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 カンボジアやボスニア、アフガニスタンなど戦争の現場を取材する一方、過去に大桃美代子さんと麻木久仁子さんを妻に持ち、「平成のモテ男」とも称されたジャーナリストの山路徹氏。彼は近年、自身のYouTubeチャンネルにて、受動喫煙問題に取り組んでいるのをご存知だろうか。2022年6月以降、『シリーズ“STOP!受動喫煙”』と題して、動画を発信しているのだ。

山路徹氏が受動喫煙の取材を始めたワケ

 受動喫煙といえば、2020年4月に改正健康増進法が全面施行されてから、まもなく3年が経つ。望まない受動喫煙の防止を図るため、学校や病院、行政機関などでは「敷地内禁煙」、飲食店やオフィス、交通機関など上記以外の施設では「原則屋内禁煙」となった。

 屋内での受動喫煙を防止する取り組みは強化されることになったが、屋内で喫煙できなくなった“喫煙難民”による、歩きたばこや路上喫煙が増加するという事態も起こっている。

 世界で起こる紛争の様子や新型コロナウィルス問題などを発信してきた山路氏が、なぜ、受動喫煙問題に取り組むようになったのだろうか。

ジャーナリストの山路徹氏

「もともとYouTubeでは、犬猫の愛護活動について扱う『HGA48 犬猫ニュースチャンネル』を運営していたんですが、さまざまな問題を発信する場として『ジャーナリスト山路徹のYouTubeチャンネル』を2021年1月から始めました。

 最初の頃は、僕が公安警察に追いかけられた映像やボスニア内戦の時に取材した映像、またコロナ禍に医師に取材したものなどを投稿していたんです。ただ、もっと視聴者のみなさんに関心を持ってもらえるような身近な問題も扱いたいと思っていたところ、仙台市勾当台公園の状況を知って。

 まず実際に行ってみないことには始まらないと、仙台に行ってみたんですけど、これがすごいんですよ。勾当台公園の周辺には仙台市役所のほかに、中央省庁の出先やいろいろな国の公的機関もあるんですが、それらに勤める職員が公園にある喫煙所に集まるんですよね。喫煙所の数は少ないのにピーク時には100人くらい集まるのかな? 結局、喫煙所には収まりきらなくて、いたるところでタバコを吸うという、ビジュアル的に言えば信じられない光景になるんです。

 役所に電話で取材したところ、やっぱり改正健康増進法の全面施行で、役所の施設内でタバコが吸えなくなったと。僕は同じタバコを吸う者としてある意味では哀愁みたいなシンパシーみたいなものを感じたし、公園には普段から利用する子どもやお年寄もいるので、受動喫煙の可能性が高まってしまう。そこで、その様子を一本の動画として出すことにしたんです」

喫煙者だからこそわかる部分と取材して気づいたこと

大阪市内の“箱型”喫煙所をレポートする山路徹氏。徹底した現場主義は健在だ(ジャーナリスト山路徹のYouTubeチャンネルより)

 山路氏は「最初はシリーズ化しようとは思っていなかった」というが、全国各地で様々な動きがあることを知り、取材を続行。

 喫煙所を新たに整備し直した奈良県香芝市役所や、2025年に開催が予定されている日本国際博覧会(万博)に向けて路上喫煙を禁止する方針を打ち出した大阪市に足を運び、2月28日時点で6本の動画を発信している。

「香芝市では、灰皿が設置されている役所近くのコンビニに職員が集まることから、役所の屋上に喫煙所が再設置されました。大阪市は、2025年の万博に向けて市内全域での路上喫煙全面禁止にするという話を打ち出している。分煙対策として120の喫煙所を設けると言っているんだけど、これが上手くいけば、全国に大きな影響を与えるんじゃないかなということで、取材を始めたんですよね。

 喫煙所って、喫煙者のために作ってるみたいなイメージもあって、“何でそんなもんに金出すんだ!”って怒る方もいる。でも、『シリーズ “STOP!受動喫煙”』を始めてから改めて分かったのは、喫煙所は分煙のための施設。タバコ吸わない人たちにとっても、受動喫煙を防ぐための施設でもあるんですよ。

 僕自身は、特にヘビースモーカーではないんですね。1箱を2日ぐらいで吸うペースで、タバコがなきゃ生きていけないみたいなものではない(笑)。でも、タバコ吸う人の気持ちはもちろんわかる。タバコを吸ってると肩身が狭いんですよ、“タバコを吸って、人に迷惑をかけてるやつ”みたいにね。喫煙者が過剰に感じてる部分ももしかしたらあるかもしれないけれども、やっぱり社会の中で圧迫感というか、窮屈感を持って生きていると思います。

