大谷翔平

 野球日本代表「侍ジャパン」の快進撃で連日大きな盛り上がりを見せている第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。日本時間20日からは舞台をアメリカに移して4チームによる決勝ラウンドが始まるが、準々決勝までの“東京ラウンド”で、侍ジャパン以外で日本のファンに最も愛されたのが、WBC初出場のチェコ代表だった。

WBCで奮闘した二足のわらじ軍団・チェコ代表

 チェコは野球の強豪国ではない。それどころか、WBCに臨む代表ですら野球で食べているわけではないアマチュアリーグの選手が主体だ。

国内にプロリーグがないため、選手の大半が野球とは別の本職をもつ社会人と学生です。彼らは有給を使ってWBCに参加しており、中には有給が取れずに不参加となった選手もいます。大谷翔平が“二刀流”なら、チェコはさながら“二足のわらじ”軍団です」(スポーツ紙記者)

 昨年のWBC予選でチェコが下馬評を覆して見事本大会出場を決めたときは、世界中のファンから驚きの声とともに「シンデレラ・ストーリー」と応援の声が上がった。

 日本と同じ「1次リーグ・プールB」に入ったことで「監督の本業は神経科医」「エースが消防士」「キャプテンは金融アナリスト」といった情報がメディアで紹介され、たちまち日本のファンからも注目を浴びる。さらにチェコ大使館などが運営するチェコ共和国公式日本語ツイッターが独自の選手紹介を公開したことも大きな反響を呼んだ。

「外野手のドュボヴィーは『普段は体育と地理を教える熱血教師、フィールド上では熱血選手』、スモラ内野手は『普段は監査役として働き、フィールド上では三塁手。不正も盗塁も見逃さない』と紹介されるなど、愛情とユーモアたっぷりの選手名鑑がアップされたんです。これが『読めば読むほど応援したくなる』と話題になりました」(前出のスポーツ紙記者)

 そんなチェコ代表は東京ラウンドの初戦で中国代表と対戦すると、土壇場の9回に逆転ホームランが飛び出し歴史的なWBC初勝利を挙げる。その勢いで日本との試合に臨むも、日本が10-2で勝利したのはご存知の通りだ。しかし、その戦い方は見事で、点差以上に“善戦”と言えるものだった。

 日本の先発は昨シーズン史上最年少で完全試合を達成した佐々木朗希。佐々木は1回から160キロを超える速球を次々と投げ込むが、チェコは3番を打つ現役大学生のクラップが佐々木の163キロの直球をレフトに弾き返しツーベースとする。続く打者の打球を日本がエラーしクラップがホームに生還。なんとチェコが初回に先制点を挙げるまさかの展開となった。

 日本打線もチェコ先発サトリアを打ちあぐね、1番ヌートバー、2番近藤健介が連続三振。頼みの3番大谷も打ち取られ、初回を三者凡退に抑えられてしまう。結局3回裏に集中打で日本が3点を挙げて逆転するまで、チェコがリードして試合が進んだ。実は今大会で日本が1イニング以上相手にリードを許したのはこのチェコ戦だけだ。

佐々木朗希がチェコ打線を評価

 試合後、佐々木は多くの選手がアマチュアとは思えない鋭いスイングを見せたチェコ打線についてこう語っている。

《真っすぐも簡単に打たれましたし、すごい打線だったと思います》

 この試合、佐々木の162キロの速球がチェコのエスカラ選手の足を直撃するデッドボールになり、エスカラが倒れ込んでしまうというアクシデントがあった。しばらく痛そうにしていたエスカラだったが、その後立ち上がると、一塁付近で無事を確認するようにダッシュをしてみせる。心配そうに見つめる佐々木ら日本の選手に「大丈夫」とアピールするかのようなデモンストレーションに、観客からは大きな拍手が起こっていた。佐々木は降板する際、エスカラに向かって帽子を取り一礼している。

 こうしたフェアプレーや、明らかに格上である日本に全力プレーで挑むチェコの真摯な姿勢に対し、球場の観客からは惜しみない声援が送られ続けた。一方、試合終了時にはチェコがベンチも含めた全員で日本に対し祝福の拍手を送るシーンも見られた。チェコ代表は最後までスポーツマンシップ溢れる行動を見せていた。

 そんな礼儀正しさだけでなく、まるで野球少年のような初々しさや素朴でピュアな部分を持ち合わせていいるのも、チェコ代表が多くの日本人を虜にした要因だ。試合中も、ランナーとして三塁上にいた大谷にチェコの三塁手がまるで憧れの選手に会えたような面持ちで話しかけたり、サトリア投手が大谷から三振を奪った後、そのボールをベンチで誇らしげに掲げたり大事そうに握りしめたり、後日練習中の大谷を訪れそのボールにサインしてもらったり。

 大きな話題になった、佐々木朗希がデッドボールを当ててしまった選手のホテルを訪れて“お詫び”のお菓子を渡した際も、チェコ選手のほうが「こんなことをしてもらったのは初めて」と大感激。チームメートとお菓子を分け合って喜んだという。

 最終戦を終えた後の会見では、チェコのパベル・ハジム監督が日本への感謝の印として日の丸が描かれた鉢巻をつけて登場する一幕もあった。さらに帰国直前には、チェコの選手が東京ドームで練習中の日本代表を訪れ、大谷にチェコの選手のサインが入った代表ユニフォームを手渡すという交流も。

 大谷は彼らに自分のサインボールやサイン入バットをお返しとしてプレゼントしただけでなく、その後準決勝の舞台となるマイアミ入りした際にはチェコ代表のキャップを被って空港に姿を現し“友情”を示している。大谷はチェコについて、メディアにこう語っている。

《一番は野球を好きなんだなというのが一番尊敬できるところです。レベルうんぬん関係なく、スポーツ選手として試合を一緒に作っていく対戦相手としてのリスペクトを感じましたし、素晴らしい選手たちだと思いました》

 とはいえ、チェコ代表はただ純粋なだけでここまで勝ち上がれたわけではもちろんない。まだまだ国内ではメジャースポーツではない野球の発展のために、選手たちは必死に戦っていた。WBCに出場したことで、チェコ史上初となる野球のテレビ中継も行われたという。実際、今回の活躍で注目度は上がり、帰国した際には多くのメディアが殺到したそうだ。

 日本人の心を掴んだだけでなく、本国でもファンを増やした野球チェコ代表。「絶対また日本に来たい」と語っていたが、その約束がすぐ果たされることを期待したい。

2月16日に大谷翔平がインスタグラムにアップしたロッカーの写真。棚をよくみると化粧品が…

 

2月16日に大谷翔平がインスタグラムにアップしたロッカーの写真。棚を拡大しよくみると化粧品が…

 

大谷翔平との交際説が囁かれたカマラニ・ドゥン選手(インスタグラムより)

 

小学生時代の大谷翔平