恋愛ドラマにおいて恋のライバル役は必須。時に視聴者にストレスを与えてきたその存在が最近では変わってきている?ドラマウォッチャーの神無月ららさんが印象的だった恋のライバルをあげつつ、時代とともに変化していった真相に迫る。
ヒリヒリした恋のライバルは、もうウケない!?
『silent』('22年、フジテレビ系)のヒットで人気が低迷していた恋愛ドラマが復活の兆しを見せている。今期ドラマでも『星降る夜に』(テレビ朝日系)、『100万回 言えばよかった』(TBS系)、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)と恋愛ドラマはラインナップも豊富だが、「ある法則に気づきました」と明かすのはドラマウォッチャーの神無月ららさん。
「恋愛ドラマにおいて当て馬というか恋のライバルは必須ですが、そのライバルの性格が非常に優しい。『星降る夜に』は北村匠海さんが演じる柊一星を思う女子高生(吉柳咲良)がいて、吉高由里子さんが演じる雪宮鈴を思う医師(ディーン・フジオカ)が登場しますが、本命恋人に嫌がらせをするでもなく、ただ純粋に片思いで終わっています。
『100万回~』でも魚住刑事(松山ケンイチ)がヒロイン・相馬悠依(井上真央)に思いを寄せるのですが、魚住刑事派の視聴者もいるほど。昔のように視聴者をイラつかせる存在のライバルが出てこなくなっているように思います」
イライラヒリヒリした恋のライバルは、もうウケない!? 過去のドラマを振り返りながら変遷を見てみよう。
『スチュワーデス物語』 新藤真理子(1983年、TBS系)
'80年代当時、人気アイドルだった堀ちえみ主演で制作され、スチュワーデスを目指す主人公の奮闘と恋愛を2クールにわたって描いた作品。
千秋(堀ちえみ)と教官役・浩(風間杜夫)の恋を邪魔する、浩の婚約者・真理子(片平なぎさ)の登場が毎週話題に。
「スキー事故で婚約者の浩と衝突、両手を複雑骨折で失い、ピアニストの夢を絶たれて怨念の鬼と化した真理子。当然、浩の幸せも新たな恋も許しません。千秋を襲わせたり、妨害工作をやり尽くす真理子に当時は震え上がりましたが、華やかなドレスで現れ、ゆっくり長手袋を外して義手を見せつけるシーンのインパクトはすごかった」(神無月さん)
おうちにある軍手やゴム手袋を口で外して「ヒロシ……」と真理子ごっこで遊んだ視聴者も多かった?
『昼顔』北野乃里子(2014年、フジテレビ系)
主演は上戸彩、相手役に斎藤工を迎えて“不倫の恋”という禁断のテーマに挑んだフジテレビの作品。当時一大ブームを巻き起こし、ドラマ編のラストから始まる映画も作られた、平成末期の恋愛ドラマの代表作。
「本来は不倫する2人が責められるべきなのですが、子づくりに協力的でない紗和(上戸)の夫や、自身も不倫の過去がある乃里子(伊藤歩)は、裕一郎(斉藤)をぞんざいに扱いながらも、不倫を嗅ぎつけるやいなや夫に執着し始めるその描き方がリアルで、“こんな配偶者なら逃れて不倫の恋に走っても致し方ない、応援したい!”と視聴者に思わせた脚本家、井上由美子氏の筆運びは見事」
と、神無月さん。
「“そんなことしたら殺すからね、相手の女”と、乃里子は裕一郎への脅し文句を放ち、紗和には平手打ちをします。嘘の妊娠や駆け落ちした2人を捜し出し、弁護士と双方の親を同伴させて、不倫した際の損害賠償文言の書類も作成する乃里子、全部怖すぎました」(神無月さん)
映画では乃里子の暴走が思わぬ悲劇を生むことに─。最後まで憎まれたライバルだった。
『リコカツ』一ノ瀬純(2021年、TBS系)
2021年のティーバー再生回数歴代1位を記録した、北川景子と永山瑛太主演の夫婦ドラマ『リコカツ』。
紘一(永山)の自衛隊での上司にあたる一ノ瀬純(田辺桃子)がぐいぐいと2人の間に割り込もうとする様は、ネットでも大きな反響を呼んだ。
