「指導熱心で生徒思いのやさしい先生です。部活動中、厳しい顔つきをしていることはよくありましたが……」
と話すのは別の運動部の男子生徒。
帰宅部の女子生徒は、
「そんなに怖い先生じゃないですよ」
とポツリ。いずれの生徒も、逮捕は信じられないという。
ミスった男子部員を上半身裸にして…
千葉県屈指のスポーツ強豪校・船橋市立船橋高校の男子バレーボール部監督の石井利広容疑者(60)のことだ。部活動の練習中、ミスをした男子部員に上半身裸になるよう命じ、髪を鷲掴みにして引っ張ったり、至近距離から顔をめがけて複数回ボールを投げつけた疑いが持たれている。県警船橋署は2月27日、暴行容疑で逮捕した。
県警によると、昨年11月18日午後6時30分ころから約2分間、同校体育館での出来事。男子部員はどのようなミスをしたのか。
「プレー中のミスで怒られたと聞いている。事件の2日後、部関係者から“暴行があった”などと相談されたのが捜査のきっかけ。上半身裸にした理由は今後調べていく」(捜査関係者)
同校などによると、事件当時、体育館には他の同部顧問2人や部員約40人がいたという。衆人環視の下、男子部員といえども命じられて服を脱ぐのは屈辱的だったろう。
船橋市教委によると、石井容疑者は1985年に同校の実習助手として市が採用。88年に社会科教諭として本採用された。
県下一の強豪校で知られる習志野市立習志野高から法政大に進み、おもにセッターとして活躍。トップレベルのチームでのプレー経験などから顧問として男子バレー部を長く指導してきた。90年の春高バレーで優勝するなど全国大会の常連校に押し上げ、97年から監督を務めている。
人事異動で他校に転任したことはなく“市船”一筋の教師生活だった。どれほど強いチームをつくり上げようと、公立学校の指導者に転任はつきもののはず。なぜ一度も異動がなかったのか。
「船橋市内の市立高校は同校しかありませんので異動先がないんです。県が採用した県立高校教諭が市船に転任してくることはあるんですが、その逆の仕組みはありません。もともと市で採用した教諭は少数にとどまり、石井教諭は最後の『船橋市採用教諭』なんです」(市教委の担当者)
同部顧問3人のうち最も指導経験の長い石井容疑者が試合では監督を務めた。しかし、練習は3人で分担していたという。他の顧問は男子部員が練習着を脱がされそうになった時点で止めに入らなかったのか。県警は日常的に暴行していた可能性も視野に入れ、捜査を進める方針だ。
生徒や保護者から暴力・暴言の訴えはなかった
「警察が捜査に入っているため、他の顧問や部員から詳しい話を聞けていません。石井教諭については指導方法が問題視されたことはなく、生徒や保護者から暴力・暴言の訴えもありませんでした」(市教委担当者)
逮捕を受けた記者会見で同校の津田亘彦校長は、石井容疑者が体罰にナーバスになっていたと明かした。時代が変わったことを受け止めていたというのだ。
石井容疑者は校長との対話で、
「いわゆるレシーブ練習で、あちこちにボールを散らす練習をしたときに『それは厳しいんじゃないのか』という声も聞かれました。こういう練習も厳しいといわれたらなかなかバレーで鍛えることは難しくなっている時代なんですよね」
と話したという。
生徒や保護者に対しても、「力で無理やり指導することはできない」と宣言していた。
「無断欠勤などはなく勤務態度はまじめです。先生たちのまとめ役として、授業や部活動の指導などに一生懸命に取り組んでいました」(同校教頭)
“量より質”の理論派だった
同校のホームページによると、部の指導指針は「自主性」と「バレーボールを通じての人間力の向上」。一日の練習時間は授業のない日も含めて3〜4時間にとどめ、週1日は完全オフとしている。思うように部員が集まらなかった時代があり、“量より質”の練習を重視するようになったとみられる。
他の運動部の生徒に対し、
「そんなに長時間練習したら身体を壊すぞ」
とアドバイスすることもあったというから、理論派といえる。
複数の同校卒業生によると、「厳しさ」と「親しみやすさ」が同居する人柄で、生徒に好かれる教師だった。
「生徒指導を担当していたとき、全校集会でマイクを握って“生徒のみなさんを信頼しているので私から話すことはありません”とひとことだけ言って終わりにした。上から目線ではなかったから、女子生徒から“せんせ〜い”と抱きつかれたりしていた」(20代の卒業生)
「生徒のキャラクターを把握した上で厳しく接したり、諭すようにしたりと使い分けていた印象がある。時間を無駄にしてダラダラ過ごしていると“今しか出来ないことがあるんだぞ”と諭してくれた。やる気が伝わってくる先生だった」(30代の卒業生)
理論派で生徒を信頼していたはずのベテラン監督はなぜ手を出したのか。なぜ半裸にする必要があったのか。捜査の進展が待たれる。