症状もないまま進行……発見されたときにはステージ3以上、死に至ることも珍しくないという卵巣がん。発症率がもっとも高い50~60代女性が生き残る術とは?婦人科がんの専門医・大島乃里子先生に話を聞いた。
初期は自覚症状がほとんどなく、知らぬ間に身体を蝕んで「サイレントキラー」と呼ばれるがんがある。その代表は膵臓がんだが、卵巣がんも女性にとって同じくらい恐ろしい存在といえる。
約4割の卵巣がんは早期発見できない
卵巣がんの発症率は、40代から増加し、50代、60代でピークを迎えるという。
「3か月前に検査して何も見つからなかったのに、短期間で一気に症状が広がってしまう。卵巣がんにはそんな厄介な特徴があります。
卵巣は肺や胃、肝臓などと違って、なくても生きていくことのできる臓器。卵巣がんそのものによって命が奪われるということはないのですが、転移により命にかかわる臓器などが次々にがんに侵され、生命が維持できなくなってしまうことが多いのです」
日本婦人科腫瘍学会の専門医で、日々多くの女性たちを診察する大島乃里子先生はそう眉をひそめる。
国立がん研究センターの卵巣がん発見時のステージ別データをみると、がんが卵巣からリンパ節へ転移している状態を指すステージ3と、卵巣がんが他の臓器にも転移し、肺に水がたまったりするステージ4を合わせると、全体の約4割以上を占めている。
乳がんに比べ、よりステージが進んでから見つかることが多いのだ。
しかし、国が推奨しているがん検診は、胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんの5つ。卵巣がんは含まれていないのは、なぜなのだろうか。
「卵巣がんは、早期発見の決定打となるような効果的な検査法がまだないという難しい現状もあります」(大島先生、以下同)
そのため、自覚症状で見つかったときにはすでに進行していることも多いのだ。どういう症状で気がつくことが多いのか、リストアップした。
進行すると現れる症状
・ウエストがきつく感じるようになった
・ズボンやスカートが入らなくなった
・食欲がない
・ダイエットしてもお腹まわりが痩せない
・下腹部にしこりがある
・脚がむくむ
・急に頻尿や便秘になり、持続する
1つでも当てはまるなら、一度、病院を受診するのがおすすめだ。
発症しやすいタイプは? 当てはまれば要注意!
卵巣がんは、乳がんとは違い、女性ホルモンの変動によって起きるものではない。
「すべてのがんは、細胞がコピーされたときに起こるDNAのエラーが原因です。このエラーは加齢とともに起こりやすくなるので、必然的に高齢になるほど発症しやすくなります。
中でも卵巣は、月に1度の排卵によって卵胞という細胞が破れては修復するという大きな負担を繰り返す臓器。細胞にもエラーが起きやすく、がん化しやすいのです」
排卵の回数が多ければ多いほど、卵巣がんのリスクは上がる。そのため、初潮が早かった人や、閉経が遅かった人、妊娠・出産経験がない人は比較的リスクが高い。
ほかにも、発症リスクが高い人にはいくつかの特徴がみられる。
「1つは遺伝。これは卵巣がんの1割ほどの原因を占めています。特に『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)』と呼ばれる遺伝子変異を持っている人は、乳がんと卵巣がんになりやすいという特徴があるのです」
血縁者に乳がんや卵巣がんの人がいる場合は、一度、医療機関に相談したい。
「もうひとつは、検査などで『チョコレート嚢胞』が見つかったことがある人。これは、本来子宮の内側にあるはずの子宮内膜が卵巣にたまり、チョコレートのように残り続けるという子宮内膜症の一種です。
卵巣がんの前段階になりうる病変なので、生理痛がひどい、排便時に肛門の奥に痛みがあるなどの症状がある人は婦人科で相談してみてください」
卵巣がんの発症リスクが高い人をリストにまとめた。1つでも当てはまる場合は、要注意だ。
卵巣がんのリスクが高い人チェックリスト
□年齢が40代以降
□初経が早かった
□閉経が遅かった
□妊娠・出産経験がない
□卵巣にチョコレート嚢胞がある
□血縁者に卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膵臓がんの発症歴のある人がいる
一度は受けてほしい「経腟エコー検査」
大島先生は、卵巣の状態を確認する方法として、「経腟エコー検査」を挙げている。これは腟から細いプローブと呼ばれる棒を入れ、超音波を当てて卵巣を見る検査だ。
「100%とはいきませんが、経腟エコーを受ければ、卵巣がんの原因になりうるチョコレート嚢胞などを見つけることが可能です。無症状の検診の場合は自費診療となり、料金は5000~6000円程度の施設が多いです。
また、放射線を使わないので安全性が高いというのもメリット。健康診断のオプションでつけられる場合も多いので、一度も受けたことがないという人はぜひ試してみてほしいと思います」
体験談「検診のオプションで早期発見。摘出できて命拾い」
48歳のときに受けた人間ドックの子宮がん検診のときに、オプションに経腟エコー検査があったので、念のために選択して受けました。
その結果、チョコレート嚢胞があるとの診断。3か月に1回、経腟エコー検査での経過観察を続けることになったんです。
きっかけの人間ドックから2年後。50歳のときの経腟エコー検査で、チョコレート嚢胞が大きくなり、内部にごつごつしたかたまりができていると先生に言われ……。開腹手術を行ったところ、卵巣がんになっていました。
手術では、子宮、卵巣、卵管、骨盤と大動脈のリンパ節、腹膜の一部を摘出。最終的にはがんが卵巣にとどまっているステージ1で、すべてのがんを摘出することができました。
定期的にエコーをしていたおかげで、手を打つのも早かった。心からほっとしました。
取材・文/オフィス三銃士 イラスト/倉持寛子、関 祐子