50代は、ダイエットのラストチャンス。60代に入ってからのダイエットは内臓や筋肉に悪影響を与えるため、控えたほうがいいでしょう。とはいえ、若い頃に行っていたような「食べない」やせ方では、健康寿命を縮めてしまいます。食べても、ちょっとした工夫で無理なくやせることができるのです。50代が行うべきダイエットの考え方と食べ方を、4000人を超える患者に栄養指導してきた著者が伝えます。
管理栄養士で日本抗加齢医学会指導士の森由香子氏が上梓した『50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』より、一部抜粋・再構成してお届けします。
「口に入れるだけでやせる」奇跡の飲み物
ダイエットのために食事量を減らす必要があるとわかっていても、お腹がいっぱいになるまで食べられない、もっと食べたいのに我慢しなければいけないというのは、誰だって辛いものです。
そんな、食欲を抑えられずにダイエットに失敗してきたという方に、ぜひ試してほしい、飲むだけでやせる飲み物があります。しかもそれは特別高いものでも、手に入れるのが難しいものでもありません。
日本人なら誰もが馴染みがある、かつおのだし汁です。
食事の前に、かつお節でとった温かいだし汁をカップに1杯飲んでから食事をすると、それだけでやせられる可能性が高まるのです。実は、かつおの旨み成分には脳の報酬系を刺激する働きがあり、お腹に入れると満腹感が得られやすく、結果的に食事の量が減ることが明らかになってきました。
この習慣を続けていれば、無理せず自然と体脂肪を落とせると考えられるのです。ある研究結果によれば、だし汁でも、昆布だしには同様の効果は得られなかったそうで、かつおだしの香りが、満腹感と関係しているのではないかといわれています。
また、甲子園大学副学長の伏木亨先生の研究チームは、「マウスが、油脂や糖と同じくらいかつおだしに"やみつき"の反応を示した」という研究結果を発表しています。ただし、市販のインスタントのだしは総じて塩分が高いですし、かつお節でとっただしと同様の効果が得られるかどうかもわからないので、手作りでだしをとることが大切です。
だし汁を作るのがどうしても面倒という方は、食事の前に温かい麦茶やハーブティを飲むようにしてみてください。空腹時にカフェイン入りの飲み物を飲むと胃が荒れることがあるので、ノンカフェインのお茶がよいでしょう。あるいは、白湯をカップに1杯ゆっくり飲むようにしてみましょう。お腹が膨らみ、何も飲まないときよりは、満腹感が得られやすくなります。
そもそも、温かい飲み物をとると、体が温まることで血流が良くなり、内臓の働きが高まるため基礎代謝も上がりやすいなど、いくつものメリットがあります。食事の前に冷たいビールを飲むのはもうやめましょう。変わりに、温かいだし汁を飲む習慣をつけて、無理なく体脂肪を落としていきましょう。
「夜に食べたほうがいい」あのメニュー
年齢を重ねていくと、誰しも基礎代謝が落ちていきます。エネルギーが消費されにくく、燃えにくい体になるわけですから、どうしても太りやすくなります。
そこで、50代以上の方のために、少しでもエネルギーを燃やすメニューを考えてみました。ここで注目したのは、食事誘発性体熱産生(DIT)です。
体内に吸収された栄養素の一部が体熱となって消費されるため、食事をした後は安静にしていても代謝量が増えます。これがDITです。DITが高くなると、それだけエネルギーが消費されるので、当然、太りにくくなります。DITは、1日のうちでも変化があり、朝から昼にかけては高く、夜になると低くなることがわかっています。
よく、「夜食べると太る」と言われますが、それは夕方から夜にかけてDITが下がることも理由のひとつなのです。ですから、1日のうちでも夕食について、できるだけDITが上がりやすい食べ方をすれば、肥満防止につながります。
特におすすめしたいメニューは、唐辛子を使った温かい鍋物です。
唐辛子を使った料理を食べると、体がほかほかして汗が出てくることがありますが、これは食事誘発性体熱産生のひとつです。舌の上にある辛み受容体に、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンが結合し、それによって交感神経と褐色脂肪細胞(脂肪を分解して燃焼させる作用を持つ特別な脂肪細胞)が活性化して、熱が作られるのです。すると体が温まるので、血行が良くなり代謝も高まります。
さらに具材には、いかやたこ、ごぼうなど、噛みごたえがあるものを加えましょう。よく噛むことで自律神経が刺激され、DITが高まることがわかっています。唾液の分泌が増えて消化を良くし、満腹感も高まるため、食べ過ぎ防止にもつながります。DITは、よく味わってゆっくり食べるだけでも高まることもわかっています。五感で味と香りを楽しみながら、じっくりいただきましょう。
アンチエイジングの神細菌「LPS」
