2人に1人ががんになる時代。半分の確率でなるわけだが、できれば「ならないほう」に入りたい。毎日の生活の中で、何をやめて何をすべきなのか。多くのがん患者に接してきた専門医が「今日からぜひまねしてほしい」という対策法を伝授する。今回は、消化器がんを中心に1000例以上の外科手術を行ってきた佐藤典宏先生と、がん専門医であり予防医療を中心としたヘルスコーチとして情報を発信している石黒成治先生に話を聞いた。
「現在の患者数からざっくり計算すると1日およそ2700人ががんの告知を受けていることになります」と話すのは、消化器がんを中心に1000例以上の外科手術を行ってきた佐藤典宏先生だ。
がん対策をしている人は実はわずか
がん患者は年々増加しており、1970年代には1年間にがんと新たに診断される人は約20万人程度だったが、2019年には約100万人にまで膨れ上がっている。
また、がん専門医であり予防医療を中心としたヘルスコーチとして情報を発信している石黒成治先生は、「“がん多死社会”という言葉がささやかれるように、2030年には1年間でがんと新たに診断される人は120万人になると予想されています。高齢化はもちろん、食事や運動不足といった現代社会だからこその要因も大きい」と話す。
いつ自分がなってもおかしくない……がんは非常に身近な病気といえるのだ。にもかかわらず、“予防”を意識している人は少ない。がんメディカルサービスのアンケート調査によると「自分自身がいずれがんになる可能性がある」と考えている人は55・2%と多いが、実際にがん予防を意識して対策を取ったことがあると答えた人はわずか16・2%だった。
とはいえ、がん予防とは何をしたらいいのだろう。
「ポイントは免疫機能の正常化です。がん細胞は健康な人でも1日に5000個も発生して消えていくことがわかっています。
がん細胞ができるとその都度、免疫細胞が退治しているのですが、その機能が不十分だと生き残るがん細胞が出てきます。それが10~20年かけてゆっくりと大きくなり、目に見える形=がんと診断されます。つまり、がんはある日突然なるものではなく、長年にわたって免疫力が十分に機能していなかったことで、がんとなって現れるのです」(石黒先生)
「正常な免疫機能を保つには生活習慣を整えることが不可欠。特に、『喫煙』『飲酒』『肥満』『身体活動量が少ない』『バランスの悪い食事』の5つの生活習慣は、がんを引き起こす重要な要因です。
国立がん研究センターの調査によると、この5つの生活習慣の改善を行っている人は、0または1つ実践する人に比べ、がんになるリスクが半減するという推計が発表されています」(佐藤先生)
では、毎日の生活の中で、何をやめて、何をすべきなのだろうか。佐藤先生と石黒先生の話から重要なポイントを20に絞った。今日からできるがんに負けない身体づくり、ぜひ実践してみて!
がんに良しとされる食材は数あれど、いちばんのキモは腸内環境を整えることだという。便秘がちの人は特に要注意だ。また、食材はもちろん、食べ方にも気をつけるとなお効果的。加えてメンタルケアも行って、全方位からがんを徹底ガード!
免疫力でがんの増殖ストップ『食事&生活習慣』編
「がんは腸内環境の乱れと密接に関係しています。予防の観点で食事を考えるなら、腸活に力点をおくといいでしょう」(佐藤先生)
石黒先生も口をそろえる。
「腸内環境がよくないと、免疫細胞は腸内の状態を改善する仕事で手いっぱいに。他の仕事をする余裕がなくなり、免疫機能の低下につながります。腸内環境を整えることはがん予防の中核ともいえるのです」(石黒先生)
日常的に便秘や下痢を繰り返していないだろうか? おならは臭くないだろうか? イエスであれば要注意。これらは腸内環境が乱れている証拠だ。腸内環境が乱れていると、身体や臓器内で、軽度の炎症が長期にわたり続く慢性炎症が起こりやすく、免疫も働きにくい状態に。すると、がんのリスクも格段にアップしてしまうのだ。
「腸活で大切なことは、腸内細菌を育てること。最近では、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸の重要性が指摘されています」(石黒先生)
短鎖脂肪酸の中でも“酪酸菌”が作る酪酸が特に重要で、大腸内にがんが発生したとしても、酪酸が十分であれば、がんを抑制してくれるという。さらに酪酸菌は、全身の免疫機能もサポートしていて、まさに健康の要ともいえる存在。では酪酸菌を増やすには何を食べたらいい?
