志願者急増の寿司職人、素人でも年収1,000万超え!(※画像はイメージです)

 先進国の多くが右肩上がりの賃金アップを果たすなか、日本は約30年もほぼ横ばい。それどころか、このところの急激な物価上昇により、'22年の実質賃金は前年比からマイナスに。日本の先行きに不安を抱いている人も多いのではないだろうか。

寿司が握れるだけで年収1000万円も

海外の日本食レストランは約15年で約6倍に。アジアや北米はもちろん、アフリカ、中東でも、ここ数年で3割増しで店舗数が増えている(出典:農林水産省Webサイト)

 そんななか、高い給与を求めて海外へ“出稼ぎ”を考える人が増えている。中でも、注目が集まっている仕事が、海外での需要が高く、かつ日本人が優遇される“寿司職人”。日本で働いていたころに比べて年収が10倍以上もアップし、数千万円を稼ぐ人もいるというから驚きだ。

 とはいえ、厳しい修業が必要というイメージがある寿司の世界。誰もが簡単に就ける職業ではないだろうと思うのだが、そうでもない。

 寿司の専門学校に通えば、たった2か月で一人前になれる道があるというのだ。

「握りさえできれば、“キツい修業なし”でも海外では引く手あまた。年収1000万円以上の求人も少なくありません」

 そう話すのは“寿司学校”を卒業し、国内の高級店や出張寿司で腕を振るっている飯田雄介さん。自身も海外で働くことを目的に、サラリーマンをやめて寿司職人を目指した一人だ。

円安や日本経済の衰退を目の当たりにし、以前から、いつでも海外に出て働ける準備をしておかなければ先がないのでは、という危機感がありました。それで、どうやったら海外で働けるか考えて、たどり着いたのが“寿司職人”だったんです」(飯田さん、以下同)

 転職を考えながらバックパッカーとしてアジアやヨーロッパを旅した経験もある飯田さん。いたるところで寿司店を目にしたことが、寿司職人で海外に打って出ようと思ったきっかけだった。

「“こんなところにも”と思うような場所にも寿司店がありました。スペインなどヨーロッパでは、本格的な寿司を提供する店も増えていて、話を聞くと料理人の給料は日本に比べてはるかによかった。一方で、日本で求められるクオリティーより低い水準でもお店がヒットしている状況も目の当たりにし、未経験の自分がこれから挑戦しても勝機があると感じました」

 さらに、寿司が握れる料理人は海外で仕事をするために必要な就労ビザ等が取りやすいというメリットもわかり、より魅力を感じた飯田さん。有名企業を辞め、最短で寿司を握る技術を習得できる寿司専門学校への入学を決めた。

「誰でも入学可能なので、年齢も経験もさまざまな人が学んでいました。中には未経験の60代の人も。あくまで学校なので、いわゆる修業のような厳しさはなく、集中して学ぶことができました」

授業料は75万円2か月で即戦力に

老若男女、未経験も問わない寿司学校。短期で実践的な技術を学べる

 学校によって異なる部分もあるが、飯田さんが通っていた「東京すしアカデミー」の系列校では、2か月で江戸前寿司を学べる短期コースを開講。1日5時間のレッスンで、魚の捌き方から握り、巻き物までを学ぶ。実際に店のカウンターに立った時を想定した研修もあり、卒業後すぐに即戦力として働けるようなカリキュラムになっているのが特徴だ。

「寿司は難しいというイメージがあるかと思いますが、実は“魚を捌く・握る・巻く”と、作業はシンプル。実際に学んでみて、ほかの料理より、意外と覚えることが少ないなと感じました。これも寿司職人へのチャレンジをおすすめする理由の1つです。僕自身、もともと料理は野菜炒めが作れる程度で不安でしたが、卒業後はすぐに高級寿司店で問題なく働くレベルにまでになれました」

 専門学校の授業料は、入学金と合わせて75万円。卒業後に働き始めた高級寿司店ではサラリーマン並みの給与をもらえたことを考えても、コスパはかなりいい。

「2~3か月で授業料の元は取れたと思います。学校から就職のサポートもありますし、国内外問わず求人も豊富。卒業して技術さえ習得すれば、よい条件で仕事に就けそうだと感じました」

 実務経験なしでも高待遇の働き先は見つかるが、日本の寿司店で2~3年経験を積んでから海外を目指せば、年収1000万円を超える料理長クラスを狙うことも可能だ。また、卒業生の中には、実務経験なしでスペインに渡って自分のお店を開き、複数店舗のオーナーとして成功した人や、スイスで寿司教室を開いて盛況となり、夫の稼ぎを超えた40代女性もいる。

寿司職人が不足だから高給で求人

日本にいながら、海外の寿司職人の求人をチェックできるサイト。日本の求人に比べると2倍、3倍の賃金はザラ。年収1000万円超えも多い(Washokujobより)

 なぜ、寿司の技術がこれほどまで重宝されるのか。その1つが、寿司業界が置かれた慢性的な“人材不足”。

「イタリアンやフレンチなどの洋食を学びたい人に対し、寿司や和食を学ぶ人自体が圧倒的に少ない。“働き方改革”が叫ばれている昨今ですが、和食の現場は相変わらず厳しく封建的なイメージが残っていることも目指す人が少なくなっている要因だと思います。学校を卒業し、最初に就職をした高級寿司店でさえ人手不足で“握れる基礎があるなら、未経験者でもどんどん握ってほしい”という雰囲気がありました」

高級寿司店ですぐにカウンターに立たされた

 さらに追い風となっているのが、世界的な寿司人気の高まりだ。海外では本格的な寿司店からカジュアルなテイクアウト店、デリバリーなど裾野が広がり、国内ではインバウンド需要も相まって、都市部の高級寿司店は盛況。“うまい寿司にならいくらでも払う”富裕層が流れ込み、ますます“寿司が握れる人”の奪い合いとなっている。

「コロナ禍でも寿司店はつぶれず、出店数は右肩上がり。“寿司が握れます”は、仕事を得るための確実な武器になっていると感じます」

 その技術は寿司職人以外にも活かす道が。働き先の間口は広い。

「寿司学校で身につけた“魚を捌く”という技術もまた、需要が大きい。鮮魚店はもちろん、和食などの飲食店でも働き手として求められます」

 飯田さんと一緒に寿司専門学校で学んだ60代の男性は、スーパーの鮮魚コーナーへの再就職が決まった。リタイア後の仕事をゲットするために寿司を学ぶのもアリだ。

 飯田さん自身は、コロナが収束し、準備が整ったら寿司職人として海外を目指そうと準備をしている。

「不況の日本でしのぎを削るより、給与水準が高い海外に挑戦したほうが、夢がある。日本人は、英語と寿司を学べば海外に出るチャンスは誰にでもあると信じています」

教えてくれたのは飯田雄介さん
一橋大学卒業後、5年間勤めたIT系の会社を辞め、29歳で寿司学校へ。高級店勤務や出張寿司に携わりながら、海外に挑戦する準備中。

<取材・文/河端直子>