あなたがもっとも“胸キュン”したラブコメはどれ?

 今の時代、もはや恋愛ドラマはヒットしない─。そんな定説を打ち破ったのが、'22年10月から放送のドラマ『silent』(フジテレビ系)。耳の不自由な青年の静かで優しい恋物語が視聴者の心をつかみ、恋愛ドラマブーム復活か? と騒がれた。

少女漫画の王道展開が今も昔も大人気!

 振り返れば恋愛ドラマ全盛期のころ、世の女性たちは毎週テレビにかじりついては胸をキュンキュンときめかせたもの。そこで、全国の30代~50代女性600人に調査を実施。あなたの思い出の胸キュンラブコメドラマはなんですか?

 1位に輝いたのは、『花より男子』(2005年、TBS系)。アンケートには、

「道明寺のツンデレにメロメロでした」(53歳・宮城県)

「道明寺より思いやりのある花沢にキュンとした」(46歳・和歌山県)

「ヒロインとF4の“青春”模様に胸キュンしてた」(35歳・埼玉県)

 とのコメントが集まり、計100票を獲得。ヒロインは井上真央演じる貧乏女子高生・牧野つくしで、松本潤演じるF4リーダーのセレブ男子・道明寺司との身分違いの恋の行方が描かれた。

『花より男子』のメインキャスト(左上から松本潤、小栗旬、松田翔太、井上真央、阿部力)

「この作品は普遍的。今見ても面白く、どの世代も楽しめる」と話すのは、ドラマ評論家の田幸和歌子さん。作品の胸キュンポイントをこう話す。

「普段はオレさまの道明寺がヒロインにだけ弱い、というキュンキュンドラマの王道スタイル。井上さん、松本さんをはじめキャストも素晴らしく、とりわけ小栗旬さん演じた花沢類が当て馬として素晴らしかった。

 恋愛ドラマは最強の当て馬がいると作品に磨きがかかるけれど、過去作を振り返っても、花沢類か『あすなろ白書』で木村拓哉さんが演じた取手治が当て馬の二強。

 庶民がセレブに見初められるというシンデレラストーリーにもときめきました」

 2位は『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年、TBS系)。

「奥手な2人が徐々に距離を詰めていくもどかしさとスレ違いにキュンキュンした」(40歳・大阪府)

「契約結婚と割り切ったつもりが、少しずつひかれあっていく2人を見ていて応援したくなった」(44歳・京都府)

 と、72票を獲得。

『逃げるは恥だが役に立つ』のメインキャストの新垣結衣と星野源。番組がきっかけでのちに夫婦に

 新垣結衣演じる森山みくりは、派遣切りにあい、星野源演じる津崎平匡と契約結婚をするが……。恋愛下手な2人に視聴者はやきもきし、“むずキュン”の流行語を生んだ。

「主人公2人が愛らしく、彼らが時間をかけて距離を縮めていく姿に共感する人が多かった。夢物語ではなく、理系男子で恋愛経験のない平匡さん、賢いゆえにあざといといわれるみくりと、それぞれの人物像がリアルなところもイマどきでした」(田幸さん)

音楽でつながる思いやBLドラマの新境地

 3位は『のだめカンタービレ』(2006年、フジテレビ系)。

「上野樹里が演じたのだめが可愛く、原作のイメージにぴったり」(北海道・50歳)

「玉木宏の千秋が王子様すぎて。あんなドSキャラに振り回されたい」(42歳・青森県)

 と51票獲得。エリート音大生・千秋真一と、破天荒キャラながら天才的音楽性を持つヒロイン・野田恵(のだめ)。性格が相反する2人の恋と成長を描いた物語で、アンケートでは主人公2人を称賛する声が多く集まった。

『のだめカンタービレ』のメインキャスト、玉木宏と上野樹里

「上野さんのほかにのだめを演じられる人はいないし、千秋は玉木さん以外考えられない。これ以上ないと思えるキャスティングで、2人の掛け合いを見ているだけで笑顔になってしまうくらい可愛い。

 男女の恋愛という以前に、互いの才能にひかれあい、音楽でつながっている、その特別な関係性がすてき。難しい音楽モノを楽しく説得力を持たせて描けたという意味でも突出した作品」(田幸さん)

 4位は『おっさんずラブ』(2018年、テレビ朝日系)。

「登場人物すべての人が互いを思い合う。その過程が丁寧に描かれていた」(42歳・宮城県)

「相手を思って別れたのに、“やっぱりあなたしかいない!”と追いかけてくる場面にキュンキュンした」(53歳・兵庫県)

 と43票獲得。田中圭演じる春田創一と、林遣都演じる牧凌太の恋に、吉田鋼太郎演じる黒澤武蔵が割り込んで─。BLを従来にない視点で描き、胸キュンドラマの新たな流れをつくった。

『おっさんズラブ』メインキャストの林遣都、田中圭、吉田鋼太郎

「良い人しか出てこないファンタジーのような世界で、視聴者はじゃれあう小動物を愛でるように彼らを見ていたのでは?

