テレビ、YouTube、CM業界などの放送作家として、数々のコンテンツを作り出してきた澤井直人(32)。今、ほかの誰よりも「人間」に興味がある平成生まれの彼が、「話を聞きたい!」と思う有名人と対談する、好奇心と勢いだらけのインタビュー企画『令和にんげん対談』!
第8回は読売ジャイアンツの元ピッチャーとして活躍し、現在はコメンテーターなどを中心にタレント活動を続ける宮本和知さんが登場! 盛り上がりを見せるWBCで、日本代表が優勝する可能性に言及しつつ、話題はメディアとの向き合い方に。
これまで「ズームイン!!サタデー」をはじめ、熱血キャラでテレビ出演を続けてきた宮本さんですが、その裏には視聴者層を意識した冷静なスタンスが。元アスリートとは思えない立ち回りに、思わず澤井も「勉強になります!」と惹き込まれ……。還暦を控えなお、精力的に活動する宮本の熱い想いをお届けします。
澤井直人(以下、澤井):今日はお忙しい中、ありがとうございます。それにしても今回のWBCは豪華なメンバーが集まりましたね。
宮本和知(以下、宮本):いちばんノリノリの大谷(翔平)やダルビッシュ(有)が来てくれるのは、やはり栗山(英樹)監督のおかげでしょうね。それ以外の代表選手の面々を見ても、本当に今年はレベルの高いメンバーが集まってくれたなと。
海外の豪快な野球の「隙をつく」
澤井:やはり大谷選手が参加されることは大きいですか?
宮本:もちろんですよ! 大谷はいま世界で1番話題性のある選手じゃないですか。本当にアニメの世界にいるんじゃないかと思うほど、いまだかつて二刀流であそこまで活躍した選手はいなかったですから。
澤井:宮本さん個人的に気になっている選手はいますか?
宮本:自分が元ピッチャーということもありますけど、(佐々木)朗希はすごいよね。だって21歳で165キロ出すんだよ。本当笑っちゃいますよ。ピッチャーはだんだん実践を積んで実力をつけていく中で、あんな若くして豪速球が投げれるピッチャーはそういないですよね。
澤井:WBCでは球数制限がある中で、宮本さんが日本代表の監督ならどのような作戦を立てますか?
宮本:極論、ピッチャーの役割ってアウトを取ることなんですよ。それが三振だろうと内野ゴロだろうと1アウトは1アウト。そう考えると、三振を取るためには最低3球が必要ですが、打たせて取るなら1球でもできる。球数制限を抜きにしても、WBCのような短期決戦なら打たせる方が効率的だと思いますね。
だから個人的には、必ずしも佐々木のような空振りさせる速球じゃなくてもいいと思うんです。いまだとトラックマン(ボールの速度などを測る弾道測定機器)で回転数を調べると、だいたいプロ野球選手の平均は1分間で約2200回転と言われているんです。いわゆるキレが良いと言われる球はだいたい2400回転以上かな。
一方で2000回転を下回ると、勢いがないゆえにキャッチャーの手前でストっと落ちるんですよ。そうするとゴロやフライに誘いやすい。回転数が低いのは格好悪い球と思われがちですが、逆に戦いやすくなる側面もあると思います。
澤井:なるほど。どうしても素人からすると、速く回転数の高い球が良いのだろうと思ってました……(笑)
宮本:まあでも、正直しょぼいボールで内野ゴロばっか取ってもねえ……という側面もあるし(笑)。もちろん速球で三振を連発するに越したことはないですが、堅実にいった方が試合は有利に進められるのではと思っています。
澤井:攻撃面(打者について)はどうですか?
宮本:打線も地道に送りバントやクイックモーションなどで、細かくつなぐ日本らしい野球がいいと思います。やはり国別対抗戦だと、その国の野球の持ち味っていうのが非常に強く活きてくるんですよ。逆にアメリカとかキューバは豪快ですよね。その隙を突いていけば、日本の決勝進出は硬いんじゃないかなと。そういった意味で周東(佑京)選手は、同点や1点ビハインドの場面でキーになる選手だと思っています。
もちろん大谷の大きい1発は期待していますよ(笑)。ファンも熱狂するでしょうし。ただ他の選手もその流れに影響されずに、大舞台だからといって変に力まないで欲しいですね。
澤井:かつて世界一を獲った宮本さん(ロサンゼルスオリンピック時に代表選手の一員として金メダルに貢献)が語ると説得力があります!
宮本:いやいや(笑)。でも僕らが現役の時と比べると、今の令和の日本代表の雰囲気はかなり良いと思いますよ。
澤井:どういうことでしょうか?
