2月22日に急死した笑福亭笑瓶さんと、13日に亡くなったことを20日に発表した松本零士さん

 漫画家・松本零士さんは85歳で、タレントで落語家の笑福亭笑瓶さんは66歳で亡くなった。2人の訃報をメディアは大々的に報じた。

急死を隠す選択肢を取ることができない

 死後の報道などには、生前の本人の希望が反映されることもあるが、その思いをくんで伝えるのは遺族だったり所属する芸能プロダクションだったりする。

 松本さんは2月13日に亡くなったが、発表は20日午前。松本さんの作品を送り出してきた映画大手・東映が窓口として伝えた。告別式は家族で済ませたという。笑瓶さんは22日に亡くなり、22日にその死が所属プロダクションによって発表された。

 松本さんは数日前から入院し、その年齢からも家族が万が一のことを考える時間があったと見ることができる。笑瓶さんは救急搬送され、そのまま帰らぬ人になった。所属事務所にも、緊急な対応が求められる。

「救急搬送された段階で、その情報は、テレビ番組で共演しているフリーキャスターの森本毅郎さんの元などに伝えられていたそうです。芸能人の場合、急な体調不良や入院の場合、仕事をキャンセルすることになるため、所属プロダクションとしては関係者に連絡することになります。仕事先のテレビ番組のプロデューサーなどに連絡が来ますから、その情報は報道局やワイドショーの幹部らと共有されることになります」

 とスポーツ紙芸能担当記者。笑瓶さんが急死した際、そのことを隠すという選択肢を芸能プロダクションが取ることができないのは前記のような経緯があるからだ。

 松本さんの訃報が伝えられた際、長女で事務所「零時社」の代表取締役・松本摩紀子さんのコメントも掲載されていた。そこにはファンや仕事関係者、同業者、病院スタッフへの思いが丁寧につづられ、「本当にありがとうございます」と感謝が伝えられている。急ごしらえでないコメントが添えられていることが、遺族がゆっくりとお見送りをし、さらには考える時間もあったことを物語る。

 松本さんと家族のお別れを自分たちのケースと比較し、テレビ局の取材攻勢に異議を唱えた人物がいる。漫画家の水木しげるさんの長女の原口尚子さんだ。水木プロダクションの社長を務めている。水木さんが亡くなった際のマスコミの対応を、

《亡くなったことを家族しか知らないはずの時間になぜか死亡の速報をマスコミが公表》

《家族がお別れをしっかり出来てないのに、自宅と会社の周りにはマスコミが集まり、その対応に追われる》

《私達は父との静かな別れの時間を奪われて、気持ちのやり場がないまま葬儀に向かいました… 今でも「あの時間を返せ!」と思います。》

 とツイート。ゆっくりとお別れができなかった原因にマスコミの取材攻勢があったことを伝えている。

漫画家の水木しげるさんの長女の原口尚子さんのツイート

上島竜兵さんの自宅前中継に安倍首相死去のツイート

 テレビ局はよく、遺族感情に配慮する、ということを掲げるが、果たして水木さんの際の取材姿勢に、その思いはあったのか。

「著名人や有名人の死亡を伝えることは、メディアは使命だと思って来た節がある。確かに政治家の死去を伝えることにはメディアの社会的責任だとは思いますが、芸能人や有名人となると、ちょっと違うふうにとらえる必要がある時代になって来た、ということでしょうね。

 コロナ禍で家族葬が増え、弔問客へのあいさつをせずに、故人とゆっくりお別れできるようになった。それを取材者が踏みにじることはあってはならない。遺族が望まない段階で報じることがいいことなのか、冷静に考えるべきでしょうね」(一般紙デジタル担当記者)

 昨年、上島竜兵さんが亡くなった際、テレビ朝日とフジテレビの情報番組が上島さんの“自宅前から中継”をして批判が続出した。

 安倍晋三首相が亡くなった日には、正式な発表がある前に、確かな情報筋から聞いた、として元テレビ局報道記者が、その死をツイッターでつぶやいたことがあった。あってはならぬことで、その記者は誤報だと認めたが、人の死に誤報があっていいはずはない。

 政治家の死になれば、政治権力の移譲もあるため、その準備が整ってから明らかにすることもある。大平正芳元首相が急死した際、病院の廊下(その頃は、廊下でも取材ができた)にいる新聞記者に気づかれないように、時間稼ぎのため、亡くなった大平さんの病床で家族があえて笑いごとを上げたり、大声で話したことがあったという。関係者からそう聞いたことがある。

 例え有名な芸能人や文化人であっても、人の死は故人のものであり、家族のものである。故人の遺志や家族の意志を無視した報道は、もはや時代にそぐわない。

 
漫画家の水木しげるさんの長女の原口尚子さんのツイート(1)

 

漫画家の水木しげるさんの長女の原口尚子さんのツイート

 

笑福亭笑瓶さん