 昔、月9で木村拓哉さんにハマっていた層は自分をヒロインに投影してドキドキしていたけれど、このドラマは彼らの世界に自分がいる必要はない、ただただ見ていたい、という方向へキュンキュンの形を変えた。それがまた後の『チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)』にも継承されていきます」(田幸さん)

流行語大賞にもノミネートされた“干物女”が主人公に

 5位は『恋はつづくよどこまでも』(2020年、TBS系)。

「佐藤健がドSでときどきデレるのが良い。ヒロインの上白石萌音も可愛かった」(52歳・京都府)

「天堂にときめきっぱなしだった」(40歳・奈良県)

 と、37票を獲得。佐藤健演じる医師・天堂浬のツンデレにやられたとの声と同時に、ヒロインのナース・佐倉七瀬を演じた上白石萌音を推す票も目立った。

『恋はつづくよどこまでも』のメインキャスト、上白石萌音と佐藤健

「とにかくキュンキュンの見せ方がベタで、ここまでやるかというぐらい詰め込んでいました。見てられないと言いながらも、みんな佐藤健にきゃーきゃー言って騒いでいたのでは。上白石さんをヒロインに据えた人選も見事。

 当初は“もっと可愛い女優を”ともいわれたけれど、ピュアに恋する姿が可愛くて、最終的に佐藤健ファンが彼女を応援するようになっていました」(田幸さん)

 6位は『ホタルノヒカリ』(2007年、日本テレビ)。

「綾瀬はるかの“ぶちょ~”が可愛かった」(50歳・兵庫県)

「“干物女”のヒロインと藤木直人が演じた部長のまったりした恋愛模様が良かった」(59歳・滋賀県)

 と26票獲得。綾瀬はるか演じる雨宮蛍のぐうたらな“干物女”が話題に。“干物女”はこの年の流行語大賞にノミネートされ、注目を集めた。

『ホタルノヒカリ』メインキャストの綾瀬はるかと藤木直人

「このあたりから美人なのに残念なヒロインが増えましたね。干物女に共感する女性が多く、それもヒットの理由。ひと昔前の月9はヒーローのカッコよさにキュンキュンしたけれど、このドラマはみんな蛍にキュンキュンしていました」(田幸さん)

 7位は『ラスト♪シンデレラ』(2013年、フジテレビ系)。

「年齢差がありながら好きになってしまうところにキュンとした」(59歳・茨城県)

「三浦春馬さんの笑顔に癒された」(50歳・神奈川県)

 と、21票獲得。篠原涼子演じる39歳“おやじ女子”遠山桜と、24歳のイケメン御曹司・佐伯広斗の年齢を超えた恋物語で、最高視聴率は20・9%を記録した。

「ドラマ視聴者が高齢化し、ヒロインも高齢化。ぐっと年下のイケメン男子と恋に落ち、ご都合ドラマともいわれましたが、三浦さんの魅力で支持を集めた。眼福ドラマの感がありました」(田幸さん)

日常がしっかりと描かれたうえでの恋愛

 このほか8位以下には、

『大恋愛~僕を忘れる君と』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『中学聖日記』『恋はDeepに』がランクイン。

 主人公のタイプも作風もバラバラに見えるが、そこにはひとつの法則があると田幸さんは解説する。

「どのドラマも作品と登場人物にしっかりとした魅力がある。昔のドラマはセンセーショナルで、障害やすれ違いなどハラハラさせる仕掛けで視聴者を引きつけましたが、今は実力ある脚本家と役者をそろえ、きちんと作った作品が届いている」

 若者のテレビ離れ、恋愛離れが叫ばれて久しいが、今後恋愛ドラマに未来はあるのだろうか。今の時代、視聴者の心をつかむ恋愛ドラマとは─。

「恋愛ドラマにおいても、恋愛至上主義ではない作品が支持されるようになっている。『silent』にしてもそう。身近かつリアルな設定で、日常の延長線上に恋愛もある、という在り方です。

 そこに魅力を与えるには、やはり丁寧な作りが必要になる。今は誰でもドラマを見る時代ではない。だからこそ今後はよりクオリティーが求められるようになるでしょう」(田幸さん)

 この先テレビに釘付けになるのはいつの日か? 次なる胸キュンドラマを期待したい。

胸キュンラブコメドラマ ベスト5

【第1位】《100票》花より男子(2005年 TBS系)

【第2位】《72票》逃げるは恥だが役に立つ(2016年 TBS系)

【第3位】《51票》のだめカンタービレ(2006年 フジテレビ系)

【第4位】《43票》おっさんずラブ(2018年 テレビ朝日系)

【第5位】《37票》恋はつづくよどこまでも(2020年 TBS系)

お話を伺ったのは……

田幸和歌子(たこう・わかこ)さん○週刊誌や月刊誌、Webメディアなどで俳優や脚本家のインタビュー、ドラマに関する記事を執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など

取材・文/小野寺悦子

 
『花のち晴れ』打ち上げの2次会会場を後にする松本(左)と小栗(右)

 

『花のち晴れ』打ち上げに参加した中川大志

 

ドラマ『花のち晴れ~花男NextSeason~』の打ち上げ、主演の杉咲花が帰宅したのは朝の5時前('18年)

 

『花のち晴れ』撮影の合間に監督と一緒にモニターをのぞく平野紫耀

 

ドラマの撮影に臨む平野紫耀(18年『花のち晴れ』)

 

この日は、作中のC5の制服ジャケットを着て撮影に臨んでいた(2018年『花のち晴れ』)