現在放送中のドラマ『罠の戦争』(フジテレビ系)は、主演の草なぎ剛が6年ぶりに地上波ドラマに復帰することで、放送前から話題を集めた。
「スタートしてからも、政治の世界で繰り広げられる“罠”の掛け合いに、手に汗握る視聴者の声が数多く聞こえてきますよ。草なぎさん演じる国会議員秘書が、傷害の被害者となった息子の事件を隠蔽しようとする“大きな力”に対して復讐を果たしていく、というストーリーです」(スポーツ紙記者)
ドラマについて“脚色されている”としながらも、秘書の実態について語ってくれたのは、長年、国会議員秘書を務めた経験のある、政治評論家の有馬晴海氏だ。
現役の自民党議員秘書が明かす“実態”
「昔は議員も多くの私設秘書を雇っていたので、業務をそれなりに分担できたんです。でも、今は議員にお金がないので、公務員である公設秘書3人だけで業務を担っているところも多く、当然そのぶん忙しくなります」
15年以上の経験がある現役の自民党議員秘書・Aさん(50代男性)によると、
「議員のスケジュール管理から政治活動のサポートまで、そもそもの業務の範囲が広いだけでなく、来客対応や陳情などの仕事がさみだれ式に舞い込んできます。なかなかしびれる仕事ですよ(笑)」
しかし、与党に比べて、野党の業務量は大幅に少ないという。10年以上の経験がある現役の野党議員秘書・Bさん(50代男性)いわく、
「与党では終電近くまで働いてる秘書もいるみたいですが、私はだいたい午前9時から午後6時が勤務時間です。やっぱり陳情とか会合の数が与党よりは少なくなるので、会社員の方と同じようなスケジュールで生活できていますよ」
2人の現役秘書が言及した“陳情”は『罠の戦争』でも取り上げられている。杉野遥亮演じる青年は、工場経営者である兄が経営難から議員に陳情を行うも、その後の連絡はナシ。結果的に兄は過労で亡くなり、杉野は恨みを募らせることに。
このとき陳情に応じたのが秘書である草なぎだった。実際は、どのように対応しているのか。
「議員と親しくない人だったり、素性のよくわからない人であれば対応の優先順位は下がります。数多くの陳情が寄せられますし、基本的には“無理なお願い”がほとんど。うちの息子の就職先が全然決まらないんです、って履歴書を持ってくる親御さんもいました」(Aさん)
敵対陣営のアルバイトを味方につける…は実際にある?
国民の声に耳を傾ける気持ちはあっても、すべてを叶えることはやはり無理な話だ。
「議員が何を政治のテーマにしているかで、陳情への対応が変わってきます。これは取り合ってくれないって判断したら、議員に報告しない秘書もいますよ。それに、訪問された日がものすごく忙しい日だったりすると、どうしてもおざなりになってしまうこともあるでしょう」(有馬氏)
ただでさえ忙しい秘書だが、もっとも多忙なのは選挙の時期。議員を当選させるため、票集めに奔走する。
ドラマでは、敵対陣営のアルバイトを味方につけ、相手の弱みを引き出すというシーンもあった。選挙でスパイを用いることはあるのだろうか。
「さすがにアルバイトにスパイをさせるなんてことは聞いたことないですね。かつては議員に命じられて専門的に敵対陣営の粗探しをしていた人もいましたが、今はどこも自分の事務所のことで精いっぱい。昔ほど悪さをする議員もいないし、調べる時間がもったいないんですよ」(有馬氏)
Aさんもスパイの話は知らないとしながらも、“野党のほうがそういうのは激しいのでは”と話す。政権を奪取すべく、野党は謀略を巡らせているのか……。
「相手陣営の決起集会や街頭演説に出向くことはありますよ。でも、それは弱みを探るため、というよりは、戦略を探って勉強する意味合いのほうが強いですね」(Bさん)
対立候補を見て勉強する、とは意外な答えだが、どういうことなのだろう。
「相手のいいところをまねするんですよ。そもそも、ネガティブキャンペーンはあまり効果的ではないんです。アメリカの大統領選みたいに揚げ足の取り合いをしても、日本の有権者には響かない。敵対候補の戦略を学んで、差別化を図るんです」(Bさん)
秘書が「音声を録音」自己防衛する時代
秘書の世界はそんなにバチバチしていない……かと思ったら、“議員対秘書”の構図は確かに存在するという。
「週刊誌に自分が仕える議員のパワハラや不正を告発して、大きな騒動になることはしばしばありますね。秘書が音声を録音して自己防衛するのも当然の時代です」(有馬氏)
音声の録音といえば、代表的だったのは元衆議院議員の豊田真由子氏だろう。秘書に対して激高する様子が週刊誌に報じられたことで、離党に追い込まれた。
ドラマでも、草なぎが週刊誌の記者と組んで証拠をつかみ、敵を追いやるというシーンはたびたび描かれている。
「週刊誌を読むと“この情報は秘書から出てるな”って記事がよくあるんですよね。今は議員に対する忠誠心が昔ほど強くないので、週刊誌へのタレコミは日常茶飯事だと思います」(Aさん)
議員と秘書の関係は、時代とともに変化してきた。
「昔は、仕事がキツくても秘書を可愛がってくれる議員も多かったので、裏切る人は少なかった。でも最近は、悪いことをすればすぐに世間にバレてしまうから、いわゆる“豪腕”な議員も減りました。その結果、秘書との関係もドライになって、かなりサラリーマン化していますね」(有馬氏)
嫌な上司がいれば告発するという会社の図式と、そんなに変わりないというわけだ。
「秘書の仕事を続けていきたいから黙って耐えている人もいますし、私もそのひとり(笑)。でも、議員の弱みはいつも最後の切り札として手元に持ってますよ」(Bさん)
いったいその切り札を切るのはいつなのだろう……。
「議員のなかには、手柄は自分のもの、悪いことは秘書のせい、って思ってる人もいるんです。なにか不正が明るみに出たら“報告がなかった”“秘書が勝手にやった”って平気で言いますから。責任を押しつけられそうになったときのため、駆け引きの道具として議員の弱みを握っておくんです」(Bさん)
具体的な事柄は伏せながらも、議員に対する不満が止まらなかった現役秘書たち。永田町には“戦争”の火種が常に転がっている─。
有馬晴海 政治評論家。ʼ58年長崎県佐世保市生まれ。立教大学経済学部卒業。リクルート社勤務などを経て、国会議員秘書となる。ʼ96年より評論家として独立し、現在はテレビ、新聞、雑誌等での政治評論を中心に講演活動を行う