50代になったら、太りにくい体を維持するのも大切ですが、さまざまな病気に負けないために、免疫力をアップすることが必要不可欠です。私たちの免疫力は加齢とともに落ちていくので、本格的に病気にかかりやすくなる60代に入る前に、強い体を作っておくに越したことはありません。
免疫力を上げる栄養素には、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、亜鉛などがありますが、ここでは、最近話題のLPS(リポポリサッカライド)にふれておきましょう。
これは主に土の中に存在する細菌の成分で、土の中で育つ根菜やきのこ類などに多く含まれています。人間の体内では作り出せないので、食事でとる必要があります。LPSは、免疫細胞「マクロファージ」の働きを高め、免疫力を上げることが明らかになっています。
腸内環境も改善させ、生活習慣病の予防やアンチエイジングにも効果があると考えられています。
LPSは土の中に多く存在する細菌なので、自然な土で栽培されたものに豊富です。無農薬や減農薬栽培された、泥つきの野菜に特に多く含まれています。
幅広い食材に含まれていますが、特に豊富なおすすめの食材としては、れんこん、ほうれん草、小松菜、ピーマン、きゅうり、オクラ、ししとう、きのこ類、豆類などが挙げられます。
きのこの中では、特にLPSを多く含むのはひらたけです。なめこやしいたけ、マッシュルームも豊富です。
豆類の中では、さやごと食べられるスナップえんどうやさやえんどう、皮ごと食べるくるみやごまなどの種実類もおすすめです。
果物にもLPSは含まれており、りんご、なし、いちじく、桃などに豊富です。
わかめやめかぶ、とろろ昆布、のり、ひじきなどの海藻類にも含まれています。
調理の注意点としては、LPSは皮に多く含まれているので、食べられるものは皮ごといただくようにしましょう。LPSは水に溶けやすいので、長く水にさらしたりしないこと。熱に弱いので、できるだけ生で食べるのがおすすめです。加熱する場合も、さっと火を通すくらいにしたほうがLPSの損失が少なくてすみます。
以上の通り、LPSは私たちが日頃から口にしているさまざまな食材に含まれています。これらをまんべんなくとることで、栄養のバランスもかなりよくなります。今後、日々の食事を考える際の参考にしていきましょう。
太りにくい、健康的な食習慣「食べやせ」について、改めて確認しておきましょう。
まず大切なことは、1日3食、欠食しないことです。特に朝食は重要です。朝食をとることで体のリズムが整い、エネルギーが燃えやすい体になります。
何より意識していただきたいのは、いろいろな食材をまんべんなく食べ、さまざまな栄養素をバランスよくとることです。これは、現在、どの国においても重要視されている、健康的な食事の基本中の基本です。
考え方としては、やせたいからといって、糖質や脂質が多い食品を極端に減らそうとせず、食事全体の栄養バランスを考えることです。そして、特定の食品群や栄養素をとろうと考えるのもNGです。同じ食品ばかり続けて食べると食品に偏りが生じ、摂取できる栄養素の種類が少なくなるリスクが上がってしまいます。
1日10品目がとれる「かきくけこ、やまにさち」
そこで、バランスの良い食事の目安として私が提唱しているのが、1日10品目がとれる、「かきくけこ、やまにさち」食事法です。
か→海藻類、き→きのこ類、く→果物類、け→鶏卵(卵)、こ→穀類・いも類、や→野菜、ま→豆類・種実類、に→肉、さ→魚、ち→チーズなど乳製品・牛乳を表しています。
※「かきくけこ、やまにさち」は、森由香子氏の登録商標です。
毎日、このすべての品目がとれる食事を心がけていきましょう。メニューは、主食、主菜、副菜の組み合わせで考えてみてください。
主食は「こ」の穀類・いも類、主菜は「さ」の魚、「に」の肉、「け」の鶏卵、「ま」の豆類で、副菜は「や」の野菜、「か」の海藻類、「き」のきのこ類、「く」の果物類、「ち」のチーズなど乳製品や牛乳などをとりいれ、バランスのとれた食生活を送りましょう。
さまざまな食品をとることで、燃えやすい体になるだけでなく、生活習慣病の予防にもつながります。
さらに、高齢期に問題となるロモコティブシンドローム、サルコペニア、骨粗しょう症などを防止する、たんぱく質、カルシウムなどのミネラルもしっかり補給できます。「かきくけこ、やまにさち」を合言葉に、幅広い食品で幅広い栄養素をたっぷりとって、健康的な60代を迎えましょう。
森 由香子(もり ゆかこ)Yukako Mori
管理栄養士/日本抗加齢医学会指導士
東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科 人間生活科学専攻)修士課程修了。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。日本サルコペニア・フレイル学会会員・日本認知症予防学会会員・日本排尿機能学会会員。抗加齢指導士の立場からは、〈食事からのアンチエイジング〉を提唱している。