3月8日に90歳の誕生日、卒寿をむかえたザ・ドリフターズの高木ブーさん。
ドリフのメンバーですでに故人となった荒井注さん、いかりや長介さんに次ぐ生まれとなるが、加藤茶さんとともに、変わらぬ笑顔を届けてくれている。
「よく寝て、よく食べる」高木ブー
近年は娘一家との三世代同居を実現させ、あたたかな家族に囲まれる日々。ウクレレ奏者としての活動をはじめ、個人でのコンサートやCDリリースなども多く、2月中旬にはホノルルでのステージをこなしたばかりだ。
以前から趣味として描きため続けたドリフをモチーフにしたイラストも、'21年に『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)として発表された。
「ブー」という名が示すように、健康面で多くの人に心配されていそうなブーさんだが、過去には膝の不調などもあったものの、'21年の88歳の検査では「88歳の模範データ」という評価を得たという。
多くの人にとって、高木ブーさんは決して無理せず、よく寝てよく食べる、そんなイメージではないだろうか。そういった「高木ブー的生き方」こそが、もっとも幸せな生き方だと感じる。取材を通じてご縁ができた筆者がこれまで見てきたブーさんも、実際にそんな感じだった。
筆者が最初にブーさんに会ったのは、1995年のこと。
ブーさんもまだ60代のころだ。当時『週刊朝日』の連載企画として掲載された、「高木ブーが語るザ・ドリフターズ伝説」では、志村けんさんや加藤茶ではなく、リーダーのいかりや長介さんでもなく、あえて高木ブーが語るという視点での企画だった。
取材場所に現れたブーさんは、当たり前だがテレビで見たままの高木ブー。コントなどではセリフの数が少なかったため寡黙な印象を持っていたが、『8時だョ!全員集合』のエピソードの数々、もともとバンドマンだったが、月給に5000円アップするからといかりやさんに誘われドリフに加入したこと、クレイジー・キャッツのハナ肇さんに「お前は見た目のままでいい」と“高木ブー”と命名された話などを、饒舌に語ってくれた。
取材当日「こんなのあるんですよ」と筆者が取り出したのが、当時、東京・中野にあった映画館「中野武蔵野ホール」('04年に閉館)で行われていたレイトショーでのドリフ映画特集のチラシ。当時のドリフ映画はビデオソフト化されておらず、テレビでの放映もめったにないという環境で、ドリフファンにとっても貴重な特集だった。
ブーさん自身も公開当時から全然見られていないという。どちらが誘ったのかは記憶にないが、「ちょっと行ってみる?」と、まさかのブーさんが映画館に行くという流れになった。あわてて中野武蔵野ホールに電話し「このあとブーさんが行きます」と。劇場側もさぞ慌てたことだろう。上映していたのは'68年公開の『やればやれるぜ全員集合!!』(東宝)だ。
「ここは渋谷だな」「これは御殿場」「ところどころ覚えてるなぁ」と、映画を見ながらボソボソとブーさんが話しかけてくる。リアルオーディオコメンタリー状態だ。劇場に来ている多くは当然のごとくドリフ育ちでドリフファン。そこに本物の登場だ。志村さんじゃなくても加トちゃんじゃなくても、当然、上映後に「ブーさん!」「ブーさん!」と、ファンたちが殺到する。
高木ブーというポジションのままに生きること
その中にいたのが当時まだ大学生だったホフディランの小宮山雄飛。彼は大学で「ドリフ研究会」の一員で、ドリフマニアとしても一流の存在でもあった。ここから生まれた交流から97年にはブーさんのソロシングル『GOOD!』を作成、共演に至っている。冒頭のインタビューがご縁となり、ブーさんの著書『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)も’03年に出版された。
その後も現在まで続く関係の中で感じたことは、やっぱり「ブーさんはブーさん」だということだ。
よく紹介される「すぐ寝る」というエピソードそのままの姿も何度も目撃し、好きなものを中心によく食べる。マイペースで生きるということ、それこそが大事なことだとあらためて思ったりもする。
先記したドリフ映画特集がきっかけとなった、ドリフを見て大きな影響を受けて大人になった世代との交流も刺激になったと語っていたブーさん。「第5の男」を自認するように、決して無理して前に出ようとせず、高木ブーというポジションのままに生きること。最近のインタビューでも流れに身を任せることで、気がつけばここまでやってこられたと語っていた。
いっぽう、ゆるゆるしているようでいて、ひとたびカメラを向けられれば、瞬時にニッコリとタレントとしての完璧な笑顔に切り替わり「さすがだ」と驚いたことも何度となくあった。
「世界最高齢現役コメディアン」とも言われ、特番で加藤茶と新作コントを披露したり、イベントなどにも精力的に出演し、90歳を無事迎えたブーさん。「第5の男」は、もしかしたら実質「第2の男」になっているのかもしれないが、それもまた、「流れ」でそうなっただけ。ブーさんの本質はたぶん変わらない。
90歳ブーさんにはぜひ最新版「高木ブー的な生き方」を披露してもらい、多くの人に元気と笑顔、そして希望を与えてもらいたい。
(文/太田サトル)