萩生田光一氏(2021年11月)

 自民党・萩生田光一政調会長の少子化対策をめぐる発言に批判が殺到している。2月23日にさいたま市で開かれた自民党の会合(自民党埼玉県連の統一地方選挙出陣式)で、萩生田氏は「児童手当の所得制限撤廃よりも、新婚世帯への住居支援が必要だ」との考えを示した。

 会合で挨拶した萩生田氏は、新婚世代に全国の公営住宅の空き家を貸し出しやすくする制度を提案し、「明日からでも(公営住宅の空き家)20万戸を新しい家庭の皆さんに提供することもできる」と主張した。さらに「1500億円あるんだったら、そのときに(公営住宅の)畳やお風呂やトイレを新しくしてあげたいな」と続けた。

 1500億円というのは、児童手当の所得制限を撤廃する場合に必要とされている追加の財源の金額だ。別途検討されている、支給対象年齢を18歳まで引き上げとなるとさらに財源がかかる。ネット上では、萩生田氏の発言の“新婚世帯への住居支援”という部分については〈経済的不安を抱える夫婦には多少なりとも効果があるかもしれない〉と理解を示す声があるものの、「1500億円あるんだったら、畳やお風呂やトイレを新しくしてあげたい」発言には非難轟々だ。

〈(岸田総理が掲げた)異次元の少子化対策とは程遠い〉
〈畳やお風呂やトイレが新しくなったところで、少子化対策になるとは思えない〉
〈昭和建築の団地に住みたくない人だっているだろうし、そもそも公営住宅がない地域の人ははなから対象外〉
〈公営住宅が古いなら、普通に予算かけて新しくしなさいよ〉
〈素直に所得制限を撤廃しろ〉

現金給付では特定の業界を優遇できない!?

 こうした厳しい批判が噴出しており、〈リフォーム業者を挟んで中抜きする気か?〉と疑う声まで寄せられている。

 なかには、〈お肉券を思い出した〉という声もあった。2020年春、新型コロナウイルス感染拡大の経済対策として、「お肉券」や「お魚券」といった商品券を発行する構想が自民党農林部会や水産部会から打ち出され、やはり〈素直に金を配れ〉と批判が続出。日本維新の会・松井一郎氏(当時、大阪市長)も「特定の業界が良い思いをするだけだ」と指摘していた。

 こういった事例が続き、“自民党は現金給付を嫌う”のような印象を抱いている国民も少なくなさそうだ。なぜ自民党は現金を配りたがらないのか。菅直人元首相は、「子ども手当と高校教育無償化・・・なぜ『バラマキ』が必要か」と題したコラムの中で、〈自民党が「バラマキ」を嫌う理由〉として〈既得権を失いたくない〉と推察している。

〈自民党の政治家にとっての権力の源泉とは「公的な支出の対象を選択する」ことです。平たく言えば「あなたには私の裁量で給付金が出ることになりました」と言うことです。それが票や献金につながるというわけです。

 しかし「子ども手当」のように、全員に一律に給付を行うと、政治や行政は誰も「特別扱い」することができなくなります。税金を誰にどれだけ配るかという裁量権が小さくなるわけです。これは、彼らにとっては面白くないことなのです〉(「子ども手当と高校教育無償化・・・なぜ『バラマキ』が必要か」より)

 ただし、自民党が現金給付を“忌避”する理由の一つには「現金の給付は消費でなく貯蓄に回ってしまい、景気の浮揚効果が少ない」という考え方もある。

 お肉券やお魚券ではなく結局現金で実施された2020年の定額給付金だが、当時の財務大臣だった麻生太郎氏はその後10月の講演で「(個人の)現金がなくなって大変だというのでこの夏、1人10万(円給付)というのがコロナ対策の一環としてなされた」と説明。しかし、給付金の効果について「当然、貯金が減るのかと思ったらとんでもない。その分だけ貯金が増えました」と主張している。

麻生太郎氏

 また、児童手当の所得制限については報道各社の世論調査では「撤廃すべき」と回答した人が「撤廃しなくてよい」と回答した人を上回っているという結果もある。

 なんにせよ、今回の萩生田氏の発言に批判が殺到しているのは事実。子育て世代への給付は一時的に貯蓄に回ったとしてもゆくゆくは教育費などで取り崩されていくもの。元々「高齢者の医療費を子育て支援に回して」という声は多いし、現金給付で子育てを支えていくという政府の気概こそ安心して子どもを産み育むことにつながるという声は多いのである。