心斎橋PARCO9F東急ハンズ内、フエキショップ限定スイーツ『ソフトクリーム&アイスクリーム』

「私が最初に関わった文房具は、『フエキどうぶつのり』。つぶらな瞳をした黄色い犬の容器は幅広い世代に知られていますが、10年前はキャラクターの名前もない状態でした」

 と話すのは、株式会社ヘソプロダクションの代表取締役、稲本ミノルさん。懐かし文房具『フエキどうぶつのり』とのコラボ商品がヒットした経緯を明かす。このとき、稲本さんが思いついたのは、大阪土産としてアピールする方法。

懐かしい文房具が食べ物に?

「せっかくの認知度をビジネスに生かせないか、相談されたのがこの事業を始めるきっかけとなりました。販売元である不易糊工業株式会社は、100年近い歴史を持つ大阪の文房具会社。『フエキどうぶつのり』の宣伝ポップなどで、在阪で頑張っている企業であることを知ってもらえたら、会社のプロモーションにもなると考えたんです」(稲本さん、以下同)

 黄色い犬の容器をどう活用するかもポイントに。

「もともとあの容器が欲しくてフエキどうぶつのりを買う人もいたほど。容器が鍵になると思いました」

 試行錯誤の末に開発したのは、黄色い犬の容器入りのミルクプリン。大阪の主要駅で、販売したところ、予想を超える売れ行きとなった。

「黄色い犬のキャラクター設定も考え、『フエキくん』という名前に。それ以降、フエキくんとのコラボ商品を多数考案し、2020年にはフエキくんアイテムの専門店もオープンするほどの人気キャラクターに成長しました」

 中でもヒットしたのは、フエキくん容器の中にパインアメを入れた『フエキ×パインアメ』。発売3年で累計販売数は20万個を突破したというからすごい。

不易糊工業株式会社の『フエキのり』×発売以来60有余年のロングセラーキャンディ、パイン株式会社の『パインアメ』

「パイン株式会社も大阪の会社。歴史ある在阪企業がコラボした商品ですから、大阪土産として高い需要があります。他には、懐かしさや容器が欲しい、という理由で購入される方が多いですね」

 文房具とのコラボで、他にヒットした商品は?

「寺西化学工業株式会社とのコラボですが、『マジックふりかけシリーズ』はSNSでバズるなどかなり話題になりました。『マジックインキ』のパッケージに入ったペン型ふりかけで、手軽に持ち運べるのもウリ。カラーバリエーションに合わせて、さまざまな味を取りそろえています」

「?」のマークと「どんなものにもよく書ける」でおなじみの油性マーカー『マジックインキ』がふりかけに

『忖度まんじゅう』の生みの親でもある

 一方、稲本さんの名を広く世に知らしめたのが『忖度まんじゅう』。「2017ユーキャン新語・流行語大賞」を受賞した「忖度」だが、このとき、受賞者として選ばれたのが稲本さんだった。

「『忖度』は日本人ならではの、人を思いやるこまやかな心遣いを表現した言葉。それがネガティブなイメージで捉えられているのが、私は嫌でした。そこで、ユーモアをもってこの言葉の良さをアピールできないかと考案したのが『忖度まんじゅう』。ビジネスでの手土産にもピッタリと思いました」

 しかし、発売当初は大苦戦。

「政界への忖度が働いたのか、“売れると思うけど、うちでは置けない”と小売店から取り扱いを拒まれることの連続。ふざけて開発したわけではないので、とても悔しい思いをしました」

 ブレイクのきっかけは新聞記事で紹介されたこと。

「そこからは製造が追いつかない状態となりました。あまりの人気に“忖度が流行語大賞をとったら、呼ばれるかも”と冗談で言っていたら、本当に選考委員会から連絡が来たんです。“ユーモアをもって、忖度を楽しく日本に広めた稲本さんに賞を受け取ってほしい”とのことで、私の思いがちゃんと伝わったことに感動して、泣きそうになりました」

ウケるかハズすか五分五分な商品ほど大ヒット

 世間で話題となるユニークな商品を次々、開発している稲本さん。しかし最初から企画の仕事に従事していたわけではないという。

「何かを表現する仕事で成功したいという漠然とした思いはありました。大学卒業後は報道番組の制作会社に入ったものの、そこでは現場スタッフ以上になれないことを知り、退社。以降は、作家になるためにいろいろな経験を積もう、と世界を旅していたのですが、あるとき、そんなふうに夢ばかり見ているのは結局、何事にも本気で取り組んでいないからだと気がついたんです」

 そこで、玩具卸会社に入社。本気で仕事して、一番になることを目指した。

「しかし、おもちゃの企画を提案しても“リスクが高い”とやらせてもらえませんでした。“では売り先があれば、やってもいいってことですよね?”と、企画だけでなく、制作や販売先開拓まですべて担うことにしたら、徐々に会社の売り上げが増加。成果を上げたことで、企画の部署も立ち上がりました」 

 その過程で得た人脈が稲本さんの財産となった。

「やがて会社員ならではの限界を感じ、好きなようにものづくりがしたくなった私は、10年間勤務した後に退社。それ以降、いろいろな方から企画やプロデュースの相談を受けるようになり、8年前に株式会社ヘソプロダクションを設立するに至りました」

 社名の由来は?

「日本語では物事の中心となる部分を『ヘソ』と表現することがあります。そこで、自分たちのやっていることは日本、さらには世界の中心でありたい、という思いを込めて、この言葉を社名としました」

 以来、ヒット商品を連発しているが、その秘訣は?

「ものづくりとは問題解決だと私は考えています。売れない商品には何らかの課題があり、新たな要素をプラスしてその課題を解決できたときには、“これは売れる!”という感覚がビビッときますね」

 あえて大衆受けを狙わないこともポイント。

「経験上、これがウケるかどうか五分五分と感じる商品ほど大ヒットします。8~9割の人が受け入れるような商品は無風なのに対して、賛否が分かれるものはいわゆるアンチの意見が意図せず商品を後押ししてくれる。

 そういうものを世に出すのは勇気がいりますが、それがハマったときの勢いはすごいと感じます」

 このパターンでヒットした商品が液状のり『アラビックヤマト』の容器にハチミツが入った『はちみつ アラビックリ!? ヤマト』。

ヤマト株式会社のロングセラー液状のり『アラビックヤマト』が、手を汚さず使えるアラビックリなハチミツに

「発表してすぐトレンド1位になった思い出深い商品です。といっても、大多数は“子どもが間違えてのりを食べたらどうする”というお叱りの声でショックでしたが、そこから注意喚起のシールを作成。それで非難は落ち着き、最終的には大ヒットとなりました」

 発売のタイミングも重要。

「発売したのは、家で楽しめるグッズへの需要が高まったコロナ禍の時期。それもヒットの要因になったと思います。もうひとつ付け加えるなら、誰かに伝えたくなるようなコミュニケーションを生むグッズがいいと私は考えています。

 文房具とのコラボグッズは“懐かしいね”と親子3代で会話が弾みますから、今後も力を入れてやっていきたいですね」

(取材・文/中西美紀)