宮本:例えばダルビッシュなどのベテランの先輩から後輩に歩み寄っていく光景って、僕らの世代ではなかったんですよ。むしろまったく逆で、王さんや長嶋さんなどの先輩選手にどこか話しかけちゃいけない空気感があった。あ、別に王さんや長嶋さんが怖いという意味ではないですよ(笑)。縦社会みたいな価値観が根付いていたんです。
だからこそWBCのように、海外組が合流して一緒に戦う機会は本当に貴重ですし、後輩も素直な選手が多いのでね。ダルビッシュは現在36歳にもかかわらず、つい先日に6年契約を更新したばかり。こうした息の長い選手が日本の選手にも知見を与えてくれることで、日本の野球界も活性化する。今の日本代表は団結力の強いチームだと思いますよ。
情報番組で意識していたこと
澤井:たしかに良い意味で穏やかになっていくというか。時代の価値観が変化していますよね。
宮本:ファンとの距離感も今の選手の方がフランクですよね。現役時代の王さんとか長嶋さんは雲の上のような存在で、ファンと交流するようなことも滅多になかった。別に大谷もダルビッシュも手が届かないような選手なんですけど、どこか距離感が近い。これも時代だなと感じますね。
澤井:宮本さんは、現役引退後にタレントやコメンテーターの仕事でメディアに露出されていたじゃないですか。そう言う意味では親近感が湧きます! 引退後に表向きの仕事を選んだきっかけはなんだったんですか?
宮本:当時はジャイアンツで現役を終えたら、旅番組やクイズ番組などのバラエティーに出てた人も多かったんですよ。自然と次のステップが用意されていたというか。というのも、昔は今より選手生命も短かったし、現役時代の給料だけで生涯暮らすのは難しかったんですよ。
だから最近、36歳のダルビッシュが契約を6年延長したのにびっくりして。しかも年俸20億円ほどでしょ! 本当もう夢のような話、まさにアメリカンドリームですよ(笑)。佐々木大魔神も言ってましたね。やっぱメジャーに行くことで一生分稼げると。僕らの時代はメジャーに行く人もいなかったですからね。だからこそ今でも地道に頑張らせてもらってますよ(笑)
澤井:めっちゃ現実的な話ですね(笑)。やはり宮本さんといえば『ズムサタ』のイメージが強く、僕も小学生の頃など見てました。情報番組に出演するうえでのスタンスはありましたか?
宮本:結構バラエティやエンタメに寄せた感じで、堅苦しくない方向性にしようとは心がけてましたね。
澤井:意外ですね。どちらかというと専門的な知識で解説しているようなイメージもありましたが。
宮本:僕も当初はそういう感じで試合の解説を詳細にしようかなと思ったんですけど、冷静に考えたら放送枠が土曜日の朝早い時間じゃないですか。そうすると観ている方々は、平日の仕事で疲れたサラリーマンとか、これから遊びに出かける子供なんですよ。どちらかと言うとコアなファンよりライトな層が多い。
そこで専門的な内容をぐちぐち解説してもなんか重いじゃないですか(笑)。自分だったら『なんで休日の早朝から眉間に皺寄せて、ほうほうって小難しい解説を聞かなきゃいけないんだ』って思ったんですよ(笑)
澤井:視聴者層を意識されたんですね。
宮本:マニアックな内容は深夜にやればいいんですよ。それこそ野球好きのおっさんが仕事終わりに酒飲みながら観るみたいな感じでね。もちろんズムサタでも前日の試合結果を伝えていましたが、そこまで詳しい解説はやらなかった。家族で観ててもちょうど良い温度感にするには、『野球選手の好物は何か』とか、『休日には何をしているのか』など、プライベートなことを聞くのがいいんですよ。
澤井:めっちゃ勉強になります! たしかに巨人の選手に取材するコーナーでは、結構やわらかい会話が多かった印象があります。
「女子野球の人口は増加中」
宮本:多かったどころか、21年間で巨人の選手とはほぼ野球の話題はしていないんですよ(笑)。坂本勇人は「おでんの具なら何が好き」とか、岡本和真は「何味のラーメンが好き」かとかを聞いたり。そこから親子の会話が弾んでくれたらと思ってました。
澤井:子どもたちは、そうした話題の方が気になる子も多いですよね。
宮本:あと僕が情報発信者として意識していたのは、テレビを観て外に出かけて欲しいということ。例えば、テレビで巨人の選手に取材して、それを観た親子が球場に足を運んでくれたらこの上なく嬉しいですよね。経済も回るし良いことづくめ。これから少年野球の練習に行く子供が気持ちよく出かけてくれたらなと思い、明るくポジティブな気持ちにさせようと心がけていました。
澤井:僕が小さいころの2000年頃は、ゴールデンの時間帯で巨人戦の中継が当たり前のように放映されてたんですけど、それがいつしか少なくなっちゃって……。結構さみしい気持ちもあるんですけど、宮本さんはどう思いますか?
宮本:たしかに今は、ジャイアンツでも地上波でやるのが年間20試合ぐらいだよね。でもそれは仕方ないことというか、時代の問題だと割り切ってる。もうテレビ以外でもYouTubeとかサブスクで好きなものがいくらでも観れる世の中だから。そういった意味では野球に限らず、視聴率を確保するのも難しい時代ですよね。
澤井:そういう意味では野球を扱ったYouTubeチャンネルも増えましたよね。
宮本:そうですね。それはもちろん良い事なんだけど、その専門チャンネルにどう子供たちを持っていくかが重要だと思うんですよ。
澤井:ですよね。いまは男子の野球人口って減っているとも聞きますし。
宮本:そう。まあそれはひとえに少子化が進んでいるのも一因だけど、それだけじゃないんだよね。例えば、バットやグローブを揃えるのに初期投資がかかるとか、あとせっかく野球を始めたんだけど監督が怖くて嫌になっちゃうとか、周りに野球をやっている子が少ないから自然と離れてしまうとか。
澤井:結構、複雑ですね。僕らの頃は校庭とかで当たり前のように野球をやっていましたけど、今の子供はまた環境が違うから難しいですよね。
宮本:まあでも悲観しているわけじゃないんですよ。現に女子野球の人口が増え続けているのってご存知ですか?