「酪酸菌は食物繊維やオリゴ糖をエサにして増殖します。なので、野菜や果物をたくさん食べるようにしましょう。日本人はもともと食物繊維を多くとる民族なのですが、近年は、日本人の野菜摂取量は右肩下がりで減っています。意識的に食べるようにして、十分な量をとってほしいですね」(石黒先生)
さらに、加工食品は、すべてにおいて控えるべきだ。
「調理パンや袋入りのスナック、甘いデザート、清涼飲料水、カップ麺、レトルト食品や冷凍食品……これらを日常的に食べ続けると、生活習慣病やがんのリスクが増えるという報告が次々と報告されています。
加工食品は便利ですが添加物も多いため、新鮮な食材を買って、自分で調理することが大切だといえます」(佐藤先生)
目指すべき食事の内容はよくわかった。さらに取り入れてほしいのが、“食べ方”。
だらだら食べに注意!腸に負担をかけない
「腸を休める時間を長くとってほしいんです。食べ物がひっきりなしに入ってくると、腸は働き続け、免疫細胞も食べ物に目を向けなくてはいけなくなります。でも免疫細胞の仕事は感染症の防御やがんの発見などもあるので、食べない時間を設けて他の仕事をしやすくしてあげましょう」(石黒先生)
「おすすめは夕食から朝食までの時間を13時間以上あけること。夕食から朝食までの時間が平均11時間のグループと、平均13時間のグループでは、がんによる死亡リスクが2・3倍になったという研究もあります。
また食べる時間も、毎日一定にするといいでしょう。食事の時間がバラバラな人は、がんの死亡リスクが上がるというデータもあるからです」(佐藤先生)
“楽観的な人のほうが長生きする”なんて話を聞いたことはないだろうか。実はがんにおいても、ストレスケアは重要だそう。
ウソでもにっこり!1日1回は笑顔を
「ストレスを感じるとアドレナリンやコルチゾールといったホルモンが出るのですが、これらが免疫力を低下させ、がんの成長や進行を促すという実験結果が。逆に気持ちがいい、楽しいと感じるときには、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの免疫細胞が活性化することもわかっています。日常生活では極力楽しいことを考えるようにするといいですね」(佐藤先生)
「笑うとNK細胞が増えるというデータもあるので、お笑い番組などを見るのもおすすめ。また脳は、笑うときに動く筋肉を使うと“楽しいんだ”と思い込む特徴があるので、笑顔でいるだけでも、がん予防につながると思います」(石黒先生)
あとは規則正しい生活と、十分な睡眠をとることもお忘れなく。十分な睡眠は、免疫機能を向上させ、慢性炎症やストレスを抑える効果もアップする。決まった時間に寝て、7~8時間は睡眠を確保しよう。日々身体に摂取する一つひとつががんに打ち勝つ力になるのだ。最強免疫力を手に入れるべく、できることから取り入れてみてほしい。
(1)腸活を意識し、特に酪酸菌を増やす!
食事をするときは“腸内環境を整えること”を考えて。中でも腸内細菌が作る酪酸を増やすために、野菜や果物をたくさん食べよう。
(2)“カラフル”を意識して食材をチョイス
腸内にすむ腸内細菌は、1種類ではなく、複数種が混在している。それぞれの菌にエサを与えるには、いろいろな食品を食べることが大事。トマトやニンジンの赤、ショウガやパプリカの黄色、ナスの紫など、“いろんな色の食材を食べる”ことを意識して。
(3)カット野菜やカットフルーツはNG
市販のカットサラダやカットフルーツは、表面を殺菌したり、発色剤を使用している場合も。それによって、本来含むビタミン類も減少している。これは、コンビニのサラダも同じこと。丸ごとの野菜や果物を買っていただこう。
(4)ハム、ベーコンなどの加工肉は避ける!
国立がん研究センターの研究でも、加工肉の摂取量が多くなるほど、大腸がんのリスクが高くなる傾向が認められている。加工肉に含まれる添加物はほかにも糖尿病や心臓・血管の病気の原因にもなり、がんなどのリスクに直結。日常的に食べるのは避けて。
(5)タンパク質を十分にとる
タンパク質不足は、筋肉量の減少や免疫機能の低下につながる。がん退治には筋肉が必要なこともあるので、十分な量を食べてほしい。1日80~90gの摂取を。
(6)人工甘味料をとるなら砂糖のほうがまし
シュガーレスや糖質オフといった食品・飲料水に含まれる人工甘味料は、ヘルシーなイメージだが、実は体重増加や、腸内細菌を乱し、がん発生リスクを上げてしまう可能性が大。甘味を楽しみたいなら、普通の砂糖がベター。
(7)夕食から朝食は13時間あける
免疫力を高め、慢性炎症を抑えるために、できるだけ長く絶食時間を保ちたい。夕食から朝食までは、最低でも13時間は確保しよう。肥満や糖尿病の予防にも効果的だ。
(8)毎日同じ時間に食事をする
食事時間が毎日ほぼ同じグループに比べ1時間ほど変動するグループでは、がんの死亡リスクが2.2倍だったという研究結果が。同じ時間に食べるようにして、規則正しい生活を心がけて。
(9)食事は“ベジタブルファースト”で
空腹時に糖質を一気にとると血糖値が上昇して、慢性炎症を起こしやすくなる。食事の際は、最初に野菜を食べるようにして。食物繊維が糖の吸収を抑えて、血糖値の急上昇を防いでくれる。
(10)ストレスはこまめに解消
ストレスを感じたら心地よいと思える時間を多く持つようにして。誰かとおしゃべりしたり、映画を見たり、旅行に行ったり。心が落ち着くヨガや瞑想もおすすめ。
(11)笑顔を心がけ、笑うことを意識して
笑うことで心理的ストレスが減少し、免疫力もアップする。楽しく歌ったり、お笑い番組などハッピーな気持ちになるものをたくさん取り入れて。笑顔の表情をつくるだけでも効果あり。
(12)睡眠時間は十分にとる
理想は7~8時間。夜更かしや睡眠不足が続くと、免疫の働きが低下し、体内時計が崩れればがんを抑える作用があるメラトニンというホルモンの分泌も低下してしまう。
(13)緑のシャワーを浴びよう
ある研究によると、森林浴をすると森林から放出されるフィトンチッドという物質のリラックス効果で、NK細胞の活性が高まるとされている。天気の良い日は自然の中に出かけて、森林浴を。
佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師、外来医長。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術を行い、日本消化器外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。『がんに負けないたった3つの筋トレ』(マキノ出版)など著書多数。
石黒成治先生●消化器外科医。予防医療を行うヘルスコーチとして腸内環境の改善法、薬に頼らない健康法などの情報を発信している。『医師がすすめる太らず病気にならない毎日ルーティン』(KADOKAWA)など著書多数。
(取材・文/樫野早苗)