3月4日にスタートした土ドラ『自由な女神−バックステージ・イン・ニューヨーク−』(東海テレビ・フジテレビ系毎週土曜夜11時40分~)で、主人公のサチ(井桁弘恵)が影響を受ける伝説のドラァグクイーン、クールミントを演じている武田真治。
故・忌野清志郎さんをイメージ
「人の弱い部分に寄り添う現代のロックスター。カッコいい役を演じさせてもらえてありがたい限り。すばらしい経験になりました」
クールミントは、メイクアップアーティストで、クラブ「リトルニューヨーク」の経営者。ニューヨークで夢破れ挫折、その人生経験から悩める人たちの救世主のような存在だ。
イメージしたロックスターは、故・忌野清志郎さん(享年58)。かつて武田自身が悩める時期に出会い、救われた。
「2000年前後に体調を崩して心身共に疲弊していたときに出会いました。ファッションも自分の想像を超えるような衣装でステージに上がる清志郎さんは、夢を諦めてしまっていた自分をまたステージに連れ出してくれた、とても恩のある方です。生前に恩返しができなかったので、役を通して、清志郎さんにしていただいたことを若い人にできたらいいなというつもりで演じました」
サックス奏者を夢見て高校在学中に応募した『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリを受賞。中性的な魅力で“フェミ男”と称され人気を博しドラマや映画だけでなくバラエティー番組でも活躍した。27歳のときには映画『御法度』でブルーリボン賞助演男優賞を受賞するなど順風満帆だったが、自身の気持ちは違っていた。
「はた目には何か悩んでいるようには見えなかったみたいだけど、心の安定を保つのが難しい時期でした。演じることへの虚無感や顎関節症になってサックスが吹けないこともあり、ふさぎ込んでいたときに先輩俳優が清志郎さんの自宅スタジオに連れて行ってくれました。そこで初めてお会いして“サックスが吹ける子だよね。今度デモテープを手伝って”と言われたのがきっかけで、交流させていただくようになりました」
その後、清志郎さんのコンサートツアーに参加。ロックスターと間近に接した。
「上から目線が一切ない。一緒にサックスのフレーズを探してくれたり、ライブでの失敗やうまく吹けなかった自分に寄り添ってくれました。当時、清志郎さんは自転車で移動していましたが、そのときのウエアを自ら洗濯したり、自転車にオイルを差したり、運んだりする姿がカッコよかった。僕にとって、みんなで協力して生活していくことを教えてくれた初めての大人でした。表舞台では魔法のようなステージを繰り広げているけど、それには準備があること。努力と製作過程のすべてを見せてくれた方です」
ドラマは、ファッションデザイナーを目指すサチの上京物語としても描かれる。北海道出身の武田は17歳で上京した。
「テレビで見ていた東京はバブル全盛期でキラキラしてまぶしかったです。ニューヨークやロサンゼルスよりも憧れの街で、自分にとって遠い街でした。上京してからはサチのようにいろんな人に出会うことができました。割と早く売れたことで過信したり、自分を見失い悔やんだりした時期もあったけど、それも含めて人間として成長させてくれたのが東京という街だったと思います」
なりたくない自分から逃げてみようと東京に出てきた
クールミントはさまざまな名言で若者たちを応援する。
「“なりたい自分が見つからないなら、なりたくない自分から逃げ続けなさい。なりたくない自分につかまらないように全力で走るの。やみくもに走って汗だくで逃げて、そしたらいつのまにかなりたかった自分になっている”というセリフがいちばん好きです。
SNSなどが発達していなかった当時、僕自身も生まれ育った街では、なりたい自分にはなれないかもと思いました。どうしたらなりたい自分になれるのかわからないまま、なりたくない自分から逃げてみようとやみくもに東京に出てきた部分があります。役というよりは僕自身からのメッセージとして心を込めて演じました。
クールミントさんは強さだけじゃなくて、弱さもある。時々矛盾していて、決して完璧なスーパーヒーローじゃない。サチにとって足長おじさんでもナントカ先生でもない。一緒に成長していく、自分で言ったことの実践者であろうとする姿が人間らしくて共感できる魅力的なキャラクターです」
正月返上でダンス練習をした役作りや、ドラァグクイーンの扮装は見どころのひとつだ。
「しなやかに変身したかったけど、ここ数年ご存じのとおり筋肉質な体形。(役で)露出の多い衣装とのコラボレーションは“なんじゃこりゃ!”というのはありました(笑)。
でも現場で主演の井桁さんが褒めてくださったり“女性でもない男性でもない新しいカリスマに見えた”と現場で言っていただけて自信になり、やりきることができました。
わかりづらいかもですが、ミント色のカラーコンタクトをつけているのは、ちょっとしたこだわりです」
50歳。大人になったからこそ自身の経験を踏まえて伝えたいことがある。
「若者には自分らしくいてほしい。そのためにとらわれていることから踏み外すようなことがあっても、それは冒険の第一歩だと伝えたいです。そういう人たちにとって今回のドラマが、人生一度くらいの大冒険をしてみてもいいのでは、と背中を押せるような作品になったらいいなと思います」