「これがうちの電力メータ。もう電気が通っていないので、電線もバッサリ切られてます」
10年前に東京電力を完全解除
そう語るのは、東京都内で電気代0円生活を実践しているフジイチカコさん。なんと10年もの間、自家発電だけで自宅の電気をまかなっている。
この生活を始めたきっかけは、東日本大震災での計画停電の経験だった。
「災害や事故の被害がなくても、電力会社の都合で突然、電気を切られることがあると知ってショックを受けたんです。以来、日頃から電気を蓄えておこうと思うようになりました」(フジイさん、以下同)
フジイさんが主に使う発電器具は、小型のソーラーパネル複数枚。エコ建築に詳しい知人から業者を紹介してもらい、ベランダに設置したのが始まりだった。
「小さなパネルでも、効率良く太陽光が当たれば十分な電気が作れます。かさばらないサイズだから、風通しも遮らないのがうれしいところ。
団地のベランダに置くのにぴったりです。天候の様子を見ながら、いくつか種類を使い分けています」
雨の日などは発電量が低下するので、エアロバイクにモーターを付けた人力発電機もサポートで使う。
こうして生み出した電気をバッテリーに蓄電しながら、日々の電気をやりくり中。
「冷蔵庫やエアコンがない生活も慣れました。電気がなくてもなんとか生きていけるし、ちょっとした電気なら自分で作れてしまう。その安心感はとても大きいです。停電したとしてもわが家は関係ありませんから(笑)」
アイデアいっぱいの“自給自足”な電気代0円生活。日頃の節電だけでなく、災害などの“いざ”というときにもお役立ちだ。
太陽熱で作るホカホカご飯
フジイさんのは、自宅の蓄電器にためている電気のみ。
日頃から、自分で生み出せる量を超える電気は一切使わない。そのため、テレビなどといった生活になくても困らない家電は基本的に処分した。
加えてエアコン、ホットカーペット、電気ストーブなどの暖房家電も、電気の消費量が大きいのですべて手放したというから驚きだ!
「照明器具も、今使っているのはすべて省エネなLED。蓄電器からチャージして使えるよう、家電も充電して使えるものがほとんどです。
あとは使い勝手のいいキャンプグッズや災害用ランタンなどを普段から使っています。ちなみに電池もすべて『充電池』。繰り返し使えて汎用性も高いです」
省電力を徹底したうえで、電気を使わず済むところは他の手段で間に合わせる。なかでもよく使っているのは「ソーラークッカー」。太陽光を反射板で受けて1か所に集め、その熱を利用して料理を作る仕組みだ。
「例えば、キャンプ用の飯ごうの中にお米を入れ、その飯ごうをステンレスボウルの中に入れて、熱が逃げないようにガラスの蓋でカバーします。これにお日さまの光を集めて加熱するんです。
ステンレスボウルがない場合には、銀色のレジャーシートで三角のコーナーを作っておき、金属の底上げ網の上に飯ごうを置いておけば熱が集まりやすい。晴天時には2~3時間ほどで、炊飯器さながらにホカホカのご飯が炊けますよ」
他にも、黒く塗ったペットボトルに水を入れて日当たりの良い場所に転がしておくだけで、40度くらいのお湯が作れる。これで冬でも給湯代が節約できるという。
また、暖房代がかさむ冬場には、なるべく温度を逃がさない工夫をしている。
「寒かったら重ね着がキホン。加えて、冬場は窓から熱エネルギーが逃げやすいので、窓に断熱や保温できるものを設置しておきます。結露防止の窓フィルムや梱包用の緩衝材を張るだけでも効果アリ。
わが家では、アルミのレジャーシートやキルトの布地にカーテンクリップをつけてカーテン代わりにしています。暖かいだけでなく、窓も結露しにくくなりました」
ガスも要領よく使って節約を徹底。
「わが家は電気代はゼロでも、お風呂の給湯と暖房、台所のコンロは都市ガス。昨年からガス料金が高くなって家計にも響くので、使用量には気をつけています」
お風呂も基本的にシャワーのみ。冬場は身体が冷えるのを防ぐため、日中の暖かいうちに短時間で済ませている。
料理のときは「鍋の二段活用」。汁物を鍋で温めるとき、鍋の上にステンレスの平ざるを重ね、その上に別のものを乗せて一度に両方を温めてしまうというテクニックだ。
「同じ要領で、お湯を沸かすヤカンの蓋を開けた上にざるなどを置いて同時に蒸し器として使うのもおすすめ。かたくなったパンなどをちょっと温めるには便利です」
自分で生み出した電力は愛おしいから、大切に使いたくて……とニッコリ。エコライフにハマりすぎて、もはや不便とも感じないという。
すぐにまねできる電気代削減テク
ぜひわが家にも今すぐソーラーパネルを導入して電気代節約……なんて考えても、実際のところ、なかなか難しい。
