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 昨年12月、整形外科の医師たちが集まるシンポジウムで、ある調査結果が公表された。

「接骨院や整骨院などで健康被害を受け、医療機関を受診した患者は、この5年間で529例」

 町の接骨院でマッサージを受けた結果、骨折やヤケドなど、なんらかの健康被害が出て病院に駆け込んだ事例が、5年で500件以上あるのだという。

脱臼しているのに気づかずマッサージ

 かなり多いように思えるが、「これは氷山の一角にすぎません」と言うのは、健康被害の実態調査をした日本臨床整形外科学会の医療システム委員会だ。どういうことなのか、話を聞いた。

 接骨院や整骨院は医療機関ではないが、いくつかの条件をクリアすると健康保険が適用されるため、安くマッサージなどを受けられると人気だ。

 特に高齢者は腰痛など身体の痛みが出やすいため、日常的に通っている人も少なくない。そこでどういった健康被害が出ているのだろうか。

 典型例は腰痛で腰のマッサージを受けるときだという。強い力で指圧されて骨が折れてしまうことがあるのだ。

「なかには患者が痛いと言っているにもかかわらず、『痛いのを我慢しないと治らないよ』と言って施術を続け、骨折するといった被害もありました」(日本臨床整形外科学会医療システム委員会、以下同)

 痛みを取りに接骨院に行ったはずが、逆に被害にあい悪化してしまうのだ。

 他には、脱臼をしていたり、アキレス腱を断裂しているのにもかかわらず、それに気がつかずに意味のないマッサージを繰り返したり、さらには、医師が処方した薬の服用を中止させるといったケースも。

 かなり悪質だが、まだまだ他にもあるはずだという。

「5年で500件以上というのは、私ども日本臨床整形外科学会に報告された数に過ぎません。

 私たちは主に開業している整形外科医の集まりですので、本学会以外の整形外科医ももちろんいますし、お灸などによるヤケドなら皮膚科など、別の診療科に行くと思います。

 また、病院に行かずに泣き寝入りしている人も少なくないはずなので、実際には今回の調査で出た数字の何十倍もの健康被害が出ているおそれがあります」

接骨院の数が増えすぎたのも一因

 接骨院や整骨院はもともと、近くに整形外科がない人が骨折や脱臼したときに応急処置を施してもらうための場所だった。

 そのため以前は「骨つぎ」とも呼ばれていたが、いまは整形外科医も増え、ほとんどの人が家の近くで整形外科にかかることができる環境になった。

「にもかかわらず、接骨院などで働く柔道整復師の数は増え続け、いまや整形外科医の約3倍います。接骨院の数も増えたので当然、過当競争になり、業務範囲外の、本来なら医師の範疇の施術を行っていることも健康被害が増えた一因だと思います」

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 例えば、長く続く腰痛や首の痛みなどは、本来は医療機関に行くよう患者を促すべきなのだが、自分のところで施術している場合も多いという。

 また、接骨院に行く人が高齢化していることも関係している。骨粗鬆症などで骨がもろくなっていれば、当然、マッサージなどで骨折しやすくなるからだ。

 ただ、これだけ健康被害が出ていれば、接骨院側も強い指圧を避けるなど、注意をするのではないだろうか。

「実はいちばん問題なのは、自分たちがそういった被害を出している事実に気がついていない可能性が高いことです」

 患者は接骨院でケガをしても、お世話になった手前、あまり表沙汰にしたくないと思う人が多いのだという。同じところにまた行くことはさすがにないが、わざわざ「ケガをした」と言いに行く人も少ないのだ。

「それでは接骨院側が気がつくわけはありませんし、場合によっては、その患者さんが来なくなったのはマッサージで痛みが取れてよくなったからだと勘違いする場合もあるから、厄介なのです」

痛ければまずは医療機関で検査を

 なぜそれでも接骨院に人は行くのだろうか。

 いちばんの理由は安さだ。いわゆるもみほぐしをうたった町のマッサージ店は3000円とか5000円とかかかるが、接骨院で保険を使った場合は500円ほどで済むことも。大きな差だ。

「金額もそうですが、話を聞いてもらえるという点も魅力なのだと思います。私たち医師は患者さんの話をさすがに10分も20分も聞くことはできません。ですが、接骨院ではマッサージを受けながら話を聞いてもらえますから」

 病院や医者の敷居を高く感じ、「腰が痛いくらいで病院に行っていいのかな……」と思う人もいるだろう。

「私たち医師側も改善すべき点はあると思っています。ただ、痛みがあるならまずは検査をして、病気があるのかないのか、診断を受けるべきです。そのためには医療機関に来てもらう必要があります。

 そのうえで、理学療法士などによる運動やリハビリの指導を受けられるのも、医療機関ならではの利点です」

 痛みが出たら病院で検査が基本だが、検査して特に異常なしと言われたのに不調が取り除けなかったり、病気ではないけどなんとなくだるいといった場合は、じっくり時間をかけてくれる施術院もいいかもしれない。

 患者側が上手にチョイスして、目的に合ったサービスを受けることが大切なのだ。

医師による調査でさまざまな“被害”が判明!

 日本臨床整形外科学会の医療システム委員会が同学会所属の5771人を対象に実態調査をしたところ、2017年1月1日~2021年12月31日の5年間に129の医療機関から529例の健康被害が報告された。以下は主な事例。

接骨院での健康被害の実例(イラスト/小島サエキチ)

■マッサージなどが原因で骨折(脊椎圧迫骨折、肋骨骨折など)
■お灸などによるヤケドやかぶれ
■骨折や脱臼に気がつかずマッサージ
■がんの転移による腰痛にもかかわらず施術を継続
■医者が出した薬の服用を中止させる
■医者が処方した装具を無断で取り外す
■医師免許がないのにエコー検査をして診断

(取材・文/富永福子 イラスト/小島サエキチ)