LINEのアンケート調査によると今年ブレイクしそうなお笑い芸人の1位がさや香だったそうです。さや香といえば昨年末のM―1グランプリで超人的な掛け合いの漫才を披露しての準優勝が記憶に新しいところですが、彼らは2017年にもM―1グランプリの決勝に残ったり、2020年には歌ネタ王決定戦で優勝したりと輝かしい戦績を残しております。
ブレイクしそうなお笑い芸人1位・さや香の漫才
僕の中での注目ポイントとしては、2017年のM―1グランプリ決勝に彼らはまったく別の漫才スタイルで出場していたことです。そのときの彼らのネタは、こないだのしゃべくり漫才とは違って、テンポよくボケてツッコんでというかたちの漫才でした。そして、なによりこないだのM―1との一番大きな違いとして、ボケとツッコミが逆でした。
正直に言うと当時の僕のさや香に対する印象としては、非常にさわやかなルックスできれいな漫才をするコンビというイメージで、それ以上のものを感じませんでした。同業者として見たときに、彼らに対して怖さを感じませんでした。怖さって、なんだ?という話ですが、それは自分の想定を超えてくる笑いを仕掛けてくるというニュアンスです。とはいえ彼らには抜群のポップさがありまして、それが武器なのだと認識していました。
その印象が変わったのが、M―1グランプリ2021の敗者復活での彼らのネタを見たときでした。このときは、まだボケとツッコミは以前のままで、新山くんがボケていました。
「からあげ」は四文字であるというネタでした。なんのこっちゃと思われるかもしれませんが、これが本当にそのままのネタで、新山くんが、「からあげって、ひらがなにすると四文字やねん! 五文字でも、三文字でもないねん!」と言って、「そうや、『からあげ』は四文字や!」と戸惑っているツッコミの石井くんを翻弄していくネタなのです。
このネタは、さや香がかつて披露したポップな漫才への、カウンターのようにも思える、恐ろしく感覚的で、尖ったネタでした。
お笑い脳はマニアックでルックスとアンバランス
そして、昨年末のM―1では、さらにボケとツッコミが逆になった新生さや香としてあの超絶しゃべくり漫才を披露するわけですから、面白さ以外に大きな驚きがありました。
さや香のネタは、ネタ制作者でもある新山くんという体格も良く、スポーツマンのようなルックスの彼が笑いを主導していくネタだとお見受けします。ツッコミのときもボケのときも、彼が主体となって笑いをつくっていきます。これは勝手な臆測なのですが、彼の持っているお笑い脳はすごくマニアックなのだと思います。ただ、それが彼のルックスとアンバランスなのではないでしょうか?
新山くんのルックスからすると、ストレートな発言や、熱いことを言うのがとても似合う気がします。一方で、石井くんのほうはなんとなく狂気を孕んだ目をしているように僕には見えます。ひとでなしのような発言や、倫理に反したことを言うのが似合う目をしているのです。
新山くんはいつか気づいたのではないでしょうか。自分が狂ったことを言うよりも、相方にそれを言わせて、自分はそれを拾い広げるツッコミをしていったほうが効率のいいことに。
新山くんのお笑い脳が求める笑いの形は、新生さや香においてその完成形を見つけたのだと思います。あとは、それを歩み続けるだけな気もしますが、彼のお笑い脳は飽くなき探求を続けるのか? 行く末が恐ろしくも楽しみであります。