──中学2年生の息子は、1年生の時の担任と折り合いが悪く、不登校が始まりました。1日中、部屋にとじこもって、動画を見ているかゲームをしているかで、会うのは食事の時くらいです。
主人に相談しても“おまえがなんとかしろ”と責められるだけ。毎朝、一縷の望みを込めて、“学校はどうする?”と聞くも“うるせえ、ババア!”と怒鳴り声で返される日々……。
最近は、学校への出欠の連絡のためにスマホを持つと手が震えてきます。私が悪いのでしょうか。はっきり言って疲れました(43歳・女性)
──もう子どもと離れて過ごしたいです。中学生の娘は、2年近く学校を休んでいます。はっきりした理由はわかりません。毎日深夜まで起きていて、昼過ぎに起床。
これではよくないと思い、不登校が半年を過ぎたころ、思い切って離職し娘をサポートする生活に変えました。娘の好きな料理を作ったり、買い物に連れ出したり。
でも、一向に学校に行く気配が見えません。私は仕事を辞め、毎日献身的に支えてきたのに。もうどうでもよくなってきました。娘のためにご飯を作る気力も起きません(47歳・女性)
つらくて死にたい……切羽詰まった母親たち
「“しんどくて死にたい”“子どもに愛情が持てない”。そんなひと言から始まる相談を年に何度ももらいます」
そう話すのは、不登校の子どもたちとその保護者をサポートしているNPO法人キーデザインの代表、土橋優平さん。保護者とのやりとりで“子どもを殺したいと思う時がある”といった切羽詰まった言葉を受け止めることもある。
3人に1人は心の病に
不登校の理由の多くは、体調不良、成績不振、先生や友達との関係など。原因は多岐にわたるものの、今の教育現場が“時代に即していない”ことが問題の根底にあるのではないかと、土橋さんは指摘する。
「世の中でこれだけリモートが進み、自宅でのスクーリングが可能になったにもかかわらず、教育現場の“学校に来て学ぶこと”のみを是とする風潮は変わっていません。いじめが起きた場合も、いまだに被害者と加害者を対面させ加害者に謝らせて終わりということが多い。子どもたちは、理不尽な制約が多い学校にストレスを感じ、距離を取ろうとしているのかなと思います」(土橋さん、以下同)
不登校児の急増には、コロナ禍も少なからず影響していると分析する。休校期間で1日の生活リズムが狂い、学校生活に復帰できなかったというケースも。一方、対応する教員は、さまざまな課題に勤務時間を超えて取り組んでおり、疲労困憊している……。
「学校に行けないわが子の悩みに寄り添いたいけれど、学校は旧態依然としていて柔軟な対応をしてくれない。板挟みとなる親の苦悩は深刻化していると感じます」
土橋さんのもとに寄せられる相談は、多い日で1日約50件。悩みを抱える母親の約3人に1人は心の不調を抱え、心療内科などに通院をしていることも珍しくないという。
子どもと距離を置いて、心の余裕を持つこと
「子どものために……と精いっぱいやってきたけれど、結果につながらない、期待に応えてくれないから、“諦めました”“愛情がなくなりました”となるんだと思います」
そうならないためには、子どもと適度な距離を取ることが重要。離職、休職の決断も早まってはいけない。
「子どもが不登校になると約2割の親が休職または退職を選択していますが、おすすめできません。一緒にいたからといって、解決策が見つかるわけではないですし、むしろ“私はあなたのために仕事を諦めたのに”と、子どもを責める要因になってしまいます」
コロナ禍のリモート勤務で子どもの生活を管理できるようになったことがお互いにストレスとなり、逆に関係が悪化したという相談もある。ほぼ毎日、子どもと家で過ごす場合は、週に1回3時間でも、ひとりで散歩に出かけたり、カフェでゆっくりするなど、意識的に子どもと離れる時間を持つ。距離を置くことでお互いに心に余裕が生まれるのだ。
また、子どもが1日中、動画やゲームざんまいで過ごすのを見てイライラするという声も多いが、その時は、いったん別の部屋に行くなどしてフラットな気持ちで接すること。
「子どもたちは、学校に行けない自分を責めて“どうせ自分なんて”と自己否定の気持ちに襲われている。そんなつらさから逃れるために熱中できるものを探した結果、それがゲームという場合もあります」
冷静になって、子どもの行動の背景にある気持ちに焦点を当てることが重要だ。
「精神的にも少し距離をあける意識を。“近所のおばちゃん”くらいの感覚で見守るのがおすすめ。子どもの行動に大きく一喜一憂しなくてすみますし、過度なプレッシャーや期待をかけることもなくなり、気持ちがラクになります」
ひとりで抱え込まず、誰かを頼ることも大切と訴える。
「誰しも少なからず“完璧な母親”を求めがちですが、できない自分、弱い自分でいいんです。不登校になったことを受け入れられない気持ち、子どもの将来が不安になってしまう気持ちを抱えていて当然です」
近くに相談できる人がいなければ、地域にあるフリースクールや同じ不登校の子どもを持つ「親の会」でもいい。背負っている悩みを少しでも“荷下ろし”すること。
最後に、土橋さんがもっとも心にとどめてほしいと語ったのは、“不登校=悪いこと”という考えを捨てること。
「教室でのいじめや担任の先生に傷つく言葉を浴びせられたといった時、ほかのクラスに移ったり、転校したり、自宅やフリースクールで学んだりということがフレキシブルに認められたら、“不登校”は大した問題にならないはず。
問題なのは、子どもの学び場の選択肢が今所属している学校やクラスしかないということ。学校へ行かないこと自体をネガティブに捉えすぎなくてもいいし、ましてやこれまでの子育てや関わり方で自分を責める必要もないのです」
最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ(中学校)
・身体の不調(学校に行こうとするとお腹が痛くなったなど) 32.6%
・勉強がわからない(授業がおもしろくなかった、成績がよくなかった、テストの点がよくなかったなど)27.6%
・先生のこと(先生と合わなかった、先生が怖かった、体罰があったなど) 27.5%
・友達のこと(いやがらせやいじめ以外) 25.6%
・生活リズムの乱れ(朝起きられなかったなど) 25.5%
2021年度に30日以上欠席した不登校の小中学生は、約24万5千人と過去最多。2020年度の調査では不登校の原因は多様化し、「自分でもよくわからない」という回答も22.9%(文部科学省「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」より)
(取材・文/河端直子)