だったのか……。
成田氏はかねてから『武士道』に思い入れが強いらしく、2019年2月、グロービスが主催した社会保障制度改革のパネル討論で江戸時代中期の書物『葉隠』の『武士道というは死ぬことと見つけたり』という一節を取り上げて、高齢化し老害化しないために《人は適切な時期に“切腹”すべし》と発言しており、22年元旦に配信された2022年の元日、YouTubeチャンネル「日経テレ東経済学」での生配信では、
《(集団自決は)まったくメタファーではなくて、三島由紀夫とかリアルにそういうことをやって、しかもそれが日本人の死に様の1つの象徴みたいな感じで。国内外でも結構受け入れられていて、『カッコいい』ってことに三島由紀夫は今でもなっている訳じゃないですか。普通にファッションとして、『ハラキリ』は成立するんじゃないかと思っているんですよね》
と発言している。また、『集団自決』や『切腹』は議論のためのメタファーだとも言っているが、そもそも『切腹』は武士に対する刑罰の一種でもあったもの。武家社会では自身や一族の名誉を守るために許されていたものでもあったが、尊厳死の手段と捉えていいものだろうか。たとえ比喩だとしても『切腹』という表現は乱暴すぎる。同様に『集団自決』に関しても、いいイメージはない。
過激な発言が重宝される学者コメンテーター界隈
しかし、この件については2年前の発言であるにも関わらず日本ではそこまでの炎上騒ぎになっていないという点にも注目したい。キー局で情報番組の制作に携わるプロデューサーが語るのは、“過激な発言をする学者コメンテーター”を好んで出演させたがるという現状だ。
「今の時代ののコメンテーターはただ自分の専門分野だけ話せればいいというわけではなく、キャラクターやタレント性も重視されます。スタジオ、またはリモート出演で個人的な意見を求められた際に、やはりキャラが際立つような発言をしてほしいという気持ちは起用する側にはあります。個人攻撃や政権批判などをしないといった一定のラインを守ってくれれば、あとはどちらかといえば“強めの主張”をしてくれたほうが番組は盛り上がる。成田さんや三浦瑠麗さんもそうですが、やはり毛色の違う個性が立った学者コメンテーターは重宝されがちです」
出演者の不適切発言となると、番組を放送している局にクレームが殺到するものだが、今回の成田氏の件に関してAbemaの関係者に話を聞くと、
「本社にはきているのかもしれないが、現場にはクレームは下りて来ていませんね。逆に成田さんが出演する番組へのアクセスは増えているみたいです」
ほかにも成田氏が出演する番組を放送しているテレビ局の関係者にも聞いてみたが、クレームは入っていないという。
「ネット番組での発言でしたし、ニュースになっているのもネットだけですから。どこもたいして気にしていないようです。彼の出演が取りやめになるところはないと思います。本人も反省しているようですし、これからは不用意に過激な発言はしないと思います」(キー局プロデューサー)
『ニューヨーク・タイムズ』は成田氏が在籍するイェール大学にも質問を送ったが回答は得られなかったようで、代わりに成田氏の指導教官の1人だったヨシュア・アングリスト博士は《才能ある学者》であると認めたうえで、《私が一番心配するのは、彼が他のことに気を取られていることで、それはちょっと残念》だと語っている。
何を言わんとしているのだろうか。テレビ、ラジオ、ネットメディアに引っ張りだこの成田氏はバラエティー番組にもたびたび出演している。研究よりタレント活動が目立っていることへの警鐘なのではないか。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之> ◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。