澤井:え、そうなんですか!? 男子は減っているのに?
宮本:3月の終わりから高校生の女子のセンバツが始まるんですけど、近年で出場チームは増えているんですよ。去年が過去最多の38校、今年はそれを超える45校がが出場します。しかも春は1年生が入ってきていないので、夏のセンバツになるともっと増えてくる。いま女子野球はアツいんですよ。
澤井:知らなかったです! しかも宮本さんは去年『読売ジャイアンツ女子チーム』を立ち上げられて、初代監督を務めていらっしゃるんですよね?
宮本:そうなんです。男女かかわらず野球の競技人口を増やそうと、女子の力を借りてなんとかしようと一念発起しました!
澤井:どのように増やしていく狙いなんですか?
宮本:さっきも野球離れの理由として、監督が怖いということを言ったじゃないですか。いまだに少年野球チームの試合を見ていると、男性で高圧的な態度の監督を見かけるんですよね。椅子にふんぞり返って、子供がミスすると『オラぁー!』って感じで叱る監督が……。おいおい辞めてくれよと(苦笑)。
そこで一度、妻に自分の野球の知識を伝えて、『(宮本が運営を務める)少年野球の指導を手伝ってくれないか』とお願いしたんです。そしたら『ボールを捕るときはグローブを鰐さんの口のようにして~』など優しく指導してくれて好評だったんですよ。今では娘も指導を手伝ってくれています。
同じように女子の野球経験者を増やし、最終的に少年野球チームの指導者として面倒を見てくれたら、野球界全体の人口底上げに直結すると感じたんです。個人的に小学校3年生の低学年までは、僕は女性の指導者が見るべきだなと。その第一歩として、女子野球チームを設立したんです。
今年の巨人軍の注目ポイント
澤井:それは斬新な考え方ですね! しかも実際に奥さんと娘さんの裏付けもあるわけですもんね(笑)
宮本:そうそう! そのためには女子チームをプロ化して収益化することが必要不可欠だね。現在は試合の入場料も取っていませんが、ゆくゆくはスポンサー契約やグッズ販売を手がけて、選手のために利益を出していかないといけない。あくまでも理想ですが、年収3000万円の選手が出てくるぐらいの規模に持っていきたいですね。
澤井:壮大な計画ですね。実は僕も1歳半の娘がいて、もし野球をやりたいと言ったら宮本さんの元でお世話になります!
宮本:もちろん、ぜひやってよ。僕も親御さんからそう言われることがすごく多くてね。夢のステージを作り上げていくことが僕のミッションだから。
澤井:最後にジャイアンツの今年の展望を聞きたいです!
宮本:おーそうだね。まあ今からネガティブなことを言ってもしょうがないからな(昨シーズンはセ・リーグ4位)。個人的にはようやく若手や中堅が育ってきたなという感覚ですね。投手陣も菅野(智之)と戸郷(翔征)に、外国人のグリフィンとビーディがいるでしょ。
あの4人が先発の柱になると思うので、そこが崩れなければある程度優勝争いができると思うんです。若手でいうと船追(大雅)は、魔の8回に入ってくれそうで楽しみですね。やはり1年間戦うには投手陣がしっかりしていないとダメなので、今後は中継ぎの層を厚くしていくことが大事でしょうね。打者だと、坂本(勇人)と岡本(和真)が状態をキープしてくれたら。ルーキーだと門脇(誠)に期待していますよ。
澤井:チームの雰囲気としてはどうですか?
宮本:(阿部)慎之助がヘッドコーチになったでしょ。他のコーチ陣は川相(昌弘)とか元木(大介)とか、みんな年上なんだよね。そうした中で慎之助がどうやってまとめていくかは見ものだね。組織のトップとしてどうまとめていくか。この辺りも注目ですね。
澤井:監督やコーチ陣も豪華ですもんね。僕も幼少期からずっとジャイアンツを追いかけていたので、当時現役の選手が教える側に回るとしみじみします! 今日はありがとうございました!
宮本:ありがとうございました!
聞き手・澤井直人(さわい・なおと)
1990年生。テレビの放送作家として活動。まつもtoなかい(フジテレビ) ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ(フジテレビ)NEOべしゃり博(フジテレビ)タクシー運転手さん一番うまい店に連れてって!(テレビ東京)ダウンタウン vs Z世代 ヤバイ昭和 あり?なし?(日本テレビ) サウナノフタリ(YouTube)コブクロ公式チャンネル (YouTube)などを担当。