通訳を介し、30分あまり懇談された両陛下とルーマニア大統領夫妻(3月7日・皇居、宮内庁提供)

 3月7日、皇居の御所にてルーマニア大統領夫妻と面会し、ウクライナの現状について話された天皇、皇后両陛下。

「ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、1年以上が過ぎました。ウクライナと隣接するルーマニアには、開戦から間もないうちに避難民が殺到。約3万人のルーマニア軍の兵士が、ウクライナの軍服を着て第一線の部隊に参加するなど、大きな影響を受けています」(一般紙記者)

大統領夫妻との懇談内容

 ルーマニアのヨハニス大統領から、ウクライナの避難民の生活を支援していると説明を受けた陛下は、

「戦争により多くの人たちが亡くなっていることに、心を痛めています。1日も早く平和が戻ってくることを心から願っています」

 と話されたという。皇室解説者の山下晋司さんは、皇室の方々がウクライナについて言及することの難しさを、こう解説する。

「天皇は憲法で国政に関する権能を有しないと規定されているため、政治的な言動は避ける必要があります。国家間の問題でいえば、加害国、被害国といった位置づけでのご発言も慎まれます。したがって、慎重に言葉を選ぶ必要があり、どうしても抑制的な表現にとどまります」

 30分あまり行われた懇談内容が、すべて公表されるわけではなく、ウクライナの話題にどの程度触れられたのかは定かではないが、

「雅子さまは昨年12月、59歳の誕生日に際し、《平和な世界を作っていくという大きな目標に向かって、皆が相手を尊重しつつ力を合わせていくことの大切さを身に沁みて感じております》と綴られました。ウクライナの戦禍を目の当たりにしているルーマニア大統領夫妻とも、“目標の実現”に向けた話し合いを進められたのではないでしょうか」(皇室ジャーナリスト)

黄色のスーツをお召しになった理由

 国際社会において、両陛下は大きな役割を担われている。

「戦火にさらされた人々のために、率先して行動することはできませんが、世界平和を祈り続けるお姿を国民に示し、1人でも多くの心を動かすことが大切なのです」(同・皇室ジャーナリスト)

 表立った慈善活動や啓発運動はできないものの、今回のご面会ではお召し物に“平和への祈り”を示されていた。

「雅子さまが着用されていたのは、昨年10月に『美ら島おきなわ文化祭』の開会式に出席されたときと同じ黄色いスーツです。ご自身、そして周囲の方々を明るく照らし、鼓舞したいと思われるお気持ちの表れなのでは」

 そう話すのは、歴史文化学研究者で皇室のファッションにも詳しい青木淳子さん。ルーマニア大統領夫人は、ワンピースのウエスト部分に、黄色いベルト状のリボンを締めていたが、これにもメッセージが感じられるという。

雅子さま(宮内庁提供)

「ロシア支配地域では“黄色いリボン運動”が広がっています。ウクライナの国旗に含まれる黄色いリボンをシンボルとし、ロシアに支配された地域の人々に希望を与えるために行われているそうです。

 雅子さまが着用され、大統領夫人がウエストにマークしたのは、平和的な抵抗と反戦を象徴する黄色。心のうちで、世界の安寧を願い続けるという約束を交わされたのかもしれません」(青木さん)

 イエローの装いが、平和の光となることを願いたい。


山下晋司 皇室解説者。23年間の宮内庁勤務の後、出版社役員を経て独立。書籍やテレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている

青木淳子 歴史文化学研究者。学際情報学博士。大東文化大学などで非常勤講師を務め、著書に『近代皇族妃のファッション』ほか