 今、多様性と言われる世の中ですけど、タバコもひとつの文化ですし、多様性のひとつ。1本のタバコのうち、6割以上が税金として取られているにもかかわらず、吸う場所はどんどん減っている。やっぱりしっかりと分煙対策がとられた施設を作ってもらいたいですよね。その上で、“歩きたばこをしない”といったルールやマナーを守って、吸う人も吸わない人も共存できる社会を作ってもらわなきゃいけないなと

 山路氏は喫煙者だが、決して喫煙者の意見だけを発信しているわけではなく、非喫煙者にもインタビューを行っている。同氏は「動画を発信するうえで、タバコを吸わない人の声を聞くことは必須ですよね」と語る。

「やっぱり吸わない人の気持ちが分かって、初めて吸う側がどうすればいいのかが分かるわけですから、吸わない人の話に耳を傾けること、そしてそれを伝えることは、吸う人間として大事だなと思っています。例えば、吸わない人は喫煙者とすれ違っただけでも、“この人、タバコを吸っている”と分かるといいます。吸わない人にとっては、それほどにシビアな問題なんですよね。

 繁華街などでは、夜だからいいやと思っているのか、スマホ見ながら歩きタバコという人もいます。そういうことがあると、タバコを吸わない人は嫌になっちゃうんですよね。喫煙者は、マナーには充分気をつけてほしい。人に迷惑をかけてまでは、僕も吸いたくないんですよ

喫煙所をチェーン店にするのもアイデアの1つ

 改正健康増進法が全面施行から3年近く経ち、喫煙所できる場所を規制することで、逆に受動喫煙の可能性が高まるケースも増えていると山路氏は語る。各地の分煙の取り組みを取材するなかで、現状では「これが正解だ」といえるケースはまだないが、今後も『シリーズ “STOP!受動喫煙”』を続けていきたいと語る。

「例えば、大阪市は閉鎖された箱型の喫煙施設をなるべく作りたいと言っているけど、予算と場所の問題があるし、さらに防犯などの面で24時間開けておくわけにいかないから誰かがカギを締めにいけないなど維持管理の問題も発生する。だから、閉鎖型は人通りの多い場所に設置して、人通りがそんなに無いような場所は開放型を検討するなどと、試行錯誤しているみたいです。

 また、喫煙所の数も問題になっていますよね。大阪の商店街組合に取材したところ、喫煙所の有り無しで人流が変わる可能性があるので、タバコが吸えなくなることが商売に与える影響は計り知れないと。

 今、大阪市が想定する喫煙所の数は120か所なんだけど、商店街が試算したところ360は必要だと。大阪市の考える数字の3倍必要であると。ただ、たくさん作るには、やっぱり予算が問題になる。

 このようにまだまだ課題はありますけど、きちんと分煙対策施設を作ることで、喫煙者と非喫煙者が共存できる社会の実現を、この万博で見せてほしいなと期待してます」

 山路氏は、けっして動画を投稿した地域だけに関心を持っているわけではない。全国各地で行われている分煙への取り組みについて調査を続けている。

もちろん他の地域でもいろいろな取り組みがありますよ。東京・錦糸町駅前には、葛飾北斎の『富嶽三十六景』のデザインを施した開放型の喫煙所があるんですけど、喫煙所というよりはなにかのオブジェやアートがあるようにしか見えませんよ。あれは景観を損なわず、いいなと。

 東京の京橋エリアでは、遊休地に官民一体で閉鎖型の喫煙所を作ったんですけど、運営費を捻出するために、喫煙所のなかで広告を流すアドビジョンみたいなものを設置する計画があるみたいです。

 今は事実上、行政に任せっきりという部分も無きにしもあらずですけど、僕は、民間企業が喫煙所そのものを商売にすればいいとも思うんですよね。入場料を取らないまでも、なかで飲み物が買えたりしたり、喫煙所をチェーン店にするのもアイデアの1つだと思います。

 このように様々な取り組みが行われていることを多くの人に気が付いてもらうためにも、情報として出していかないとね。伝わらないことは、ないものと一緒ですから。本当は大手新聞社や大手テレビ局なども扱ってくれればいいんだけど(笑)」

ジャーナリスト山路徹のYouTubeチャンネル』はこちら

お話しを伺ったのは……山路 徹(やまじ・とおる)●1961年9月23日生まれ、東京都出身。1980年代から、『ニュースステーション』(テレビ朝日)の制作に関わる。1992年に「株式会社APF通信社」を設立。戦争・紛争地帯の取材を行い、様々な報道・ニュース番組に取材映像とレポートを提供してきた。