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 2人に1人ががんになる時代。半分の確率でなるわけだが、できれば「ならないほう」に入りたい。毎日の生活の中で、何をやめて何をすべきなのか。多くのがん患者に接してきた専門医が「今日からぜひまねしてほしい」という対策法を伝授する。

 今回は、消化器がんを中心に1000例以上の外科手術を行ってきた佐藤典宏先生と、がん専門医であり予防医療を中心としたヘルスコーチとして情報を発信している石黒成治先生に話を聞いた。

運動でがんリスクが減る3つのワケ

「がん細胞の増殖を抑えるのに運動は欠かせない要素。がんになった患者さんにも、治療効果を高めるためや再発防止のために、運動をすすめています」(佐藤先生)

 なぜ運動がいいのか。メリットとしては大きく3つあげられる。1つは運動をすると筋肉からマイオカインという物質が分泌されること。

「“天然の抗がん剤”とも呼ばれ、がん細胞の増殖を抑える効果やがんに対する免疫細胞の攻撃力を高める作用が期待できるもの。それだけでなく、脳細胞の活性化や肌老化の改善の可能性も高いことから、若返りホルモンといわれることもあります」(佐藤先生)

 2つ目は、がん発生の一因となる身体の慢性炎症を抑える点。

「筋トレなどをするとインターロイキン6という物質などが分泌され、全身の炎症を抑えてくれます。筋トレを行うことで慢性炎症を抑えられれば、がんを予防できるのです」(佐藤先生) 

 3つ目は、リンパ液の流れが良くなること。

「リンパ管にはポンプ機能がないので、筋肉を収縮させることで、ギュッとリンパ液を心臓のほうへ押し戻すことができます。リンパ液の循環がよくなると、その中に多数存在する免疫細胞が身体中を巡ります。くまなくパトロールするようになり、異常な細胞がより見つかりやすくなるんです」(石黒先生)

「免疫細胞が増えれば、その中のNK細胞も増加します。NK細胞は、がん細胞やウィルスを見つけたら直ちに攻撃してくれる殺傷能力の高い免疫細胞で、がんに集まりがん細胞を一斉に攻撃するという特徴も。免疫部隊の要ともいえる存在です」(佐藤先生)

疲れるほどは逆効果軽めで十分!

 まさにメリットだらけともいえる運動。これは張り切ってやるしかない!と意気込みたくなるところだが、「身体が疲れ、筋肉痛になるほどやると体内で活性酸素が発生してしまい、かえって病気や老化の原因に。免疫機能も下がってしまいます。運動するときは“疲れない程度に毎日やる”のがポイント」と石黒先生。

 加えて、運動のタイミングとしては朝の空腹時がおすすめだそう。

「私も、朝起きてすぐのトレーニングを習慣としています。理由は成長ホルモンが効果的に分泌されるからです。成長ホルモンは骨や筋肉量の維持のサポートやさまざまな病気の予防にもつながるものですが、大人になると分泌量は大幅にダウン。でも、空腹時や運動時は分泌量が多くなるので、起き抜けの空腹時に運動すると効率よく分泌を促せるのです」(石黒先生)

 どのくらい運動したらいいのかというと、石黒先生は「トータル2分から」と話す。

「全身の大きな筋肉を使う全身トレーニングが理想で、最初は3種類の筋トレをやるといいでしょう。『全力で30秒やって、15秒休む』を繰り返してトータル2分。慣れてきたらほかの筋トレをプラスするなど、アレンジを」

 佐藤先生は「運動が負担に感じる人なら、日常生活の中で、ちょっとキツい動作を心がけるのも手」と言う。

「日常生活の中で行う1~2分程度の激しい動きを“ヴィルパ”といい、1日にヴィルパがまったくない人に比べて、1日に3回ヴィルパがあった人は、30~40%もがんの死亡リスクが低下したという観察研究が発表されました。

 私も日常の中での運動を意識していますが、バスに乗り遅れそうになって速足で追いかける、ペットとの散歩で速足をする、階段を駆け上がる、ちょっとキツい掃除をするという程度のものでいいのです。これなら意識すればできるのではないでしょうか」

 また注意したいのが、長時間の座りっぱなし。

「仕事やテレビを見るなどで、座ったままの時間が長い人は要注意。がんのリスクが上昇する傾向にあります。運動不足やメタボになりやすく、それにより、がんの一因である慢性炎症を引き起こすためです。スクワットをしながらテレビを見るとか、デスクワーク中は1時間ごとにストレッチをするなど、座る時間を減らすよう心がけましょう」(佐藤先生)

(1)朝起きてすぐに運動をする

 朝は空腹時と運動時に出る成長ホルモンの分泌を促すベストタイミング。「朝起きたらすぐに運動」と決めておけば、習慣化しやすくなるため、挫折防止にもなる。

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(2)胸筋と腹筋を鍛える

 女性がなるがんの1位は乳がん、死亡の1位は大腸がん。胸や腹部の筋肉を鍛えて、リンパの流れをよくしておこう。胸筋を使う腕立て伏せや、腹筋を鍛えるレッグレイズ(あおむけになり両脚を90度持ち上げ、床すれすれまで下ろす動作を繰り返す)がおすすめ。

(3)日常生活の中で息が上がる動きを3回する

 階段があったら速足で上る、バス停ひとつ分歩く、少し重い買い物袋を運ぶといった、日常の中の“ちょっとシンドイ行動”を積極的にとる。時間は1回1~2分で十分。1日3回できたらベスト!

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(4)座りっぱなしは避ける

 筋肉量が低下して、がんのリスク上昇につながるので、座りっぱなしの時間を極力減らそう。テレビを見るときはエクササイズをしたり、リモートワーク時は時々立ち上がって伸びをするなど、ひと工夫を心がけて。

(5)こまめに身体を動かす

 身体を動かす習慣がないと、加齢によってどんどん太りやすくなる。肥満とがんは一見関係がないようだが、肥満は慢性炎症を引き起こしやすくなるため、がんのリスクに直結する。こまめに身体を動かし、筋トレを続けて、太りにくい身体づくりを。

(6)激しくないレベルの運動を日々続ける

 筋肉痛や翌日まで疲れが残るような運動量は、かえって免疫力ダウンにつながる。大切なのは毎日続けることなので、負担にならないレベルの運動量でOK。慣れてきたら徐々に増やしていって。

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(7)動きを組み合わせた運動をする

 石黒先生のおすすめは、スクワットを30秒→15秒休憩→壁に手をついてやる腕立て伏せを30秒→15秒休憩→その場で全力ダッシュを30秒のトータル2分。慣れてきたら、レッグレイズなど違う筋トレをプラスして、負荷を上げていって。大きな筋肉を動かすことで効率的に筋力アップができる。

教えてくれたのは……

佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師、外来医長。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術を行い、日本消化器外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。『がんに負けないたった3つの筋トレ』(マキノ出版)など著書多数。

石黒成治先生●消化器外科医。予防医療を行うヘルスコーチとして腸内環境の改善法、薬に頼らない健康法などの情報を発信している。『医師がすすめる太らず病気にならない毎日ルーティン』(KADOKAWA)など著書多数。

(取材・文/樫野早苗)