「もしかしてだけど~」の歌ネタでお馴染み、お笑い芸人のどぶろっくにインタビューを敢行。2019年のキングオブコントで優勝した2人は23年、石崎ひゅーいやMOROHA、キュウソネコカミなどとのツーマンライブに、3月18日から全国公開される映画「クモとサルの家族」に出演するなど、活動の幅を広げている。結成から20年弱、下ネタを絡めた歌ネタで一世を風靡したどぶろっくの現在地を聞いた。
保育園から大学まで同級生として過ごした江口直人と森慎太郎は、2004年にコンビを結成。2008年頃から「あらびき団」で歌ネタを披露し始める。しかし、当時は手探りな状態だったと告白する。
江口直人(以下、江口):当時、下ネタをテーマにした歌ネタはウケないジャンルだと思ってたんですよ。あらびき団の時も手応えは半信半疑で。
森慎太郎(以下、森):当時の歌ネタは、バイト先の女性とか、よく行くハンバーガー屋の店員とか、元ネタの女性がいたんです。そのぶん歌詞も生々しいし、好きな女性をストーキングするというスレスレのネタもありましたから。果たしてこれがテレビでウケるのかなとは思ってました。
「優勝したい」よりも「歌ネタを見てほしい」
方向性に迷い、喧嘩が耐えない時期もあったという。
森:漫才やコントの形式で下ネタを披露していた時期もありましたが反応は微妙で。それならトークを頑張ろうとしたものの、それも奮わず……。
江口:当時は余裕がなかったのか「あれもこれもやらなきゃ」と焦っていて、当時はよく喧嘩もしていました。「俺がここまでしているんだからもっと突っ込めよ」とぶつかって泣いたり。今思うと喧嘩の原因も恥ずかしいですが……(笑)
森:ただ模索している時期を経て、歌ネタが自分たちに合うスタイルなんだと気付きました。歌だとネタが完成するまでの段取りがとてもスムーズなうえ、フレーズにインパクトがあるので視聴者に自分たちの想いをうまく伝えられるんです。
江口:当時は「もう自分たちにできるのは歌ネタぐらいしかないんだな」という消極的な感じでしたが、それでも無理せず自分たちのやりたいことをやっていこうと。そこから歌ネタ1本に固めていきました。
その後どぶろっくは、「エンタの神様」をはじめテレビ出演を重ねていく。「歌ネタ王決定戦」ではファイナリスト常連となり、名実をともにしていく。
そして2019年、森の強い要望によりキングオブコント出場を決断。12代目キングとして輝いた。
森:出場時は「優勝したい」というよりも、「僕らの歌ネタを多くの人に観てもらいたい」という気持ちが強かった。歌ネタを続けていくうちに自信もついて、これならいけるんじゃないかと手応えがありました。
江口:実際に準決勝ではかなり手応えがありましたね。ただよく考えると、決勝に進むと下ネタをゴールデンで披露することになるので、どういう判断になるんだろうと思う気持ちが強かったです。
森:だから僕は優勝した時よりも、決勝進出が決まった時の方が嬉しかったんですよ。決勝進出=地上波のゴールデンという大舞台でネタをやらせてもらえるという意味合いだったので。
江口:準決勝でめっちゃウケた時に「やれるところまではやったな」という達成感はありました。もし準決勝敗退になったら「ゴールデンではできなかったんだ」と諦めもつく。あとはなるようになれって感じでしたが、結果的に優勝できて良かったです。
歌詞にメッセージ性を乗せる意識
下ネタをテーマとした歌ネタを武器にする2人にとって、テレビのコンプライアンスが厳しくなっていく昨今は厳しい状況にあると言える。地上波でも際どい歌ネタを披露するため意識していることはあるのか。
森:下ネタをストレートに言わないように、騙し騙し表現していることは多いです。
江口:そのまま言うとテレビでは放送できないので、「きぇんたま」と言い方を変えたり(笑)