「純は職場で紘一といる時は良き自衛官然として一線を引き、むしろ男っぽいのですが、咲(北川)に対しては全開で古典的な嫌がらせをしてくる。その二面性にカチンとくる視聴者が多かったと思います」(神無月さん、以下同)
純が紘一に手料理を差し入れると「煮物女」「筑前煮女」というワードがツイッタートレンドにあがるほどの反響が。
「個人的にはキャンプ場で人けのない場所に咲を置き去りにしたのが許せず、自衛官としての正義はどこにあるんだ!と思ってしまいました」
『東京ラブストーリー』関口さとみ(1991年、フジテレビ系)
織田裕二演じる主人公・完治(カンチ)が選んだのは、もうひとりの主人公・リカ(鈴木保奈美)ではなく、学生のころから片思いしていたさとみ(有森也実)。
「さとみは主人公に勝った正にレアケースの恋敵でした。江口洋介演じる三上への思いを諦めた途端にカンチに目を向ける変わり身の早さと、おでんで男の胃袋をつかみにいく旧態依然としたテクニックを持つさとみ。
彼女は攻撃的な女ではなかったですが、奔放な主人公・リカに憧れる当時の女性視聴者からのヘイトを集めるには十分だったんですよね」
『舞いあがれ!』秋月史子(2022年、NHK後期朝ドラ)
現在絶賛放送中の朝ドラ『舞いあがれ!』に89話から登場し、ヒロイン・舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)の仲を急速に進展させるきっかけになった史子(八木莉可子)。
「貴司の短歌に感銘を受け、貴司の孤独を理解できるのは自分だけだと燃え上がり、貴司が経営する古本屋・デラシネに押しかけた史子。自分の短歌を読ませ、店番としてデラシネに居座って貴司以外の人間を周りから排除しようとしました。その行動力と押しの強さは“ミザリー秋月”とネット記事になるほど視聴者を震え上がらせました」
結果的に史子の登場が舞と貴司の背中を押したことで視聴者からの人気も上昇。
「史子をただの“ミザリー”では終わらせなかった展開に、キャラを使い捨てで消費しない脚本家の愛を感じます」
『男女七人秋物語』沖中美樹(1987年、TBS系)
明石家さんま演じる良介と桃子(大竹しのぶ)が結ばれるまでを描いて大ヒットした『男女七人夏物語』の続編。桃子は渡米した後、音信不通となり、関係は自然消滅状態に。
「良介と付き合うことになった美樹(岩崎宏美)は、釣り船会社を経営し、自分で船も操舵するカッコいい女性でした。仕事優先で唐突にアメリカに行き、男連れで帰国、良介を振り回す桃子にはさすがに視聴者からも批判が集まり、私も美樹と結ばれてほしいなと思っていました」
最終的には、船から良介に敬礼し身を引く美樹。去り方の美しさも含めて魅力的な恋敵だった。
『ちむどんどん』大野 愛(2022年、NHK前期朝ドラ)
まだ記憶に新しい、『ちむどんどん』。黒島結菜演じる主人公・暢子と、後に夫となる・和彦(宮沢氷魚)。その和彦の同僚にして婚約者として登場したのが、飯豊まりえ演じる愛だった。
「放送中の8月、ねとらぼ調査隊による『ちむどんどんで好きな出演者は誰?』というアンケートが実施されたのですが、なんと1位は愛でした。ちなみに主人公の暢子は9位、和彦は8位で、全体の6割以上の票を集めた愛はまさにぶっちぎりの1位。これは“物語の中で唯一常識人で、まともな台詞を与えられたのは愛ただひとり”という恐ろしい証しでもあります。日本中から愛されるはずのヒロインに圧勝した恋敵・愛でした」
「最近は、恋敵を“ひとりの個性”としてその背景や人生をきちんと描く作品が増えてきた気がします。昨年大ヒットしたフジテレビの『silent』で夏帆さん演じる奈々には恋敵ではあるものの愛おしい気持ちにさせられました」
恋敵が優しくなっている原因をこう分析する。
「人格をきちんと作り上げたドラマがヒットする。『silent』や『舞いあがれ!』はそんな新しい時代の幕開けの象徴だと思います」