ただ、フジイさんの生活を見渡してみると、私たちが今の暮らしの中で見直せる節電ポイントが多くあることは間違いない。
「節約やエコの情報はたくさんあるので、まずは自分の好みに合うものや、気負わずラクにできそうなことからやってみるのがいいと思います。私も楽しいからこそ長続きしているんです」
イチ押しなのが、就寝時間を1時間早め、夜間の電気使用を減らすこと。また冷蔵庫の温度設定を「中」や「弱」に見直すことも、おすすめ。
同時に冷蔵庫内はスカスカ、冷凍庫内はギッシリ詰めるようにすると、より消費電力が抑えられるという。
「洗濯機は、すすぎや脱水を最低限にすれば、節電と節水が同時にかないますよ。洗剤は、『すすぎ1回』や『すすぎ0回』のものを使っていますし、脱水をかけなくてもすぐに乾く麻のシーツなどを使うようにしています。
タオルも、バスタオルは乾きにくいので軽くて乾きやすいフェイスタオルだけにしています」
暑い季節の対策としては、エアコンの室外機の通気口の周りに打ち水をしたり、室外機の風で濡れた洗濯物を乾かすようにする。水が蒸発とともに温度を下げる「気化熱」でベランダのヒートアップを緩和できるという。
「わが家はエアコンなしなのですが、サーキュレーターを回して部屋の空気を循環させたり、自然現象をうまく利用することでも温度管理ができます。電気代も抑えられるのでぜひ試してみてください」
この暮らしを始めてから、自分の周りには多くのエネルギーがあることに気づかされたと話すフジイさん。身近に使えるエネルギーはいっぱいあるのに、今の日本は電気や燃料を使いすぎていて、しかも、その多くは海外頼りだ。
発電にもお金がかかるし、ロスも多い。「もっと『エネルギーの地産地消』ができたら、お財布にも地球にも優しい生活ができますよね」
4月からはさらに値上がりが予定されている電気代だが、フジイさんには影響なし。正直言って、かなり羨ましい……!
驚愕エコ生活テクニック!
フジイさんが実践する驚愕の電気代0円生活の実態!
1. ベランダの太陽光発電で電気代0円
フジイさん宅では、100Wのパネル1枚と、40Wのパネル1枚を常設。大きさは、100Wパネルで53cm×104cm程度。
その他にも、折りたたみ式のパネルで80~60Wのものを天気によって足したりして調節。トータルで1時間に140~200Wほどの電力を生み出せるという。
他にも、アウトドア用のソーラーランタンや、ポータブル式のソーラーパネルもまとめて日中外に出しておいて電気をためている。
梅雨時は太陽光の量が減るため、エアロバイクを改造した人力発電機を併用。「ただ、疲れるのでメイン使いは厳しい。
あくまでソーラーパネルのサポートで利用します。雨が何日も続いたときは、泣く泣く洗濯機を回すのをガマンですね」
2.「ソーラークッカー」で電気・ガス代0円調理
太陽光を効率良く一点に集めて温度を上げるのが失敗しないコツ。
料理を入れる飯ごうも、熱を吸収しやすい黒いものを選ぶのがポイントだ。加熱中の飯ごうをガラスボウルなどの透明なもので覆っておくと、風などで熱が下がるのを防げるという。
「ご飯から温野菜、ケーキまで作れます。太陽熱だとふっくらできあがるんです」
3. なんちゃって二重窓で窓断熱!
冬場は、南側のベランダの大きな窓に、梱包用の緩衝材やプラスチックの段ボールなどを張って保温効果を狙う。
「うちでは最近、ダイソーで550円だったアルミレジャーシートをカーテンとして愛用。パリッと硬い素材感で、すぐボロボロにならないのもうれしい。窓の断熱になるのはもちろん、折りたためばソーラークッカーにも使えて一石二鳥です」
他にはキルトの布地も保温性が高くカーテンにうってつけだ。100均などで買える「カーテンクリップ」をつけておくと、寒暖差が激しいときにも付け外しがラク。
4. 鍋料理は「二段活用」でエネルギーを使いまわし
汁物を温めている鍋の上に平ざるを置き、沸騰した蒸気で他のおかずやご飯などを一緒に温める。
他には、火にかける時間を短くして、キルトの布地で鍋をすっぽり包むと、余熱で保温調理もできるという。
「例えば、にんじんなどの根菜を入れて、5分ぐらい沸騰させてからコンロから下ろし、厚手のキルトで覆って保温。20分ぐらい置くと、中の具材にゆっくり火が通ってやわらかくなります」
5. 小電力家電で徹底省エネ!
愛用しているのがスティック掃除機。充電式で、消費電力も少ない。他にも、車載用のミニ冷蔵庫はアウトドアに特化していて、充電池がついているためソーラーパネルから充電可能。
「アウトドアグッズや災害用品は電気がなくても使える便利なものが多いので、家電と組み合わせて普段使いしてます。『家の中でキャンプしてるみたい』とよく言われますね(笑)」
(取材・文/オフィス三銃士)