森:「sting sting」とかね(男性器を誤魔化して表現)。法の網をくぐっているようなもんです(笑)。あとはちょっとファンタジーっぽい設定にしたり。だから余計に僕らの歌って馬鹿らしくポップな感じに聞こえるんですよね。
江口:NGワードについて触れると一発アウトですね。
森:とあるネタで「Dear My Friend」っていう正統派なタイトルで、メロディーもめちゃくちゃ爽やかなんですけど、アウトなフレーズが1こあるだけでNGを食らってしまう。だからこそ「きゃんたま」とぼかした言い方や、綺麗なメロディーで浄化してみたりと、なんとか誤魔化し誤魔化しやっています。
江口:爽やかなメロディーで下ネタをカモフラージュするというか。AVでモザイクかけているようなもんですね(笑)
森:もうNG喰らう内容だろうと思っている時は、あえてコンプラに気づいていないフリして、思いっきりNGワードについて歌っているネタを出したりしています(笑)。まあ、ちゃんと気づかれるんですけど。ネタの内容からは想像できないかもしれませんが、歌詞も真剣に考えているんですよ(笑)。やっぱノリや印象が変わるので。
江口:途中で喧嘩になることもありますね。僕らぐらいじゃないですか?「おっぱい」をどう表現しているかで喧嘩している人なんて(笑)
森:それぐらい熱量はあるんですけどね(笑)
江口:テーマは下ネタでも、結構メッセージ性を乗せることは意識しています。男の下ネタに対するバカらしさとか哀愁とか。ジョン・レノンが反戦を歌っているなら、僕らは下ネタでメッセージを伝えていきたいなと思ってます(笑)
映画の主題歌も担当
主戦場のテレビで歌ネタを披露するために試行錯誤するどぶろっく。しかし最近では、テレビ以外にも活動の幅を広げている。2023年2月から3月上旬にかけては、アーティストの石崎ひゅーい、ロックバンドのキュウソネコカミやMOROHAとのツーマンライブを敢行した。
森:テレビ以外のライブの場では、テレビではできないような歌ネタも披露できる。ライブは自分たちのやりたいことを自由に発散できる場なので、今後も続けていきたいですね。
江口:特に音楽フェスはどんどん出演していきたいですね。音楽ライブはウケるウケないに加えて、会場の熱を感じれるんですよ。お笑いライブとも全然違って、その盛り上がりや会場のボルテージをよりダイレクトに感じられる。波がブワーっとくるというか。
森:これまでもちっちゃな箱でひっそりライブはやっていたんですけど、大々的にやるのは今回が初めてだったかもしれないですね。しかも大物アーティストとのツーマンですから。よく受けて頂いたなあと。
さらに23年3月18日公開の映画「クモとサルの家族」では役者として出演するかたわら、主題歌や挿入歌も手がける。
江口:今回、1週間ほど小豆島で撮影をしたのですが、そもそも長期的な撮影自体が初めて。仕事に対しての人生観が変わるような経験でした。映画に関わってらっしゃる方はすごくロマン溢れる方が多く、役者だけでなく衣装やメイクの裏方さんも1つ1つの細部へのこだわりが強い。良い意味で職人肌気質でした。そういう人が集まって1つの作品を作っている現場に触れ合えてよかったですね。
森:僕もワンシーンだけ途中から参加したのですが、もう現場の空気が出来上がっていましたね。江口がキャスト側でガッツリ出演していた分、僕が主題歌などを担当しました。いつも歌ネタを作るときは何の制約もなく自由に作っていますが、今回のようにテーマや作品の雰囲気に合わせて作曲するのは新鮮な経験でしたね。
今後もマルチに活躍する2人から目が離せない。
映画『クモとサルの家族』
2023年3月18日(土)から全国順次ロードショー
プロデューサー・脚本・編集・監督
長澤佳也
主演:宇野祥平 徳永えり
出演:田畑志真 リー・ファンハン チャオ・イーイー ニエ・ズーハン 江口直人(どぶろっく) 黒羽麻璃央 緒川たまき 仲村トオル 白石加代子 奥田瑛二
主題歌:どぶろっく
構成・文/佐藤隼秀 撮影/矢島泰輔